騎士団長が大変です

曙なつき

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第二十三章 砕け散る魔剣

第六話 新たな魔獣の出現(下)

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「やはり、耐性があるのか」

 同行していたシュルフス魔術師長が呟いた。
 前回のイカの魔獣も、氷に対する属性を持っていた。そのために、“氷雪の剣”では倒せずに、王家から“双剣”を借りねば倒せなかったのだ。
 新たに現れる魔獣は、必ずその前の戦いで倒される原因となるものの耐性を持っていた。
 前回、雷撃で倒されたから、今回の魔獣は雷撃に耐性を持っている。改良されて魔獣達は呼び出されているようだった。

(このまま、毎回耐性をつけて魔獣が現れるようになれば、次第に倒すことは難しくなるぞ)

 魔獣は大きな鋏を振り上げる。それをハデス騎士団長に向けて下ろそうとしたその時、バーナードは腰から目にも見えぬ速さで剣を抜き去った。
 そして剣を一閃させ、右手の鋏の関節部分に斬りつける。地響きを立てて鋏の一つが落ちる。
 それはまさに神業の如くの一瞬の動きであった。

「こちらは私に任せてもらいたい」

 そうハデス騎士団長へ言うと、彼はその剣で、もう左手の鋏の関節を斬り落とした。
 バランスを崩して前に倒れる魔獣に、騎士達が斬りつけるように命じる。

「囲んで押さえ込め」

 バーナードの命令に、アルセウスから来た騎士達は「はい」と声を上げ、キビキビと剣を振り上げて魔獣を削っていく。よく連携の取れた動きであった。
 とはいえ、堅い甲殻を持つ魔獣であり、なかなか削り切れない。

「バーナード騎士団長のように、関節を狙ってください」

 そう言うレブランの言葉に、騎士達は従い、同行した魔術師達は騎士達に剣の威力を上げる魔法をかけていく。
 時間はかかったが、騎士達が魔獣の関節を落とし、やがて、その魔獣は地面に倒れて動きを止めたのだった。



 ハデス騎士団長は息も荒く、戦闘が終わった時にはガクリと膝をついていた。

「大丈夫ですか」

 そばにいたバーナード騎士団長が彼に手を差し出すと、その手を借りて立ち上がる。

「かたじけない」

「病み上がりですから、気を付けてください」

 そうは言っても、この目の前のアルセウスの騎士団長の平然としている様子はなんであろう。
 そしてあの動き。魔獣の鋏を斬り落とした時の動きは、あまりにも速くて目で捉えることはできなかった。

 最低限の動きで、的確に相手の弱いところを確実に攻撃していく。

 “剣豪”の称号を持ち、“王家の剣”、“騎士の中の騎士”と謳われる騎士団長は、レベルが違った。
 驚くほど強かった。
 これは確かに、別格の強さである。
 ランディアの騎士達は、尊敬と畏怖の眼差しでバーナード騎士団長を見ていた。
 
 同じように彼の戦いぶりを見ていた、レブランの護衛を務めるイザックは、小さく口笛を吹いていた。

「あの速さは素晴らしい。是非、一度手合わせをしてみたいものだ」

 単純に鋏を斬り落とすだけなら、自分でもできるだろう。
 だが、あの剣を抜いて振り下ろすまでの速さはとんでもない。そして目も良いし、判断力も素晴らしい。
 的確に、魔獣の関節を切断している。

 同意を求めるように、あるじであるレブランに目を遣った時、イザックは主の異変に気が付いた。
 レブランは、食い入るようにバーナード騎士団長の腰の剣を見つめていた。
 その視線が、剣から一時も離れることはなかった。



   *


 
 新たに現れた魔獣が倒されたことに、市民たちも喜びの声を上げた。
 その一方で、ランディアの魔術師や騎士達は、より改良されて現れる魔獣にどうしたものかと、素直に撃破を喜べない心境でもあった。
 今回の魔獣を倒したのはアルセウスから救援でやって来たバーナード騎士団長の力によるものである。
 彼はあと数日で母国へ帰国することが決まっている。
 強いその隣国の騎士団長を今後も頼ることは出来ない。
 一刻も早く、魔獣を呼び出している術者を捕まえない限りは、オチオチ魔獣を倒せたことを喜べない状況であった。
 

 バーナードら、アルセウスの騎士達は王宮の客室に宿泊をしている。
 国の危機にある中、わざわざやって来てくれた魔獣を倒してくれる強力な騎士達であるからして、女官や侍従達は彼らをこの上なくもてなそうとしていた。
 豪華な食事が用意され、綺麗どころの女官や侍従達が彼らのそばには侍るような状況に、内心バーナードは苦笑していた。
 できるだけ精一杯もてなしたいという彼らの気持ちは伝わってくる。

 そんな彼の元に、あのレブラン教授から面会の申し込みがされた。
 バーナードに付けられていた侍従からそれを伝えられた時、バーナードは一瞬、どうしたものかと考えた。だがすぐに、レブラン教授自身から、彼が自分をどう考えているのか直接聞くのも良いだろうと思い、彼の面会の申し込みを受け入れることにした。
 もちろんそこには、他の人間が大勢いる王宮であれば、レブランが自分に手を出すことはないであろうという計算もあったのだった。
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