騎士団長が大変です

曙なつき

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第二十三章 砕け散る魔剣

第五話 新たな魔獣の出現(上)

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 ランディア王国の王宮の会議室で、魔術師長がこれまで現れた魔獣や、その召喚に使われた魔法陣について詳細に説明をしていく。
 それを真剣な表情で聴いているバーナード騎士団長の姿を、レブランはじっと見つめていた。
 レブランのそばには二人の体格の良い男が控えていた。その二人は護衛であった。
 一人は常日頃、彼のそばで仕えているゼトゥという無口な大男である。見上げるほど大きい体躯を持つその男は、レブランに仕えて長く、忠誠心も厚かった。
 そしてもう一人は、ゼトゥほどの大男ではないが、イザックという名の若い男で、剣士であった。
 イザックはボソリと声を潜めて囁く。

「確かに、恐ろしいほどの“魔”を帯びていますね」

 そう、バーナード騎士団長はどう見ても人間とは思えない人物であった。
 だが、彼は人間として隣国の王家に仕えている。王立騎士団の騎士団長として働いている。
 もちろん、魔族の中にもその身を隠して、人間のそばで働いている者も多い。
 だが、レブランは長いこと人間の世界で暮らしていたが、彼のような高位魔族を今まで知らなかった。
 それゆえに、レブランがこの騎士団長のことを気に留めていることを知っていた。

「手は出さなくていい。彼がどれほど強いものなのか、お手並みを拝見しよう」

 そうレブランは言って、二人の護衛の男達に黙って見守るように命じた。



 アルセウスの騎士達は二週間の予定でこの国に滞在するという話だった。
 ランディア王国の騎士達に同行して、地下水路の見回りし、魔獣の出現を警戒する。
 もし二週間の間に魔獣が出現しなければ、一度アルセウスの騎士達は国へ帰ってしまうという。

 だから、不謹慎ではあるがレブランは、バーナード騎士団長がこの国にいる間に、魔獣がまた地下水路から現れることを期待していた。
 そしてバーナード騎士団長の手で、現れた魔獣を倒して欲しかった。
 あの黒髪の騎士団長が、どれほど強いものなのか、それをこの目でじかに見てみたかった。

 そんなレブランの不謹慎な願いは、彼らが来て九日目に叶うことになった。





 


 地下水路から巨大なエビのような生き物が這い上がってきたという報告が、地下水路を警戒していた騎士達から上がったのだ。
 すぐさま双剣を手にハデス騎士団長らが駆け付ける。

(タコ、イカと続いて、次はエビと来たか……本当に海の生き物ばかりだな)
 
 バーナード騎士団長もまた、ランディア王国の騎士達と一緒にそのエビの大型魔獣の前に立った。
 大きな鋏を掲げるそのエビは、馬鹿みたいに大きく、バーナード騎士団長は(確かに、こういう生き物が街で暴れてしまえば、大変な被害を被るだろう)と感じた。
 前回までのタコやイカの魔獣と違って、凶悪な鋏が両手にある。
 攻撃力がありそうだった。その鋏で人間など挟まれては真っ二つだろう。

 とりあえず、アルセウスの騎士達はランディアのハデス騎士団長の攻撃を待ってから、大型魔獣に攻撃を加えることを決めていた。
 ハデス騎士団長は、二つの剣をスラリと鞘から抜き、両手に構えた。
 事前に魔石で魔力は込めているので、双剣の雷撃を使ったとしても魔力不足に陥ることはない。

 どこか湾曲したその刃は、今は青白い光に包まれている。それを騎士達は畏れるような眼差しで見つめていた。

(これがランディア王国の王家に伝わる“双剣”か)

 二つの剣の刃を触れ合わせると、雷が発生し、それで敵を撃滅するという魔剣であった。

(この魔剣は、剣で戦うものではなく、雷撃を発する“魔道具”といっても良いものだな)

 バーナード騎士団長は、その双剣を興味津々と見つめている。
 いつの間にかそばまでやって来ていたレブラン教授が、彼に説明するように言った。

「あの二つの刃が触れ合うと同時に、雷が生じます。ただの人間では、一回か、二回程度しかあの剣を振るうことはできないでしょうね。魔力を相当消費するものです」

「…………」

 バーナードは黙って、教授の言葉を傾聴する。

「ただ、雷撃としては絶大な威力を持っています。魔術師達のふるう雷撃の魔術の数十倍の威力があるでしょう。耐性がない限りは、一撃で倒されるはずです」

 ハデス騎士団長は、二つの剣の刃を触れ合わせる。途端、白い雷撃が凄まじい轟音と共に、その大型魔獣の頭上に落とされた。
 空気がビリビリと震えて、地面は黒く焦げてシュウシュウと煙を上げている。

 だが、そのエビの大型魔獣は雷撃を受けてなお、動いていたのだった。
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