騎士団長が大変です

曙なつき

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第二十一章 水路に潜むものと氷雪の剣

第五話 氷雪の剣(下)

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 時は遡り、魔剣を借り受けるため、朝も早くに屋敷へ帰宅したラーシェ。
 戻るや否や、彼は真っ直ぐにレブランのいる書斎へ足を運ぶ。
 いつも彼はそこで仕事をしている。ほとんどの時間、そこで暇をつぶしているのだ。

 長い時を生き続ける吸血鬼であるレブラン。
 彼は知識に貪欲であり、数多の書籍を読み耽っていた。魔術も極め、それゆえに魔法学の大家として人間達に祭り上げられているほどだった。
 時間だけは腐るほどあるから、そういうことができる。
 もし、生きる時間に限界のある人間ならばそうはいかないだろう。

 そして彼は魔剣の収集家コレクターでもあった。
 金に糸目をつけずに買い漁っているために、教授は魔剣であれば一見、何でも良いように見えるだろう。
 だが、そうではないことをラーシェは知っていた。
 彼は、を求めていた。その魔剣を得るために、他の魔剣も買い漁っているだけの話だった。
 その姿が貪欲な収集家に見えるのだろう。

 レブランの配下の者達は、レブランが買い求めた魔剣を壁に掛けて整然と並べて飾っている。埃などつかぬように気を配り、剣もピカピカに磨き立てている。
 レブランのコレクションルームに入った者達は皆、その数とラインナップに驚愕する。
 けれど、目的のものではなかった魔剣は、いかにそれが高価な金額をはたいたものだとしても、レブランは全く興味を持っていないようだった。
 壁に飾られている魔剣のほとんどに、レブランは興味を持っていなかった。
 目当てのものでなかった時点で、彼の視界から外れていく。意識の欠片すら留めていない。

 でも、たとえレブランにとってそれらが価値のないものだとしても、普通の人間にとっては違う。
 その中の魔剣なら、きっとレブランは貸し出しを許してくれるだろう。
 いや、望めば、貸すどころか、タダでくれることもあるかも知れない。

 そう思って、ラーシェはレブランの書斎の扉をノックもさせずに開けた。
 案の定、銀髪の教授は椅子に座って本を読んでいた。
 ラーシェが入室してきたことに、片眉を上げて尋ねる。

「どうした?」

「レブランの、コレクションルームの魔剣を一本もらってもいい?」

「……ああ、構わない」

 あっさりと、魔剣を手放すという。

「ありがとう」

 それに素直に礼を言うと、レブランは本を閉じて彼に言った。

「ハデス騎士団長に渡すのか?」

 レブランの耳にはとうに、自分とハデス騎士団長の関係が報告されているだろうと思っていたラーシェは、驚く表情も見せずに頷いた。

「そう」

「なら、お前が拠点に届けるのではなく、私からの使いを出して、届けてやろう」

 情人であるラーシェが魔剣を届けに行くことの外聞の悪さを、レブランは理解していた。そして気を回してくれているのだ。

「ありがとう」

 その配慮についても素直にラーシェは礼を述べた。
 ただ一方で、自分とハデス騎士団長との情人関係を彼は全く咎めることもしないのだなと思った。
 それはそうだろう。レブランはラーシェのことを何とも思っていない。
 だから、嫉妬もせず、怒りもせず、悲しむこともしない。淡々と処理するだけだ。
 ただ、自分はそれだけの存在だから。
 
 胸の奥から軋むような音が聞こえた。

 もうとうに、諦めているはずなのに。
 それでも心のどこかで、彼から愛されたいと願っている。
 ハデスの手を取りながらも、もう一方の手で、レブランの手を掴みたいと思う自分は、やっぱりどこかおかしいのだろう。
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