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第二十章 見失った称号と“夜の君”
第七話 夜の君(下)
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ハデスは真面目な性格をしているのか、何人もの男や女達と同時に乱交をすることには抵抗があるようで、僕と会う時は、二人だけで過ごすことを求めた。
そんな願いを叶えることくらい、別に大したことではない。
非常にいい身体を持つハデスのことを、僕も結構気に入っていたのだった。
ハデスは、僕がレブラン=リヒテンシュタイン伯爵の養い子であると知って驚いていた。
「伯爵が、綺麗な子を大事に囲っていると聞いていたが、君だったのか」
そう言うハデスの大きな手に僕は頬をすりつけるようにして、それからペロリと舐めた。
「レブランのことを知っているの?」
「それは、この王国の貴族に名を連ねる者で、彼の名を知らぬ者はいないだろう。教授の役職にあり、国でも有数の資産家で、その上あの美貌だ」
ハデスは僕を、目を細めて見つめる。
その目に、嫉妬があることに気が付いて、僕は笑った。
「レブランはただの保護者だよ。貴方としているようなことをしたことは、ただの一度もない」
そう、一度もない。
そのことには、胸を張れる。
けれどハデスはどこか疑わしいような目で僕を見ていた。
もうその頃には、ハデスは、この娼館で、男という男や、女という女と、寝ていた僕の評判を知っていたのだ。
この国の騎士団長の地位にあり、それ相応の貴族の地位を持つその男は、僕の顎を持ち、そしてまた柔らかな唇を貪った。
それから言った。
「貴方は“夜の君”と呼ばれていると聞いた。この長い黒髪に、紫色の瞳、美しい貴方はその呼び名にふさわしいと思う」
「そう、光栄だな」
娼館でそう呼ばれていることを僕は知っていた。
毎夜の如く、夜になれば現れ、男女問わずに閨に引き込む、あたかも魔性のような美しい若い男。
実際、精力を吸い取られ、半死半生になった者もいたけれど、娼館の主人がこっそりと彼らの手当をしているようだ。
そして存分に与えられる金のために、主人はその奇異な出来事に目を瞑っている。
日に焼けることのない真っ白い肌、男なのに、まるで女の肌のように柔らかく、しっとりと吸いつくような極上の肌。
一流の男娼と言ってもよい、その性の手管に慣れ切った淫らな肢体。
まさに夜に生きる“夜の君”だった。
僕も、僕にふさわしいその呼び名を気に入っていた。
笑みを浮かべ、ハデスの逞しい身体に身を寄せ、彼の唇に口づけた。
ハデス騎士団長は、美しい妻を持ち、優秀な騎士である子供も三人いる。
立派な家庭を持つ、立派な貴族の騎士だった。
なのに、ここしばらくはずっと、僕のいる娼館通いを続けている。
娼館通いにハマってしまった真面目な騎士様。
愚かな逞しい騎士。
娼館にハマったというよりも、この僕にすっかり夢中になってしまった男。
でも彼は、レブランとは違って、僕を抱いて愛して、甘やかしてくれる。
この上なく大切なもののように触れてくれる。
たくさんたくさん、愛をくれる。胸いっぱいの愛を囁いてくれる。
ハデス騎士団長に悪い噂が立つようになったので、僕はハデスに娼館ではなく、別の場所で会うようにしようと言った。
そう言うと、ハデスは僕の為に、小さな邸宅を用意した。
そこで今も僕は、彼と会い、彼と寝ているのだった。
そのことを、レブランは知っている。
知っていてもなお、口を出すことはない。
そういう人だった。
そんな願いを叶えることくらい、別に大したことではない。
非常にいい身体を持つハデスのことを、僕も結構気に入っていたのだった。
ハデスは、僕がレブラン=リヒテンシュタイン伯爵の養い子であると知って驚いていた。
「伯爵が、綺麗な子を大事に囲っていると聞いていたが、君だったのか」
そう言うハデスの大きな手に僕は頬をすりつけるようにして、それからペロリと舐めた。
「レブランのことを知っているの?」
「それは、この王国の貴族に名を連ねる者で、彼の名を知らぬ者はいないだろう。教授の役職にあり、国でも有数の資産家で、その上あの美貌だ」
ハデスは僕を、目を細めて見つめる。
その目に、嫉妬があることに気が付いて、僕は笑った。
「レブランはただの保護者だよ。貴方としているようなことをしたことは、ただの一度もない」
そう、一度もない。
そのことには、胸を張れる。
けれどハデスはどこか疑わしいような目で僕を見ていた。
もうその頃には、ハデスは、この娼館で、男という男や、女という女と、寝ていた僕の評判を知っていたのだ。
この国の騎士団長の地位にあり、それ相応の貴族の地位を持つその男は、僕の顎を持ち、そしてまた柔らかな唇を貪った。
それから言った。
「貴方は“夜の君”と呼ばれていると聞いた。この長い黒髪に、紫色の瞳、美しい貴方はその呼び名にふさわしいと思う」
「そう、光栄だな」
娼館でそう呼ばれていることを僕は知っていた。
毎夜の如く、夜になれば現れ、男女問わずに閨に引き込む、あたかも魔性のような美しい若い男。
実際、精力を吸い取られ、半死半生になった者もいたけれど、娼館の主人がこっそりと彼らの手当をしているようだ。
そして存分に与えられる金のために、主人はその奇異な出来事に目を瞑っている。
日に焼けることのない真っ白い肌、男なのに、まるで女の肌のように柔らかく、しっとりと吸いつくような極上の肌。
一流の男娼と言ってもよい、その性の手管に慣れ切った淫らな肢体。
まさに夜に生きる“夜の君”だった。
僕も、僕にふさわしいその呼び名を気に入っていた。
笑みを浮かべ、ハデスの逞しい身体に身を寄せ、彼の唇に口づけた。
ハデス騎士団長は、美しい妻を持ち、優秀な騎士である子供も三人いる。
立派な家庭を持つ、立派な貴族の騎士だった。
なのに、ここしばらくはずっと、僕のいる娼館通いを続けている。
娼館通いにハマってしまった真面目な騎士様。
愚かな逞しい騎士。
娼館にハマったというよりも、この僕にすっかり夢中になってしまった男。
でも彼は、レブランとは違って、僕を抱いて愛して、甘やかしてくれる。
この上なく大切なもののように触れてくれる。
たくさんたくさん、愛をくれる。胸いっぱいの愛を囁いてくれる。
ハデス騎士団長に悪い噂が立つようになったので、僕はハデスに娼館ではなく、別の場所で会うようにしようと言った。
そう言うと、ハデスは僕の為に、小さな邸宅を用意した。
そこで今も僕は、彼と会い、彼と寝ているのだった。
そのことを、レブランは知っている。
知っていてもなお、口を出すことはない。
そういう人だった。
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