騎士団長が大変です

曙なつき

文字の大きさ
上 下
318 / 568
第二十章 見失った称号と“夜の君”

第七話 夜の君(下)

しおりを挟む
 ハデスは真面目な性格をしているのか、何人もの男や女達と同時に乱交をすることには抵抗があるようで、僕と会う時は、二人だけで過ごすことを求めた。
 そんな願いを叶えることくらい、別に大したことではない。
 非常にいい身体を持つハデスのことを、僕も結構気に入っていたのだった。

 ハデスは、僕がレブラン=リヒテンシュタイン伯爵の養い子であると知って驚いていた。
 
「伯爵が、綺麗な子を大事に囲っていると聞いていたが、君だったのか」

 そう言うハデスの大きな手に僕は頬をすりつけるようにして、それからペロリと舐めた。

「レブランのことを知っているの?」

「それは、この王国の貴族に名を連ねる者で、彼の名を知らぬ者はいないだろう。教授の役職にあり、国でも有数の資産家で、その上あの美貌だ」

 ハデスは僕を、目を細めて見つめる。
 その目に、嫉妬があることに気が付いて、僕は笑った。

「レブランはただの保護者だよ。貴方としているようなことをしたことは、ただの一度もない」

 そう、一度もない。
 そのことには、胸を張れる。
 けれどハデスはどこか疑わしいような目で僕を見ていた。
 もうその頃には、ハデスは、この娼館で、男という男や、女という女と、寝ていた僕の評判を知っていたのだ。

 この国の騎士団長の地位にあり、それ相応の貴族の地位を持つその男は、僕の顎を持ち、そしてまた柔らかな唇を貪った。
 それから言った。

「貴方は“夜の君”と呼ばれていると聞いた。この長い黒髪に、紫色の瞳、美しい貴方はその呼び名にふさわしいと思う」

「そう、光栄だな」

 娼館でそう呼ばれていることを僕は知っていた。
 毎夜の如く、夜になれば現れ、男女問わずに閨に引き込む、あたかも魔性のような美しい若い男。
 実際、精力を吸い取られ、半死半生になった者もいたけれど、娼館の主人がこっそりと彼らの手当をしているようだ。
 そして存分に与えられる金のために、主人はその奇異な出来事に目を瞑っている。

 日に焼けることのない真っ白い肌、男なのに、まるで女の肌のように柔らかく、しっとりと吸いつくような極上の肌。
 一流の男娼と言ってもよい、その性の手管に慣れ切った淫らな肢体。
 まさに夜に生きる“夜の君”だった。

 僕も、僕にふさわしいその呼び名を気に入っていた。
 笑みを浮かべ、ハデスの逞しい身体に身を寄せ、彼の唇に口づけた。




 ハデス騎士団長は、美しい妻を持ち、優秀な騎士である子供も三人いる。
 立派な家庭を持つ、立派な貴族の騎士だった。
 なのに、ここしばらくはずっと、僕のいる娼館通いを続けている。
 
 娼館通いにハマってしまった真面目な騎士様。
 愚かな逞しい騎士。
 娼館にハマったというよりも、この僕にすっかり夢中になってしまった男。
 
 でも彼は、レブランとは違って、僕を抱いて愛して、甘やかしてくれる。
 この上なく大切なもののように触れてくれる。
 たくさんたくさん、愛をくれる。胸いっぱいの愛を囁いてくれる。

 ハデス騎士団長に悪い噂が立つようになったので、僕はハデスに娼館ではなく、別の場所で会うようにしようと言った。
 そう言うと、ハデスは僕の為に、小さな邸宅を用意した。

 そこで今も僕は、彼と会い、彼と寝ているのだった。





 そのことを、レブランは知っている。
 知っていてもなお、口を出すことはない。
 そういう人だった。
しおりを挟む
感想 195

あなたにおすすめの小説

完結・虐げられオメガ妃なので敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

無冠の皇帝

有喜多亜里
BL
「連邦」、「連合」に次ぐ銀河系内の第三勢力「帝国」。その宗主であった「連合」五星系の一つザイン星系は「帝国」の再植民地化をもくろみ侵攻しようとするも「帝国」宇宙軍と皇帝軍護衛艦隊に阻まれる。「帝国」の元皇太子アーウィンが司令官を務める皇帝軍護衛艦隊の鉄則はただ一つ。〝全艦殲滅〟。――なーんて感じの「なんちゃってSF」。コメディ寄りのボーイズラブ(自称)。大佐(変態だけどまとも)×元皇太子(ツンデレストーカー)。 ---- ◆BOOTH様で同人誌を通販しています。既刊4冊(https://aarikita.booth.pm/)。 ◆表紙はかんたん表紙メーカー様で作成いたしました。ありがとうございました(2023/03/16)。 ---- ◆「第11回BL小説大賞」(2023)で奨励賞をいただきました。ありがとうございました。 ◆「第12回BL大賞」(2024)で奨励賞をいただきました。ありがとうございました。

王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)

かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。 はい? 自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが? しかも、男なんですが? BL初挑戦! ヌルイです。 王子目線追加しました。 沢山の方に読んでいただき、感謝します!! 6月3日、BL部門日間1位になりました。 ありがとうございます!!!

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

処理中です...