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第十八章 リンゴ狩り
第八話 リンゴ後日談(下) ~商業ギルド長の接触とオークションの開催~
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バーナード騎士団長が、騎士団でリンゴを配りまくり、そして王太子殿下にもそのリンゴを献上したことにより、彼が素晴らしい効能を持つリンゴを持っていることは瞬く間に世に知られるようになった。
ほどなくして、この王都にある商業ギルド長が、騎士団の拠点に面会の予約を入れて、訪ねてきた。
アルセウス王国王都担当商業ギルド長バナンは、王立騎士団騎士団長バーナードと、副騎士団長フィリップを前に頭を下げていた。
「お持ちのリンゴを是非、商業ギルドに売って頂きたい」
挨拶もそこそこ、そう言ってバナンは頭を深々と下げて来た。
バナンの元には、国内の貴族達から、せっつくようにリンゴの入手の依頼が入っていたのだ。
それも一件や二件という数ではなかった。特に妙齢の貴族令嬢のいる者からの依頼が殺到していると言っていい。
バーナード騎士団長とフィリップ副騎士団長は顔を見合わせる。
商業ギルド長から面会の申し出が入った時から、フィリップが予想していた展開であった。
フィリップが、商業ギルド長に言った。
「五箱、ご提供することができます。ただし、オークション形式で売りたいと思います」
それに、バナンは驚いて顔を上げた。
「オークション形式ですか」
「はい」
「…………わかりました」
希少なリンゴである。その要求を飲むしかない。
バナンは再度頭を下げ、後日、オークションの出品のために打ち合わせにやってくると言った。
「本当にやるつもりなのか」
商業ギルド長が退出した後、会合の間挨拶以外、ほとんど口を開かなかったバーナードが聞くと、フィリップは頷いた。
「オークションに参加して落札してもらった方がある意味、公平です。手に入れられなかったとしても、それは入札額の問題になります。欲しければ入札するでしょう」
「十箱もまだ手許に残っているのに、五箱しか出品しないとはな」
「その十箱は、私とバーナードのものです。リンゴの香りのする貴方を抱く喜びは、この上ないですから。五箱だって別に出さなくてもいいくらいなのですよ」
椅子に座るバーナードの首元に顔を寄せ、スンと副騎士団長はその香りを嗅ぐ。
バーナードは頬を赤く染めて、副騎士団長に言った。
「業務中はよせ」
「リンゴの香りがする貴方は素敵です。来年も、ムクドリ退治にいってもいいですね」
「……………」
そう、フィリップはリンゴを食べてその身にほのかなリンゴの香りをまとうようになったバーナードのことを気に入っていた。
嗅覚の優れた人狼である彼にとって、香りは歓びの重要な要素なのだろう。
「マグルも言っていました。妊娠中で、食欲が落ちているカトリーヌがリンゴはよく食べてくれると。彼らも気に入ったようですよ」
「……団員達も気に入ったようだしな」
二十箱持ち込んだそれはあっという間に無くなってしまった。
あれだけ部下達も喜んで食べていたのだ。来年も彼らのために用意できるようにした方がいいだろう。
そして商業ギルド長がオークションにかけたそのリンゴは、一箱百五十万クランという高値に吊り上がり、騎士団長を驚かせた。
七百五十万クランも手に入れることになった騎士団長は「こんなあぶく銭は騎士団の飲み代に充当しろ」と命じて、しばらくの間、王立騎士団は飲み代に困ることはなかったという。
ほどなくして、この王都にある商業ギルド長が、騎士団の拠点に面会の予約を入れて、訪ねてきた。
アルセウス王国王都担当商業ギルド長バナンは、王立騎士団騎士団長バーナードと、副騎士団長フィリップを前に頭を下げていた。
「お持ちのリンゴを是非、商業ギルドに売って頂きたい」
挨拶もそこそこ、そう言ってバナンは頭を深々と下げて来た。
バナンの元には、国内の貴族達から、せっつくようにリンゴの入手の依頼が入っていたのだ。
それも一件や二件という数ではなかった。特に妙齢の貴族令嬢のいる者からの依頼が殺到していると言っていい。
バーナード騎士団長とフィリップ副騎士団長は顔を見合わせる。
商業ギルド長から面会の申し出が入った時から、フィリップが予想していた展開であった。
フィリップが、商業ギルド長に言った。
「五箱、ご提供することができます。ただし、オークション形式で売りたいと思います」
それに、バナンは驚いて顔を上げた。
「オークション形式ですか」
「はい」
「…………わかりました」
希少なリンゴである。その要求を飲むしかない。
バナンは再度頭を下げ、後日、オークションの出品のために打ち合わせにやってくると言った。
「本当にやるつもりなのか」
商業ギルド長が退出した後、会合の間挨拶以外、ほとんど口を開かなかったバーナードが聞くと、フィリップは頷いた。
「オークションに参加して落札してもらった方がある意味、公平です。手に入れられなかったとしても、それは入札額の問題になります。欲しければ入札するでしょう」
「十箱もまだ手許に残っているのに、五箱しか出品しないとはな」
「その十箱は、私とバーナードのものです。リンゴの香りのする貴方を抱く喜びは、この上ないですから。五箱だって別に出さなくてもいいくらいなのですよ」
椅子に座るバーナードの首元に顔を寄せ、スンと副騎士団長はその香りを嗅ぐ。
バーナードは頬を赤く染めて、副騎士団長に言った。
「業務中はよせ」
「リンゴの香りがする貴方は素敵です。来年も、ムクドリ退治にいってもいいですね」
「……………」
そう、フィリップはリンゴを食べてその身にほのかなリンゴの香りをまとうようになったバーナードのことを気に入っていた。
嗅覚の優れた人狼である彼にとって、香りは歓びの重要な要素なのだろう。
「マグルも言っていました。妊娠中で、食欲が落ちているカトリーヌがリンゴはよく食べてくれると。彼らも気に入ったようですよ」
「……団員達も気に入ったようだしな」
二十箱持ち込んだそれはあっという間に無くなってしまった。
あれだけ部下達も喜んで食べていたのだ。来年も彼らのために用意できるようにした方がいいだろう。
そして商業ギルド長がオークションにかけたそのリンゴは、一箱百五十万クランという高値に吊り上がり、騎士団長を驚かせた。
七百五十万クランも手に入れることになった騎士団長は「こんなあぶく銭は騎士団の飲み代に充当しろ」と命じて、しばらくの間、王立騎士団は飲み代に困ることはなかったという。
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