296 / 560
第十八章 リンゴ狩り
第四話 選べる武器と密かに立ったフラグ
しおりを挟む
翌朝、この日はいよいよ果樹園に出没する鳥の魔獣を討伐する日であった。
出立前、妖精王子は一行の前の長テーブルの上に、剣などの武器をずらりと並べて見せた。
いずれの武器も年季の入ったものばかりである。古びてくすんでいるものも多い。
妖精王子は言った。
「妖精達は光ものが好きで、よく人間達の世界からこういった武器の類も運んできます」
内心、光ものが好きなどとは、妖精はカラスかと思ったバーナードであったが、賢明にも口には出さなかった。
古いものの中には、錆びたり、欠けたりしているものまである。だが、十分使用に耐えうる立派な剣も幾つかあった。
「武器はお持ちでしょうが、もしこの中からも、気に入ったものがあれば是非お持ちになって下さい」
そこでバーナードとフィリップは、テーブルの上に並ぶ古びた剣の数々を手に取り見比べ始めた。
多くがガラクタと言えるものだった。
だが、バーナードはそのうちの一本に目をつけた。
真っ白い珠が柄に嵌っている剣である。鞘から抜いても、刀身は錆びついてはおらず、鏡のように輝いて見えた。
妖精王子が言った。
「その剣は悪くないものです。貴方の国の、あの竜剣ほどではありませんが、ある程度斬る力がある剣です。ただ、刀身が持たぬようで、使ってあと数回というところでしょう」
「……それはどういう意味でしょうか」
バーナードの問いかけに、妖精王子は続けて言った。
「そのままの意味です。あと数回使えば、刀身が砕け散るでしょう。宝珠の力が強すぎるのです。それでも名工と呼ばれるものが作り上げた剣です。惜しいですが、そう持たない剣です」
バーナードは「ふむ」と言って、剣を何度か振ったり、鞘から出す動作をしていた。気に入ったようだ。
「こちらを頂こうと思う」
「持たない剣ですが、よろしいのですね」
「はい。自分の剣も持って来ておりますので、こちらはここぞという時に使わせていただこうかと思います」
ディーターは剣には興味がないようで、小さな妖精達と戯れていた。
フィリップは長い弓を手にしていた。
「私はこちらにしようと思います。鳥が相手ですので、弓が良いです」
他に矢と矢筒を手にしている。
それにバーナードは頷いた。
「そうだな。矢で射てくれると助かる」
「はい」
そして準備の整った一行は、果樹園に向けて出立したのであった。
妖精王子は馬も用意してくれており、皆、馬を駆けさせて果樹園への道を進む。
道案内に立つのは、いつもご隠居様の元へ案内をしてくれる、お仕着せを着た妖精である。
「今日も、果樹園にはムクドリ達が押し寄せて来ているそうです。妖精達が必死にリンゴを守ろうと戦っているとのことです」
(妖精達でも戦うのか)と、バーナードはフィリップと顔を見合わせる。
いつものんべんだらりと遊んでいる、快楽主義者のようなあの妖精達が、戦いに挑む姿はなかなか想像がつかなかった。
その疑問をそのままマグルがぶつけていた。
「どうやって、妖精達はムクドリと戦うんですか」
「石をぶつけたり、魔法を使ったりして、とにかく追い払おうとします。運が悪いものは、ムクドリに喰われてしまうようですが」
淡々と話すが、結構エグイ話であった。
あんな可愛らしい小さな妖精であるのに、戦いに負けるとムクドリにパックリと喰われてしまうのだ。
それには、「うわっ」と声を上げてマグルは口を押さえていた。
「……ムクドリに食べられてしまった妖精達はどうなるんですか」
「消化されます」
そのものズバリの回答で、まったく救いがなかった。
「大丈夫だよ。俺がやっつけてやる」
ディーターは緑色の瞳を光らせて、獰猛な笑みを浮かべた。
「鳥なんざ、俺が全部倒してやるからな!! そうだ。最初は俺に任せろ。バーナード達は俺がやるのを見てから、戦うがいい。戦闘種族と呼ばれる人狼族の戦い方を見せてやるぜ!!」
実際、人狼族の戦い方に興味があったバーナードとフィリップは、頷いた。
「わかった。人狼の戦いぶり、しかと見せてもらおう」
「ああ、任せてくれ!!」
ディーターはキラリと歯を光らせて、笑みを浮かべた。
そんなディーターを見て、マグルがぼそりと呟いていた。
「なんか……なんかフラグが立ったような気がするのは、僕だけかな?」
出立前、妖精王子は一行の前の長テーブルの上に、剣などの武器をずらりと並べて見せた。
いずれの武器も年季の入ったものばかりである。古びてくすんでいるものも多い。
妖精王子は言った。
「妖精達は光ものが好きで、よく人間達の世界からこういった武器の類も運んできます」
内心、光ものが好きなどとは、妖精はカラスかと思ったバーナードであったが、賢明にも口には出さなかった。
古いものの中には、錆びたり、欠けたりしているものまである。だが、十分使用に耐えうる立派な剣も幾つかあった。
「武器はお持ちでしょうが、もしこの中からも、気に入ったものがあれば是非お持ちになって下さい」
そこでバーナードとフィリップは、テーブルの上に並ぶ古びた剣の数々を手に取り見比べ始めた。
多くがガラクタと言えるものだった。
だが、バーナードはそのうちの一本に目をつけた。
真っ白い珠が柄に嵌っている剣である。鞘から抜いても、刀身は錆びついてはおらず、鏡のように輝いて見えた。
妖精王子が言った。
「その剣は悪くないものです。貴方の国の、あの竜剣ほどではありませんが、ある程度斬る力がある剣です。ただ、刀身が持たぬようで、使ってあと数回というところでしょう」
「……それはどういう意味でしょうか」
バーナードの問いかけに、妖精王子は続けて言った。
「そのままの意味です。あと数回使えば、刀身が砕け散るでしょう。宝珠の力が強すぎるのです。それでも名工と呼ばれるものが作り上げた剣です。惜しいですが、そう持たない剣です」
バーナードは「ふむ」と言って、剣を何度か振ったり、鞘から出す動作をしていた。気に入ったようだ。
「こちらを頂こうと思う」
「持たない剣ですが、よろしいのですね」
「はい。自分の剣も持って来ておりますので、こちらはここぞという時に使わせていただこうかと思います」
ディーターは剣には興味がないようで、小さな妖精達と戯れていた。
フィリップは長い弓を手にしていた。
「私はこちらにしようと思います。鳥が相手ですので、弓が良いです」
他に矢と矢筒を手にしている。
それにバーナードは頷いた。
「そうだな。矢で射てくれると助かる」
「はい」
そして準備の整った一行は、果樹園に向けて出立したのであった。
妖精王子は馬も用意してくれており、皆、馬を駆けさせて果樹園への道を進む。
道案内に立つのは、いつもご隠居様の元へ案内をしてくれる、お仕着せを着た妖精である。
「今日も、果樹園にはムクドリ達が押し寄せて来ているそうです。妖精達が必死にリンゴを守ろうと戦っているとのことです」
(妖精達でも戦うのか)と、バーナードはフィリップと顔を見合わせる。
いつものんべんだらりと遊んでいる、快楽主義者のようなあの妖精達が、戦いに挑む姿はなかなか想像がつかなかった。
その疑問をそのままマグルがぶつけていた。
「どうやって、妖精達はムクドリと戦うんですか」
「石をぶつけたり、魔法を使ったりして、とにかく追い払おうとします。運が悪いものは、ムクドリに喰われてしまうようですが」
淡々と話すが、結構エグイ話であった。
あんな可愛らしい小さな妖精であるのに、戦いに負けるとムクドリにパックリと喰われてしまうのだ。
それには、「うわっ」と声を上げてマグルは口を押さえていた。
「……ムクドリに食べられてしまった妖精達はどうなるんですか」
「消化されます」
そのものズバリの回答で、まったく救いがなかった。
「大丈夫だよ。俺がやっつけてやる」
ディーターは緑色の瞳を光らせて、獰猛な笑みを浮かべた。
「鳥なんざ、俺が全部倒してやるからな!! そうだ。最初は俺に任せろ。バーナード達は俺がやるのを見てから、戦うがいい。戦闘種族と呼ばれる人狼族の戦い方を見せてやるぜ!!」
実際、人狼族の戦い方に興味があったバーナードとフィリップは、頷いた。
「わかった。人狼の戦いぶり、しかと見せてもらおう」
「ああ、任せてくれ!!」
ディーターはキラリと歯を光らせて、笑みを浮かべた。
そんなディーターを見て、マグルがぼそりと呟いていた。
「なんか……なんかフラグが立ったような気がするのは、僕だけかな?」
20
お気に入りに追加
1,131
あなたにおすすめの小説
LV1魔王に転生したおっさん絵師の異世界スローライフ~世界征服は完了してたので二次嫁そっくりの女騎士さんと平和な世界を満喫します~
東雲飛鶴
ファンタジー
●実は「魔王のひ孫」だった初心者魔王が本物魔王を目指す、まったりストーリー●
►30才、フリーター兼同人作家の俺は、いきなり魔王に殺されて、異世界に魔王の身代わりとして転生。
俺の愛する二次嫁そっくりな女騎士さんを拉致って、魔王城で繰り広げられるラブコメ展開。
しかし、俺の嫁はそんな女じゃねえよ!!
理想と現実に揺れる俺と、軟禁生活でなげやりな女騎士さん、二人の気持ちはどこに向かうのか――。『一巻お茶の間編あらすじ』
►長い大戦のために枯渇した国庫を元に戻すため、金策をしにダンジョンに潜った魔王一行。
魔王は全ての魔法が使えるけど、全てLV1未満でPTのお荷物に。
下へ下へと進むPTだったが、ダンジョン最深部では未知の生物が大量発生していた。このままでは魔王国に危害が及ぶ。
魔王たちが原因を究明すべく更に進むと、そこは別の異世界に通じていた。
謎の生物、崩壊寸前な別の異世界、一巻から一転、アクションありドラマありの本格ファンタジー。『二巻ダンジョン編あらすじ』
(この世界の魔族はまるマ的なものです)
※ただいま第二巻、ダンジョン編連載中!※
※第一巻、お茶の間編完結しました!※
舞台……魔族の国。主に城内お茶の間。もしくはダンジョン。
登場人物……元同人作家の初心者魔王、あやうく悪役令嬢になるところだった女騎士、マッドな兎耳薬師、城に住み着いている古竜神、女賞金稼ぎと魔族の黒騎士カップル、アラサークールメイド&ティーン中二メイド、ガチムチ親衛隊長、ダンジョンに出会いを求める剣士、料理好きなドワーフ、からくり人形、エロエロ女吸血鬼、幽霊執事、親衛隊一行、宰相等々。
HJ大賞2020後期一次通過・カクヨム併載
【HOTランキング二位ありがとうございます!:11/21】
さがしもの
猫谷 一禾
BL
策士な風紀副委員長✕意地っ張り親衛隊員
(山岡 央歌)✕(森 里葉)
〖この気持ちに気づくまで〗のスピンオフ作品です
読んでいなくても大丈夫です。
家庭の事情でお金持ちに引き取られることになった少年時代。今までの環境と異なり困惑する日々……
そんな中で出会った彼……
切なさを目指して書きたいです。
予定ではR18要素は少ないです。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
天涯孤独な天才科学者、憧れの異世界ゲートを開発して騎士団長に溺愛される。
竜鳴躍
BL
年下イケメン騎士団長×自力で異世界に行く系天然不遇美人天才科学者のはわはわラブ。
天涯孤独な天才科学者・須藤嵐は子どもの頃から憧れた異世界に行くため、別次元を開くゲートを開発した。
チートなし、チート級の頭脳はあり!?実は美人らしい主人公は保護した騎士団長に溺愛される。
目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件
水野七緒
BL
一見チャラそうだけど、根はマジメな男子高校生・星井夏樹。
そんな彼が、ある日、現代とよく似た「別の世界(パラレルワールド)」の夏樹と入れ替わることに。
この世界の夏樹は、浮気性な上に「妹の彼氏」とお付き合いしているようで…?
※終わり方が2種類あります。9話目から分岐します。※続編「目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件」連載中です(2022.8.14)
その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました
海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。
しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。
偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。
御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。
これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。
【7/27完結しました。読んでいただいてありがとうございました。】
【続編も8/17完結しました。】
「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785
↑この続編は、R18の過激描写がありますので、苦手な方はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる