騎士団長が大変です

曙なつき

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第十八章 リンゴ狩り

第二話 事前の断りを入れる

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 その足で、バートは王太子エドワードの元へ足を運んだ。
 黒い仔犬ディーターは、王太子によって“王家の所有物”のような扱いになっている。
 仔犬の首元に金色のメダルが付けられており、そこには王家の紋章が刻まれている。
 殿下が何の意図で、そのようなものを仔犬に付けたのか分からなかったが、一応一言断りを入れて、仔犬を王宮から連れ出した方が良いだろう。
 そしてバートの口よりも、殿下の方から、仔犬が数日、近衛騎士団を不在にすることを知らせて欲しいと考えた。
 (仔犬がいなくなれば、また近衛騎士団を挙げて、捜索がされるのもたまったものではなかったからだ)

 そして、王太子の私室で「仔犬を数日連れ出します」と告げると、王太子は了承したように頷いた。
 「どこへ連れていくのか」と問われたので、バートは率直に告げた。

「リンゴ狩りに連れていきます」

「……そうか」

 何故、リンゴ狩りに仔犬を連れていくのだという疑問を持ったようだが、バートは答えることなく、一礼して部屋を退出した。


 
 マグルとフィリップの間で、休日のすり合わせが出来たようで、それから数日後、休暇を取ることにした。
 近衛騎士団には、殿下の方から話がされ、バートが仔犬を受け取りに行く時には、近衛騎士達は何も言わずに仔犬を引き渡してくれたのだが、近衛騎士ジェラルドだけが最後までなかなかディーターを引き渡してくれなかった。ずっと腕に抱いていて、近衛騎士団長に何度も促されて渋々手渡してくれたくらいである。

(こいつ、子供か)

 と内心バートは思っていたが、それは口にしなかった。



 そしてフィリップの屋敷で、ディーターはその身を仔犬から成獣の狼に姿を変え、そして人の身に戻ったのである。
 ディーターは大きく伸びをした。

「あー、久しぶりだな。人の姿に戻るのも」

 恥じらうこともなく裸で、腰に手を当て仁王立ちをしている。
 バーナードは椅子に座り、呆れてディーターを眺めていた。

「早く着替えろ。その粗末なものを早くしまえ」

 ディーターは「何だと!!」と言いかけたが、慌ててフィリップが取りなすように服を手渡した。

「早く着替えましょう」

 マグルは丸テーブルの上に、地図を取り出して説明を始めた。

「魔獣の出没している果樹園は、妖精の城から半日くらいかな。今日これから妖精の国まで行って、今日は城に泊めてもらうことになっている」

「ああ」

「それから翌日、早速果樹園に行って、魔獣を倒してリンゴ狩りだ!!」

 バーナードは質問した。椅子に足を組んで座っている彼は、相変わらずどこか尊大そうな様子に見える。

「その魔獣の種類はなんだ」

「大きなムクドリだね。嘴と足はオレンジ色、身体は黒っぽい褐色。ただのムクドリじゃないよ。人間の子供くらいの大きさはあるらしい。それが大挙してやってくるそうだ」

「鳥か。焼くと旨いんだよな」

 もう倒した後のことを考えているようなことをディーターは言っていた。
 彼はシャツにズボンといったラフな格好であった。その上からフードのついた外套をまとった。
 父親もかなりの大柄であったが、このディーターも体格は良い。バーナードよりも大柄である。
 筋肉のしっかりとついたその身体付きを見ながら、バーナードは問いかけた。

「お前は得物に、何を使うのか?」

 もし武器が必要ならば、行きに王立騎士団の拠点に立ち寄って、武器を借りていっても良いと考えたのだ。
 だが、ディーターは言った。

「必要ない。人狼は、狼の姿で戦う」

「そうか」

 狼の姿になった方が、素早さに長け、鋭い牙も爪もある。
 人間の頭脳を持つその人狼が群れとなって戦いに挑むとなると、それは恐ろしい戦闘集団と化すらしい。

(人狼の戦い方を見られるという意味で、フィリップにとっても良かったな。参考になるだろう)
 
 そうバーナードは内心思っていた。
 フィリップが、自在に狼の姿を取ることができて、そして戦うことができるようになれば、それは大きな戦力になる。

(とはいえ、この王国でフィリップが人狼であることは隠すべきことだから、なかなか狼の姿で戦うことは出来ぬであろうが)

 それから準備が整った四人は、妖精の国の入口となるユスタニア渓谷に赴き、再び妖精の国へ足を踏み入れたのだった。
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