騎士団長が大変です

曙なつき

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第十七章 金色の仔犬と最愛の番

第十七話 彼の選択

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 王宮を退出したバーナードは、フィリップの屋敷に到着するや否や、すぐさまゼイハを仔犬の姿から成獣に戻し、更に人の姿に戻させた。
 それから、彼は額に手を当て、ため息混じりで、ディーターに王家のメダルが下げられたことを告げたのだ。

 それにはフィリップは驚き、ゼイハも少し驚いていたが、あまり深刻には受け止めていなかった。
 むしろ、少しばかり怒った様子のバーナードを落ち着かせるようにこう言っていた。

「ディーターのことは気にしなくていい。魔法で縛りつけられたわけではなく、単にメダルを付けられただけだろう。あれも一人前の人狼だ。嫌ならさっさとそこを出る力を持っている。あそこに残るのも、あいつの選択だ」

「…………」

「バーナード、俺達はお前に感謝している。ディーターの番に再び会わせてくれて。それどころかあのように触れ合いまでさせてもらえて。ディーターと一緒に過ごしたが、ディーターはとても幸せそうだった。……仔犬としてだが、随分、番に可愛がってもらえている」

 そして、ゼイハはフィリップとバーナードに頭を下げた。

「俺は一度、村に戻る。長にもディーターの番が見つかったことを報告せねばならない」

「ディーターは、どうするんだ」

 バーナードの問いかけに、ゼイハは笑った。
 あっけらかんとした笑い顔だった。

「好きにするだろう。人狼の成獣は、自分のしたいように生きるんだ。あれは今、番が見つかって、番に可愛がってもらえて最高に幸せなんだ。あのまま放っておいていい」

「仔犬扱いなのに、いいんでしょうか……」

 フィリップの言葉に、ゼイハは肩をすくめた。

「嫌なら、自分でどうにかする。あとは、ディーター自身の問題だ」

 無責任な放任主義のように見えるが、人狼というものはそういうものらしい。
 ゼイハはまた一礼し、あっさりとフィリップの屋敷を出ていく。
 そしてその姿はあっという間に消えていった。



 そうは言われても、バーナードは王宮の近衛騎士団の建物にいるディーターのことが気になって、度々、バートの姿になっては彼の様子をのぞきに行った。
 (定期的に魔力をこめる必要があったのも理由の一つではあった)
 行くたびに、ディーターは番だという近衛騎士ジェラルドの足元にまとわりつき、跳ね回っている。
 楽しくてたまらないような様子だった。
 仔犬のディーターを見つめるジェラルドの眼差しもとても優しい。二人はいつも一緒だった。

 

 そしてまた、仔犬のディーターの世話につけられた侍従のリュイとラーナは、バートの姿を見る度に、ペコペコと頭を下げる。
 その一方で、近衛騎士ジェラルドはバートを見かけると、どこかその眼差しに敵意を漲らせる。
 
 そのことを不可解には感じたが、バートはあまり気にしていなかった。


 後に知ったのだが、近衛騎士団が総動員されて、もう一匹の黒い仔犬ゼイハの行方を捜していた時、その仔犬を持ち出したのではないかと疑いを掛けられたのが、バート少年であったのだ。
 しかし、近衛騎士団隊長はバートが王立騎士団長バーナードの仮の姿であると知っていたが為に、それ以上の詮索をすることはなかった。
 それを知らぬ若手の近衛騎士達には、愛玩していたもう一匹の仔犬を失うことになったことへの不満が燻っていたのである。
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