騎士団長が大変です

曙なつき

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第十七章 金色の仔犬と最愛の番

第十五話 侍従の泣き言

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 仔犬のゼイハをマグルのところへ置いていった。
 ただ、人間に戻すのも、仔犬から成獣に戻すのもまだ止めておいた。
 人の姿で王宮から連れ出すよりも、仔犬の姿のままの方がまだ連れ出しやすいからだ。何者だと誰何すいかもされないだろう。
 そしてそのまま、何も告げずにマグルの部屋から殿下の許へ向かう。
 殿下のところへ行くと話したならば、マグルがまたうるさく言うであろうことが予想できたからだ。

 王宮副魔術師長のマグルの部屋を出て、しばらくすると侍従長が現れた。先頭に立って案内してくれる。
 そして先日のあの、別棟の新しい部屋へ案内してくれた。

 中へ入って、椅子を勧められる。
 まだ殿下はいないようだ。
 お茶を出され、それを黙って飲んでいると、部屋に殿下が入ってきた。

「待たせたか」

「いえ、大丈夫です」

 バートはすぐさま立ち上がり、一礼する。エドワード王太子は対面の椅子に座ると、再びバートに座るように言った。

「呼び出して悪かったな」

「とんでもございません」

「侍従長から報告があった」

 侍従長は退室せず、エドワード王太子の後ろに立って控えていた。

「先日、そなたが王宮へやって来た時、付けられた侍従に大層不満があったと聞いた」

(は?)

 バートの目は、王太子の後ろに立つ侍従長に向けられる。
 侍従長は静かに目を逸らしてバートを見ないようにしていた。

「…………………………はい」

(何故、殿下にそのようなことを報告する。侍従長、イチイチ全て報告しているのか!?)

 ギリリと奥歯を噛み締め、バートは渋い顔で頷いた。

「はい。大変不満があり、その時付けられた侍従らを外してもらうように頼みました」

(このような些事で殿下や俺を煩わせる必要はないだろう)

 単純に、あの無礼な侍従達をクビにすればいいだけの話だった。
 思い出してもムカムカと腹が立ってくる。

「クビだと言われた侍従達は、大層、気落ちしたらしい」

「クビで当然です」

 バートははっきりと告げた。
 この王立騎士団長の自分に、あのような破廉恥な下着を用意するとはとんでもなかった。
 無礼極まりなく、剣を佩いていたならば叩き斬ってしまいたいほどであった。
 
 あの時の侍従らをクビにするという報告だろうかと、次の言葉を待っていたバーナードの前で、侍従長が静かに告げた。

「…………あの二人の侍従、リュイとラーナが是非、汚名挽回の機会を頂きたいと」

「断る」

 バートは非常に不愉快そうにそう短く言った。

「あの侍従らはこの王宮に、ふさわしいとは言えぬ。もう一度、王宮外からやり直させよ」

 バートの怒りっぷりに侍従長は顔色を少し青くし、エドワード王太子は面白そうな顔でバートを見つめていた。

「どちらにしろ、あの時、あの二人の侍従が用意したものをお前は使わなかったではないか」

「当たり前です」

 眉間に皺を寄せ、非常に険しい顔でバートが答える。

「男子たるもの、あのような破廉恥な下着を身に付けることは出来ません」

「…………お前は固いな」

「当然ではありませんか。お話がこれだけなら、私は退出させて頂きます。あの二人の侍従達はクビでお願いします」

 バートが席を立とうとした時、部屋の扉が開き、その扉から二人の侍従が蒼白の顔で震えながら入ってきた。
 すぐに床に伏して頭を下げる。

「申し訳ありません」

 そして床に頭を擦りつけるようにして謝罪をする。その姿を見て、バートは侍従長を見つめ、殿下を見つめて言った。

「これは、なんの茶番ですか」

「見ての通りだ。あの時の無礼を謝罪したいらしい」

「謝罪は受け取る。だが、この侍従達はやり直させた方が良いと思うぞ。ここから先は、私の仕事ではない。侍従長、貴方の仕事だろう」

 非常に冷ややかな声でバートは言った。
 その言葉はもっともである。イチイチ無礼を働いた侍従を、相手に謝罪させ、やり直させ、それを見届けさせるところまで関与する必要はない。
 
「失礼する」

「…………侍従の見習いに戻した上で、近衛騎士団にいる犬の世話もさせようと思う」

 その言葉に、部屋を退出しようとしていたバートの足が止まった。
 唖然としていた。

 王太子は何をどこまで気が付いているのかと、一瞬、主君でありながらも不気味な思いを抱いた。
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