騎士団長が大変です

曙なつき

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第十七章 金色の仔犬と最愛の番

第十四話 回収

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 バーナードは、自分が王立騎士団長の姿で近衛騎士団の建物へ行くと、仰々しくなるのではないかと思い(元から王立騎士団と近衛騎士団はライバル関係にある)、少年のバートの姿で行くことにした。
 だが、考えてみれば、近衛騎士団長にはバーナードがバートであるその正体を知られている。更に、以前、王宮から逃げ出す時に近衛騎士達から、バートが手配まで掛けられていたことを思い出した。

(どっちもどっちという感じだな。まぁ、手配を掛けられていたのも一年以上前のことだ。忘れているといいのだが……)

 そう願いながら、貴族の子弟のふりをして近衛騎士団の建物の入り口を覗き込む。実際、侍従長の持ってきた服は、大層品の良いもので、黒髪を整えてそれを着たバートは、一見すると貴族の子弟にしか見えなかった。
 入り口に立っていた近衛騎士が、近づいてくるバートに声をかけた。

「何の御用でしょう」

 それに、バートは大層愛想よく「ここに犬がいると聞いたから、見に来た」と答えた。
 すると近衛騎士は笑顔を浮かべた。
 入り口の近衛騎士は、過去のバートのことを思い出さないでいた。
 建物の内部には入らない方がいいだろうと、それでも用心深くバーナードは考えていた。

「ああ、クロムとナイツですね。いますよ。おいで」

 と建物の中に声をかけると、クロムとナイツと呼ばれた仔犬達はすぐさまこちらに向かって駆けてくる。
 すっかり近衛騎士団の飼い犬と化している。
 クロムとナイツという、新しく名前まで付けられているのかと、バートは呆れの眼差しで二匹の仔犬を眺めていた。
 ハフハフと息を荒くしている仔犬達に、バートは近衛騎士には聞こえぬようにこう囁いた。

「俺だ、バーナードだ。話を聞きに来た」

 その言葉に、二匹はピタリと動きを止め、目を見開いたのだった。


 
 バートは近衛騎士団の建物の入口の階段に座りながら、二匹の仔犬達を撫でていた。
 そうしながら、首輪の黒い石に魔力をこめていく。

「順調にいっているようだな。どうする? 一度戻るか?」

 その問いかけに、一匹は頷き、もう一匹はフルフルと首を振った。
 
「頷いたのはゼイハか。残ると言うのはディーターだな。分かった」

 それはそうだろう。番を求めているのはディーターで、それにゼイハは付き合っているだけの存在だから、いつまでも仔犬のふりを続ける必要はない。

「俺は、王宮の中庭にいる。中庭は分かるな? 俺はそこでゼイハを待っている。俺が行った後、適当な頃合いに近衛から逃げ出して来い」

 ゼイハの仔犬はコクコクと頷いた。
 そしてバートはディーターの仔犬の頭を撫でた。

「しばらくその姿で、ジェラルドのところにいるつもりなんだな。でも、そのままだといつまで経っても、“恋に落ちる”ことは出来ないぞ。よく考えろ、ディーター」

 そう言って、バートは二匹の仔犬を撫で回し、最後に入口に立つ近衛騎士に二匹を手渡してその場を後にしたのだった。




 中庭の奥で、バートは一人ぽつんと立っていた。
 フィリップは先に、王立騎士団の拠点に帰している。騎士団のトップ二人がいつまでも不在だと仕事が滞るからだ。
 フィリップは、バーナードをバートの姿で王宮に置いていくことに、気が向かないようだった。
 王宮にはエドワード王太子がいる。
 だから嫌だった。フィリップは「早く騎士団にお戻りください」と言って去っていった。
 もとより、バーナードはそのつもりだった。ここでゼイハを回収したら、さっさと王立騎士団の拠点に戻ろう。

 人狼であるゼイハは、鼻が利くため、匂いでバートの位置がわかるだろう。 
 ただ、中庭で待ち続けるのも暇だと、空を見上げ、それから落とした視線の先に、殿下がいた。




 正直、驚いた。

 予想していない出現であったため、バートは無意識に後ずさっていた。
 殿下は護衛騎士を引き連れて中庭に現れ、そして小路を進んでバートの方へ向かって真っすぐに歩いてくる。
 その時、脇の茂みをガサガサと揺らして、黒い仔犬のゼイハが現れた。弾丸のようにバートの胸の中に飛び込んで来た。
 ハフハフと荒く息をついている仔犬を抱きとめる。
 その様子を王太子は無言で眺めていた。

「……殿下、どうしてこちらに」

 バートが尋ねると、王太子は答えた。

「お前が、バートの姿で王宮にいると侍従長の報告があった」

「……左様でございますか」

 当然、侍従長は報告するであろう。が、内心侍従長に対して悪態をついた。服を借りたくらいでいちいち王太子に報告しないで欲しい。
 バートは仔犬を抱きしめたまま、一礼する。

「それでは失礼致します」

 なにはともあれ、殿下の前からは退散することが一番だとバーナードは思う。
 そのままその場を後にしようとした時、王太子は言った。

「その仔犬を、どこぞへ置いてきたら私の許へ来るが良い。話がある」

「………………了解致しました」

 そうは簡単に行かせてくれないようだった。
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