騎士団長が大変です

曙なつき

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第十七章 金色の仔犬と最愛の番

第八話 最愛の番

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 ディーターとゼイハの二人が滞在していた時間は、一時間にも満たなかった。
 バーナードはまだ寝室で眠っている。
 フィリップは二人が屋敷を出た後、二階の寝室に上がると、寝台の上で未だ寝息を立てている彼のそばに近寄った。
 彼がここまでよく眠っているのは珍しいことだった。
 いつもの彼なら、とっくに起きて身支度も終えて、書類を読んでいることだろう。
 
(昨夜、無理させたからだろうか) 

 寝台の上に膝をついて、近くに寄ると、ようやく目を薄く開いた。

「……フィリップ」

 名を呼ぶ彼の目も、どこか安堵したように見える。
 ここ一週間、バーナードが起きるとそばにいたのは金色の狼の姿であったのだ。

「おはようございます、バーナード」

 唇を重ねると、彼は薄く唇を開いて、フィリップの舌を招き入れる。
 そうしながら、フィリップは彼の上にのしかかり、バーナードのまとっていたガウンの帯を解いていく。

「もう朝だろう。仕事に行かなければ」

「もう少し時間があります」

 そのまま頬に口づけ、首筋に唇を這わせる。
 乱したガウンの下から、鍛えられた肢体が露わになり、フィリップは唾を飲み込んだ。
 首筋から胸元まで、昨晩散々刻んだ吸い上げた跡や、噛み跡が散っていた。
 フィリップが噛むことを、昨晩、バーナードは止めなかった。
 
 フィリップは彼の太ももをぐいと持ち上げて開く。羞恥にわななきながら、バーナードはフィリップを見返してきた。
 その双丘の奥の蕾は、散々昨晩散らしたせいで、赤らみ、そしてフィリップが注いだ精に濡れ切っていた。
 
(私の愛する番)

 無数の口づけの跡も、噛み跡も、そして奥まで注いだ自身の白濁も、彼が自分の番であるという紛れもない証のようだった。
 久しぶりに彼との性交に発奮したこともあって、昨夜は随分と激しく愛し合った。

 それは、あのエドワード王太子の言葉に煽られたせいもある。

(“飢え”を感じているバーナードを、助けてやれると……)

 まったく余計なお世話だ。

 フィリップは思い出して、より一層不愉快な思いになった。前を寛がせ、彼の濡れほぐれた蕾に押し当てると、バーナードは少し慌てたように言った。

「……朝だぞ、フィリップ」

 固く隆々と立ち上がっている男のソレを、どこか驚き呆れてバーナードは見ていた。
 昨晩、散々シタはずなのに、まだ満足していないということが、恐ろしいと思うほどの絶倫ぶりだった。

 男の切っ先が、ゆっくりと入っていく。
 彼はブルリと身を震わせ、唇を震わせ小さく喘いだ。

「……あ……あ」

「相変わらず、すごく、締め付けますね」

 “淫魔”ゆえなのだろう。そこは本当に素晴らしく男のモノを締め上げた。そして絞り上げて精を吸い尽くそうとする。その気持ち良さに、耐えなければフィリップ自身もすぐに弾けてしまいそうだった。
 
 来訪した二人の人狼の男の言葉が思い出される。


『伴侶を生涯一人しか置かない。そしてその者のみを愛し続ける』


 確かに、もはや自分の目には彼しか見えない。
 東の国の美しい姫君に求められても、少しも応えようという気にならなかった。
 愛するのは、愛しているのは、彼だけしかいないのだ。
 それはきっとこれからも、生涯変わらない。その確信があった。

 根本まで挿入し、彼の悦いところを攻めるようにすると、たまらないようにバーナードは声を上げる。

「ああっ、フィリップ……フィリップ」

 名を何度も呼ぶその唇にまた唇を重ね、きつく身体を抱きしめて、また最奥で弾けた。
 彼もその勢いで、極めたのだろう。身をひくつかせていた。

「愛してます、バーナード」

 そう言って、なおも彼の身体を寝台の上に沈めたのだった。





「…………朝にするのは止めろ」

 バーナードは非常に不機嫌そうな顔で、朝食のパンを千切りながらそう言った。
 
「……すみません」

 あの後、最終的にはバーナードに蹴り飛ばされた。寝台の上から落とされて、目をパチクリとさせているフィリップに、バーナードは怒鳴りつけたのだ。
 いい加減にしろと。

 まさか蹴り飛ばされるとは思っていなかった。
 最愛の番に……。

 いや、過去にも何度も蹴り飛ばされて、寝台から落とされることはあった。
 その都度、驚く気持ちがある。

 最愛の番なのに、この人はまったく容赦がないのだ。
 
「でも時間はまだあったから」

「その時間ギリギリまでヤルことはないだろう。身を清める時間もあるのだから」

「その身を洗う時は手伝いますよ」

「……………」

 手伝うと言って、その浴室で第二ラウンドが始まることも度々あったのだ。
 非常に不信の眼差しで睨まれながら、フィリップはバーナードにパンのお代わりを笑顔で勧めたのだった。
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