257 / 560
第十六章 二人の姫君と黒の指輪
第二話 余計な王妃の助言
しおりを挟む
“日々アルセウス新聞”の美男子ランキングで、王立騎士団副騎士団長フィリップが、二位にという高い順位についたことに、王立騎士団の騎士達はどこか誇らしげだった。
ウチの副騎士団長は、強い上に、素晴らしい美男子なのだ。もちろん、騎士団長も十七位ではあった。騎士団長もなかなかの美男子であることも忘れてはいない。
なお、綺麗どころが揃っている近衛騎士団の騎士も、美男子ランキングには結構な人数が入っており、三位、七位、十一位……というように複数人のランキング入りを果たしていた。
しかし、王立騎士団の騎士達は「二位はうちの副騎士団長だ!!」と鼻高々であった。
この件に関しては、バーナード騎士団長もとやかく言わずにいた。むしろまだ内心(俺のフィリップ副騎士団長が二位とはおかしい)と思っている様子があるくらいだった。
王立騎士団と近衛騎士団は、何かと競い合うことが多い。
剣の実力に関しては、日夜、王都の森にいる魔獣と戦っている王立騎士団の方が上である。しかし、式典などでその美々しい騎士姿を披露することが多い近衛騎士団は、貴族の子弟が多く所属しており、見目も大層麗しい。白と金を基調にした軍装で、近衛騎士達が列を為す姿には、王都の娘達に「ほうっ」と感嘆のため息を漏らさせるほどであった。
王立騎士団の騎士達は内心(実力ではウチの方が上だ)と思い、近衛騎士団は(王立は粗野な男ばかりだ)と思っていた。いがみ合うまではいかぬが、競い合う感情が騎士達の中にある。それは二つの騎士団が創立された当初からの関係である。
そして今回、王立騎士団の騎士達は(ウチの副騎士団長は、近衛のどんな騎士よりも美しい)という新たな誉れ事が出来てしまったのである。内心近衛騎士達は(何故、フィリップ副騎士団長殿は王立騎士団に所属しているんだ)(あいつは近衛騎士団にいるべき男だろう)と、嫉妬と羨望の思いに駆られていた。いっそのこと、王立騎士団から近衛騎士団にスカウトしてしまいたかったが(実際、過去そうしたことがある。それも一度ではなく、複数回あった)、副騎士団長フィリップは決して首肯することはなかった。彼は王立騎士団に入団した当初から、騎士団長を敬愛していたからだ。(副騎士団長が近衛なんかに行くはずがない)(王立騎士団には国の誇る、武勇でなる騎士団長がいるんだからな)と、ますます王立騎士団の騎士達の鼻は高く伸びている。それに内心、不満で歯噛みする近衛騎士団の騎士達であった。
そんな中、東方の大国イルメキアの二人の王女が、親善に半島の国々を周遊に来ることになった。
上の王女は十七歳、下の王女は十五歳という若さである。上の王女は、ゆくゆくは女王として即位する。
イルメキアは絹の生産や金属細工で有名であり、大陸においても交通の要所にある国で貿易も盛んである。この王国も、イルメキアとは長年友好関係を保っている。
そして次期女王となる王女が親善旅行で来るならば、彼女らに対して最上級のもてなしをしなければならない。
王や高官たちがそう考えるのも当然だった。
そしてそんな王に、王妃が言ったのだ。
「ならば、我が国の誇る見目の麗しい男達も揃えて、歓迎させてはいかがでしょう。綺麗な男は、女からして見ていても楽しいものです。未婚の彼女らが、気に入ってくれて夫の一人として迎えてくれたなら、ますます我が国との友好関係が深まることでしょう」
王妃はミーハーであった。そして、侍女から差し入れられた“日々アルセウス新聞”の特集ランキング記事も当然、目を通していたのだ。
そして王妃自身も、ランキングに入った見目麗しい男達を一堂に会して見てみたい気持ちがあった。
王と高官達は顔を見合わせた。
とりあえず、王妃の助言も聞き入れてみることにしたのだった。
御前会議で、その王妃の助言が紹介された時、近衛騎士団の騎士団長は前向きにそれを捉えていたが、王立騎士団のバーナード騎士団長は、小さくため息をついていた。
「綺麗どころとして、我が騎士団の騎士を姫君達のお側に侍らせる気はありません」
とキッパリと言う。
周囲の大臣や近衛騎士団長が「そんな堅苦しく考えずに」と言うのだが、バーナード騎士団長は首を縦に振ることはなかった。
「歓迎の宴で、劇団の男優や、近衛騎士達が姫君を歓待することは宜しいかと思います。ですが、王立騎士団は外して頂きたい」
そう言って、どこか冷ややかな態度であった。
同席していた王立騎士団副騎士団長のフィリップは、相変わらずの涼しい顔で黙っている。
騎士団長と副騎士団長が婚姻関係にあり、騎士団長の言葉に、副騎士団長が否と言えるはずもない。そこで副騎士団長に話を向けると、案の定、彼は「団長の意見に同意します」とだけ短く答えた。
そして、その日、フィリップの屋敷に帰宅したバーナードは、苛立たし気に脱いだマントをソファーに放り投げた。
「まったく、何を考えている。顔だけの男達を、姫君のそばに侍らせるというのか。あわよくば夫にしようというのもなんだ」
「…………団長は嫌なのですね」
「当たり前だ。王立騎士団の騎士としての仕事ではない。近衛がやればいい」
「歓迎の宴には、団長も、私も出席するように言われていますが」
「…………」
本来なら、騎士団長という身分にあるものとして、外国の要人とは積極的に交流の機会を持つべきである。それをバーナードも理解していた。
「別に歓迎の宴の時でなくともよい。送別の宴の時に、ご挨拶しよう」
「歓迎の宴に、ご出席されない気ですか?」
まさかそこまで団長が不愉快な気持ちになっているとは思っていなかったフィリップは驚いていた。しかし、バーナードはニヤリと笑った。また何か企んでいる顔である。
「中庭の警備を、王立で引き受けてやろう。近衛は建物内部をしっかり見てくれればいい。王立は建物の外だ。お前と俺も、アリ一匹通さないように、城の中庭で警備するぞ!!」
「………………」
呆れて、フィリップはため息をついた。
「別に、私は姫君達のお側に侍るのは構わないと思っておりますよ」
「俺が気に食わないんだ」
「…………」
フィリップは、微笑んで、バーナードの唇に口づけた。
「意外と貴方は独占欲が強いんですね」
「当たり前だろう」
そしてバーナードは、フィリップの頭の後ろに手をやり、深い口づけを求めたのだった。
「お前の夫だからな」
現実では妻の立ち位置であったが、それは言わぬ二人であった。
ウチの副騎士団長は、強い上に、素晴らしい美男子なのだ。もちろん、騎士団長も十七位ではあった。騎士団長もなかなかの美男子であることも忘れてはいない。
なお、綺麗どころが揃っている近衛騎士団の騎士も、美男子ランキングには結構な人数が入っており、三位、七位、十一位……というように複数人のランキング入りを果たしていた。
しかし、王立騎士団の騎士達は「二位はうちの副騎士団長だ!!」と鼻高々であった。
この件に関しては、バーナード騎士団長もとやかく言わずにいた。むしろまだ内心(俺のフィリップ副騎士団長が二位とはおかしい)と思っている様子があるくらいだった。
王立騎士団と近衛騎士団は、何かと競い合うことが多い。
剣の実力に関しては、日夜、王都の森にいる魔獣と戦っている王立騎士団の方が上である。しかし、式典などでその美々しい騎士姿を披露することが多い近衛騎士団は、貴族の子弟が多く所属しており、見目も大層麗しい。白と金を基調にした軍装で、近衛騎士達が列を為す姿には、王都の娘達に「ほうっ」と感嘆のため息を漏らさせるほどであった。
王立騎士団の騎士達は内心(実力ではウチの方が上だ)と思い、近衛騎士団は(王立は粗野な男ばかりだ)と思っていた。いがみ合うまではいかぬが、競い合う感情が騎士達の中にある。それは二つの騎士団が創立された当初からの関係である。
そして今回、王立騎士団の騎士達は(ウチの副騎士団長は、近衛のどんな騎士よりも美しい)という新たな誉れ事が出来てしまったのである。内心近衛騎士達は(何故、フィリップ副騎士団長殿は王立騎士団に所属しているんだ)(あいつは近衛騎士団にいるべき男だろう)と、嫉妬と羨望の思いに駆られていた。いっそのこと、王立騎士団から近衛騎士団にスカウトしてしまいたかったが(実際、過去そうしたことがある。それも一度ではなく、複数回あった)、副騎士団長フィリップは決して首肯することはなかった。彼は王立騎士団に入団した当初から、騎士団長を敬愛していたからだ。(副騎士団長が近衛なんかに行くはずがない)(王立騎士団には国の誇る、武勇でなる騎士団長がいるんだからな)と、ますます王立騎士団の騎士達の鼻は高く伸びている。それに内心、不満で歯噛みする近衛騎士団の騎士達であった。
そんな中、東方の大国イルメキアの二人の王女が、親善に半島の国々を周遊に来ることになった。
上の王女は十七歳、下の王女は十五歳という若さである。上の王女は、ゆくゆくは女王として即位する。
イルメキアは絹の生産や金属細工で有名であり、大陸においても交通の要所にある国で貿易も盛んである。この王国も、イルメキアとは長年友好関係を保っている。
そして次期女王となる王女が親善旅行で来るならば、彼女らに対して最上級のもてなしをしなければならない。
王や高官たちがそう考えるのも当然だった。
そしてそんな王に、王妃が言ったのだ。
「ならば、我が国の誇る見目の麗しい男達も揃えて、歓迎させてはいかがでしょう。綺麗な男は、女からして見ていても楽しいものです。未婚の彼女らが、気に入ってくれて夫の一人として迎えてくれたなら、ますます我が国との友好関係が深まることでしょう」
王妃はミーハーであった。そして、侍女から差し入れられた“日々アルセウス新聞”の特集ランキング記事も当然、目を通していたのだ。
そして王妃自身も、ランキングに入った見目麗しい男達を一堂に会して見てみたい気持ちがあった。
王と高官達は顔を見合わせた。
とりあえず、王妃の助言も聞き入れてみることにしたのだった。
御前会議で、その王妃の助言が紹介された時、近衛騎士団の騎士団長は前向きにそれを捉えていたが、王立騎士団のバーナード騎士団長は、小さくため息をついていた。
「綺麗どころとして、我が騎士団の騎士を姫君達のお側に侍らせる気はありません」
とキッパリと言う。
周囲の大臣や近衛騎士団長が「そんな堅苦しく考えずに」と言うのだが、バーナード騎士団長は首を縦に振ることはなかった。
「歓迎の宴で、劇団の男優や、近衛騎士達が姫君を歓待することは宜しいかと思います。ですが、王立騎士団は外して頂きたい」
そう言って、どこか冷ややかな態度であった。
同席していた王立騎士団副騎士団長のフィリップは、相変わらずの涼しい顔で黙っている。
騎士団長と副騎士団長が婚姻関係にあり、騎士団長の言葉に、副騎士団長が否と言えるはずもない。そこで副騎士団長に話を向けると、案の定、彼は「団長の意見に同意します」とだけ短く答えた。
そして、その日、フィリップの屋敷に帰宅したバーナードは、苛立たし気に脱いだマントをソファーに放り投げた。
「まったく、何を考えている。顔だけの男達を、姫君のそばに侍らせるというのか。あわよくば夫にしようというのもなんだ」
「…………団長は嫌なのですね」
「当たり前だ。王立騎士団の騎士としての仕事ではない。近衛がやればいい」
「歓迎の宴には、団長も、私も出席するように言われていますが」
「…………」
本来なら、騎士団長という身分にあるものとして、外国の要人とは積極的に交流の機会を持つべきである。それをバーナードも理解していた。
「別に歓迎の宴の時でなくともよい。送別の宴の時に、ご挨拶しよう」
「歓迎の宴に、ご出席されない気ですか?」
まさかそこまで団長が不愉快な気持ちになっているとは思っていなかったフィリップは驚いていた。しかし、バーナードはニヤリと笑った。また何か企んでいる顔である。
「中庭の警備を、王立で引き受けてやろう。近衛は建物内部をしっかり見てくれればいい。王立は建物の外だ。お前と俺も、アリ一匹通さないように、城の中庭で警備するぞ!!」
「………………」
呆れて、フィリップはため息をついた。
「別に、私は姫君達のお側に侍るのは構わないと思っておりますよ」
「俺が気に食わないんだ」
「…………」
フィリップは、微笑んで、バーナードの唇に口づけた。
「意外と貴方は独占欲が強いんですね」
「当たり前だろう」
そしてバーナードは、フィリップの頭の後ろに手をやり、深い口づけを求めたのだった。
「お前の夫だからな」
現実では妻の立ち位置であったが、それは言わぬ二人であった。
20
お気に入りに追加
1,131
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件
水野七緒
BL
一見チャラそうだけど、根はマジメな男子高校生・星井夏樹。
そんな彼が、ある日、現代とよく似た「別の世界(パラレルワールド)」の夏樹と入れ替わることに。
この世界の夏樹は、浮気性な上に「妹の彼氏」とお付き合いしているようで…?
※終わり方が2種類あります。9話目から分岐します。※続編「目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件」連載中です(2022.8.14)
平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます
ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜
名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。
愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に…
「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」
美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。
🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶
応援していただいたみなさまのおかげです。
本当にありがとうございました!
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
LV1魔王に転生したおっさん絵師の異世界スローライフ~世界征服は完了してたので二次嫁そっくりの女騎士さんと平和な世界を満喫します~
東雲飛鶴
ファンタジー
●実は「魔王のひ孫」だった初心者魔王が本物魔王を目指す、まったりストーリー●
►30才、フリーター兼同人作家の俺は、いきなり魔王に殺されて、異世界に魔王の身代わりとして転生。
俺の愛する二次嫁そっくりな女騎士さんを拉致って、魔王城で繰り広げられるラブコメ展開。
しかし、俺の嫁はそんな女じゃねえよ!!
理想と現実に揺れる俺と、軟禁生活でなげやりな女騎士さん、二人の気持ちはどこに向かうのか――。『一巻お茶の間編あらすじ』
►長い大戦のために枯渇した国庫を元に戻すため、金策をしにダンジョンに潜った魔王一行。
魔王は全ての魔法が使えるけど、全てLV1未満でPTのお荷物に。
下へ下へと進むPTだったが、ダンジョン最深部では未知の生物が大量発生していた。このままでは魔王国に危害が及ぶ。
魔王たちが原因を究明すべく更に進むと、そこは別の異世界に通じていた。
謎の生物、崩壊寸前な別の異世界、一巻から一転、アクションありドラマありの本格ファンタジー。『二巻ダンジョン編あらすじ』
(この世界の魔族はまるマ的なものです)
※ただいま第二巻、ダンジョン編連載中!※
※第一巻、お茶の間編完結しました!※
舞台……魔族の国。主に城内お茶の間。もしくはダンジョン。
登場人物……元同人作家の初心者魔王、あやうく悪役令嬢になるところだった女騎士、マッドな兎耳薬師、城に住み着いている古竜神、女賞金稼ぎと魔族の黒騎士カップル、アラサークールメイド&ティーン中二メイド、ガチムチ親衛隊長、ダンジョンに出会いを求める剣士、料理好きなドワーフ、からくり人形、エロエロ女吸血鬼、幽霊執事、親衛隊一行、宰相等々。
HJ大賞2020後期一次通過・カクヨム併載
【HOTランキング二位ありがとうございます!:11/21】
護衛騎士をやめたら軟禁されました。
海月さん
BL
護衛騎士である【ルドルフ】は子爵の後継者であり麗しき美貌の持ち主である【アーロ】に想いを寄せてしまう。
けれども男であり護衛騎士の身分である為、それに耐えきれず逃げるかのように護衛騎士を退職することに。
しかしアーロによって塔に軟禁されてしまう。
メンヘラ攻め×歳上受けです。ほぼエロですがご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる