騎士団長が大変です

曙なつき

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第十六章 二人の姫君と黒の指輪

第一話 話題の新聞特集記事

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 バーナード騎士団長が、その新聞を見かけたのは秋の始まりを感じさせる、少しばかり肌寒さを感じさせた日の夕方であった。
 “日々にちにちアルセウス新聞”とは、この王国の王都で毎日の朝に発行されている新聞で、王都の広場や飲食店の幾つかに置かれ、売られている。銅貨十枚という安値は、パン二つ分と同じ値段である。新聞といっても、茶色いわら半紙に、荒い印刷がされているだけのペーパーである。
 大事件があれば号外も出されるが、普段はこの王都内で起きた事件・事故をまとめている。時に人気の理髪店、大人気スィーツ、観光ガイドや、各種ランキング記事など、読者の興味があることならなんでも掲載するという、ある意味、節操のない新聞でもある。
 
 騎士団の談話室で、若手の騎士達が一枚の新聞を手に声を上げている様子に、バーナード騎士団長は傍らにいた大隊長のフレデリックに尋ねた。

「何を騒いでいるんだ」

「あー、たぶん、今日の新聞記事を冷やかしているんだと思いますね」

 フレデリックは苦笑しながらそう答える。その時、フィリップ副騎士団長は不在であった。
 
「そうなのか」

 若手の騎士達がそんなに興奮するような記事があるのかと少し興味はあったが、新聞記事の内容について騎士達に問い詰めるほどのものではなかった。
 フレデリックは続けて言った。

「今の時期から年末にかけて、新聞ではランキング記事を隔週で掲載しているんです。売れ行きもなかなか好調だといいますよ」

「そうか」

「今年から、また新しいランキングを掲載するという話でしたからね」

「詳しいな、大隊長」

「妻が、興味があって新聞を毎日買っているんですよ。ああいうランキングが、女達は好きですね」

「ふむ」

「ちょっとお待ちください」

 大隊長フレデリックは、ズカズカと談話室に入ると、ワイワイ言っていた騎士達の間から新聞を一度取り上げ、それをザっと目を通した後に、また彼らに新聞を戻した。
 そして騎士団長に報告した。
 その目が少し笑っている。

「今年からの新特集で、新しいランキング記事が掲載されていました。アレは、話題になりますね。王国美人ランキングと、美男子ランキングでした。団長も副騎士団長も名前が出ていましたよ」

 その言葉に、バーナード騎士団長は茶色の目を少し見開いていた。

「…………」

 なんとコメントしていいのか分からないという様子で、彼はまた団長室に戻っていったのだった。




 外出から帰宅したフィリップ副騎士団長は、耳聡く、早速その新聞を入手していた。

「団長、ご覧になりましたか」

「見ていない」

「一緒に見ましょう」

「お前はこういうものには興味がないかと思っていたが……」

 意外とミーハーなのだなと言いたげな視線を受けながらも、フィリップはデスクの椅子に座る騎士団長のそばまでやって来ると、彼のデスクの上に新聞を広げた。
 後ろから覆いかぶさるようにして一緒に見る。

「貴方もランキングに入っていました。十七位です」

 その微妙な位置に、喜んでいいのかわからなかった。
 十七位。微妙すぎる位置だ。

「喜んでいいんですよ。団長、貴方はこの王国の美男子ランキングに入ったんですから」

「お前は一位か?」

 王都一と謳われる、誰もが認める美男子のフィリップである。花も恥じらうような美青年ぶりであるからして、当然一位だろうと考えていたバーナードの言葉は、裏切られた。

「二位でした」

「!!」

 バーナードは驚いて、紙面を見つめた。
 すると、確かにフィリップの名と人相のイラストが掲載されているが、そこに二位という文字がある。

「お前が二位なんておかしいだろう。おい、この新聞社はどこにある、苦情を言え!!」

「……団長、苦情なんて言えるはずないでしょう」

 ちょっと呆れの表情で見ながらも、彼が自分の為に怒ってくれることが嬉しい。

「それで、一位は誰なんだ」

 その問いかけに、フィリップは答えた。

「モンテカルロ座の男優アランですね。人気の劇団の美男子です。私も彼の名前は聞いたことがあります」

「……俺は知らん」

「団長は舞台劇とか興味ないですしね」

「……」

 バーナードは新聞を広げ、マジマジとそのモンテカルロ座のアランという男の似顔絵を見た。ウェーブした金髪に、少し垂れ目気味の瞳、肉厚な唇。色気のある男だとは思うが。

「お前の方が百倍、いや、千倍以上いいだろう!!」

「…………いや、私はこんな記事で気落ちしているとかそういうことはありませんので、そんなに力説しなくてもいいですよ」

「俺は事実を言っているだけだ!!」

 なんで彼はこんなに熱く言い張っているのか。フィリップはおかしくなって、バーナードの身をぎゅっと抱きしめた。

「貴方が私を認めてくれるだけで、私は嬉しいのですから」

「絶対におかしいからな」

 最後まで、バーナード騎士団長は不機嫌に怒っていたのだった。
 なんとなく彼が怒るその様子に、フィリップは自分が二位であることに不満を思う気持ちには全くならなかった。
 そもそも、こうした記事は少しの真実とあとは“適当”なものを混ぜたようなものであるし、新聞の下方に、劇団の広告が大きく入っていることから、タイアップ記事ではないかと思うほどであった。
 気にするだけ、馬鹿らしい。



 だが、この新聞の特集記事が、後々、面倒事に繋がることになろうとは、その時の騎士団長も副騎士団長も、全く思いもよらなかった。
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