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【短編】
副騎士団長の悩み ~満月と実りの子の話~
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人狼の呪いを受けた副騎士団長フィリップは、あれから何回かの満月の夜を迎えた。
暗い空に真っ白い月がぽっかりと浮かぶ。その満月の夜に月の光を浴びると、伝承のようにその身を人ならざる者に変える。金色の毛がふさふさと生えた美しい金色狼に変わるのだ。
当初、その変身をバーナード騎士団長に知られると、彼から恐れられ、嫌われてしまうのではないかと懸念していた。だが、バーナードは彼を嫌うことはなかった。
むしろ、金色狼になったフィリップを嬉しそうにわしゃわしゃと毛並を撫で回し、その首を抱きしめて寝台の上で一緒に眠ろうとした。
彼はこう言った。
「俺は犬が好きなんだ。子供の頃にも犬を飼っていた」
(私は狼であって、犬ではないんですが……)
内心、そう言いたいフィリップであったが、バーナード騎士団長の犬好きのおかげで、彼が抵抗なく自分の変身を受け入れたのかも知れない。だから、「犬ではありません」と否定することはなかった。心の中では重々、否定したかったが。
「寒い夜にはいいな」
と鼻先と鼻先を合わせて、ご機嫌にそう言うバーナードの顔をペロリとフィリップは舐めたのだった。
犬の時には、舐められ、甘噛みされても彼は全く文句を言わない。それどころか嬉しそうな顔を見せることが腑に落ちない。人間の姿の時はどうして駄目なのかと尋ねると、彼は真顔でこう答えた。
「いいか、フィリップ。人間相手に噛みたい、舐めたいというのはいささか“変態”じみている。俺はそんなお前は嫌だ」
「……狼の時は許して下さるのに」
「それは狼の時だろうが。人間の時はやめておけ」
不満そうな顔を見せるフィリップの上唇に軽く噛みつく真似をする。
フィリップは小さくため息を漏らした後、唇を重ね、そのまま舌を絡ませる。
そして、ソファーの上に彼を押し倒す。
バーナードはフィリップの肩に手を回し、互いの唇を貪り続けていた。
フィリップの手が彼の胸元のボタンを外して中に入り、その身をまさぐり、敏感な場所への愛撫を続けると、その瞳が熱っぽい欲を浮かべ始める。
彼の前に触れると、それは固くなり、先端を濡らし始めていた。
「……貴方の“器”はどれほど埋まっているのですか」
ズボンを下着ごと下ろし、脚を開かせてその身を抱こうとする時、そう尋ねると、彼は喘ぎながらも答えた。
「まだ……埋まっていない」
「少しも?」
「……五分の一程度だ」
精力が彼の中にある“器”に満ちていくことは感じるらしい。
しかし、五分の一とは、まだまだ子が実るには時間がかかるということだ。ややもすれば、五年はかかるということでもある。
ゆっくりと肉鉾で彼を貫いていく。身を震わせ、喘ぐ彼の欲望も手で扱く。
「あっ、ああ、フィリップ」
その部分がギュッと締め上げるのに、フィリップ自身も喘いで彼の中に更に身を進めさせた。
「あああっ」
彼は子供を欲しがっていない。
なかなか満ちない“器”は、彼にとって良いことなのだろう。
精力で満ちるのに時間がかかることがわかり、自分とのセックスも今はまだ抵抗なく受け入れてくれる。
もし、どんどん精力が満ちて、“器”がいっぱいになったら、彼はどうするのだろう。
そう尋ねると、彼は後孔に根本までギッチリとフィリップ自身を受け入れ、少し苦しそうに息を吐きながらこう言った。
「魔力に変換して、使ってしまえばいい」
「………………」
(私との子は、本当に欲しくないのか)
彼がその言葉に、フィリップは寂しさを感じた。
それが自分勝手な思いだと知っている。
男同士で子を望むことの、おかしさ。
そして生まれてくる子が“魔族”になるであろうことの不幸せさ。
そうしたことを考えれば、子を産むことを否定する彼はおかしくはない。
先日、彼はギガントダンジョンに行って、ギガント魔術師の講義を受けて、どうやって“淫魔の王女”が子を実らせるか、その方法を知った。
そして以前、マグル王宮副魔術師長から精力を魔力へ変換できることを聞いていた彼は、“器”が満ちないように調整することも可能なのだ。
「んっ、あっ、フィリップ」
腰を掴んで打ち付けるように激しく責め立てる。いつになく荒々しいフィリップの様子に、彼は戸惑っているようだ。
「フィリップ」
名を呼ばれ、フィリップは彼の耳元で囁くように言った。
「貴方は本当に、私との子が欲しくないのですか」
子供のことを話せば、彼が不機嫌になることはわかっていた。
でも、言わずにはいられなかった。
彼はフィリップの言葉に少しばかり目を見開き、それからフィリップの青い目をじっと見つめて言った。
「お前の子供は欲しい。だが、魔族に生まれる子を望むことはできない」
そうハッキリと告げられたのだった。
*
翌日、マグル王宮副魔術師長の、王宮の部屋を尋ねたフィリップは、気落ちした様子だった。
マグルは「またバーナードと仲違いをしたのか?」と尋ねてくるが、フィリップは首を振る。
「違うんです。マグル、バーナードと喧嘩はしていません。ただ、相変わらず彼は子供を望んでいないので、私が勝手に気落ちしているだけです。……知っていたら教えて欲しいのですが、“淫魔の王女”は実らせる子の種族を事前に決めることはできないんでしょうか」
「種族まで指定して実らせられたらスゲーと思うよ。あの『淫魔の生態とその捕え方』の本には書かれていなかった。だから、分からないとしか言えない」
「…………彼は魔族かも知れない子を実らせる気はないとハッキリと言われました」
「そりゃそうだよ。王国の騎士団長としては当たり前の意見だ」
「……マグル、貴方は私とバーナードのどちらの味方なんですか」
「どちらの味方でもあるんだよ、僕は」
マグルは、棚から今日のおやつらしきカゴを取り出して、テーブルに置いた。カゴの中にはクッキーがたくさん入っている。その一枚を手に取って、ボリボリと栗鼠のように噛り付きながら言葉を続けた。
「冷静に考えるとさ、バーナードの子は、お前だけじゃなく、殿下の子ということもあり得るんだぜ。だって、淫夢を毎晩のように殿下に見せて、バーナードの器には殿下の精力も入っているんだろう」
その言葉に、フィリップは初めてそのことに気が付いた。動きが止まって、青い目が見開かれる。
「……………………」
「バーナードの器を満たす精力の量の多さで、もし子の父親であることが決められるなら、殿下にも、その資格があるということになる。殿下は“最強王”の呪いを受けて、人間離れした絶倫の持ち主だ。相当、多くの精力をすでにバーナードの器の中に注いでいるはずだ。そう考えると、バーナードの実らせる子は、フィリップ、エドワード王太子、バーナードの三人の子になるのかな。となると、その子の種族は、淫魔、人狼、人間の三択か。こりゃ、何の種族になるかわかんないね」
「…………殿下の子? エ、そんなことが有り得るんですか。私とバーナードが結婚しているのだから、当然、実る子は、二人の子になるのでしょう」
マグルは肩をすくめた。
「それは、人間の世界の考え方だよ。フィリップ、実らせた子の父親は、結婚を条件にしているわけではない。器を満たせば子が生まれるとあれば、父親はその器を満たした者になる。おそらくはその量と質だろうな」
「私と、バーナードと、殿下の子……」
物凄く衝撃を受けたように、フィリップは凍りついていた。
だが、マグルはこう言った。
「いや、殿下がいてくれるおかげで、子の種族に“人間”という選択肢が加わるんだぞ。もし人間の子を望むなら、殿下の存在は必須となる」
「そんなこと、全く考えたことがありませんでした」
絶望の表情で言うフィリップに、マグルはやれやれといった様子だった。
「“淫魔の女王”“淫魔の王女”は、淫乱で、その身は素晴らしく魅力的で、多くの者から強い精力を奪い続け毎日を過ごしている。おそらく奔放な“淫魔”の性として、本来その父親も固定されていないはずだ。毎夜、性交する相手を変えるのも有りなのだろう。もし、その実らせる子を強く、自身の子にしたいと望むなら、魔王のように城に閉じ込め、自身だけが抱いていけばそれが可能だろうね。バーナードは男でストイックなところがあるから、相手はお前と殿下だけに限られている。だからまぁ、もし今実らせるとしたら、お前と殿下の二人の子になるのは確実だ」
「………………器はまだまだ満ちるには時間がかかるとバーナードは言っていました」
「そうだろうね。もし、本来の淫魔のように、手あたり次第好みの男に手を出すならば、その実らせるための時間ももっと短いんだろう。バーナードは淫魔の中でもイレギュラーな存在だ」
フィリップは額に手を当て、深刻な表情をしていた。
「今からでも、バーナードに、殿下への“淫夢”を見せないように頼めば、私と彼だけの子になりますね」
「可能性は上がるだろう。だが、バーナードがお前のその言葉を聞く可能性は低そうだ。殿下の魔力の安定には、彼へ夢を見せる必要性をバーナードはよく分かっているだろう。そしてバーナードは、子を実らせることを望んでいない」
マグルの冷静な言葉が恨めしい。
フィリップはため息をついて、天井を見上げた。
「うまくいかないことばかりですね」
実感のこもったフィリップの言葉に、マグルはやたらしみじみとこう言った。
「人生というのは、そういうものだよ」
そう言うマグル王宮副魔術師長は、この春に結婚式を挙げ、夏の終わりには早くも新妻の妊娠が発覚したという、人生トントン拍子の男なのである。
フィリップは彼の言葉に、苦笑いしていた。
ただバーナードは、フィリップとの子を望んでいないわけではない。
生まれてくる子が、魔族であることが駄目だと言っているのだ。
もし、生まれてくる子が、確実に人間であるならば、彼はきっと喜んで子を望んでくれる。
どうにか確実に、実らせる子を人間にする方法はないものか。
フィリップは考え込んだ。
だが当然のように、良い考えなど簡単に思い浮かぶことはなかったのだった。
暗い空に真っ白い月がぽっかりと浮かぶ。その満月の夜に月の光を浴びると、伝承のようにその身を人ならざる者に変える。金色の毛がふさふさと生えた美しい金色狼に変わるのだ。
当初、その変身をバーナード騎士団長に知られると、彼から恐れられ、嫌われてしまうのではないかと懸念していた。だが、バーナードは彼を嫌うことはなかった。
むしろ、金色狼になったフィリップを嬉しそうにわしゃわしゃと毛並を撫で回し、その首を抱きしめて寝台の上で一緒に眠ろうとした。
彼はこう言った。
「俺は犬が好きなんだ。子供の頃にも犬を飼っていた」
(私は狼であって、犬ではないんですが……)
内心、そう言いたいフィリップであったが、バーナード騎士団長の犬好きのおかげで、彼が抵抗なく自分の変身を受け入れたのかも知れない。だから、「犬ではありません」と否定することはなかった。心の中では重々、否定したかったが。
「寒い夜にはいいな」
と鼻先と鼻先を合わせて、ご機嫌にそう言うバーナードの顔をペロリとフィリップは舐めたのだった。
犬の時には、舐められ、甘噛みされても彼は全く文句を言わない。それどころか嬉しそうな顔を見せることが腑に落ちない。人間の姿の時はどうして駄目なのかと尋ねると、彼は真顔でこう答えた。
「いいか、フィリップ。人間相手に噛みたい、舐めたいというのはいささか“変態”じみている。俺はそんなお前は嫌だ」
「……狼の時は許して下さるのに」
「それは狼の時だろうが。人間の時はやめておけ」
不満そうな顔を見せるフィリップの上唇に軽く噛みつく真似をする。
フィリップは小さくため息を漏らした後、唇を重ね、そのまま舌を絡ませる。
そして、ソファーの上に彼を押し倒す。
バーナードはフィリップの肩に手を回し、互いの唇を貪り続けていた。
フィリップの手が彼の胸元のボタンを外して中に入り、その身をまさぐり、敏感な場所への愛撫を続けると、その瞳が熱っぽい欲を浮かべ始める。
彼の前に触れると、それは固くなり、先端を濡らし始めていた。
「……貴方の“器”はどれほど埋まっているのですか」
ズボンを下着ごと下ろし、脚を開かせてその身を抱こうとする時、そう尋ねると、彼は喘ぎながらも答えた。
「まだ……埋まっていない」
「少しも?」
「……五分の一程度だ」
精力が彼の中にある“器”に満ちていくことは感じるらしい。
しかし、五分の一とは、まだまだ子が実るには時間がかかるということだ。ややもすれば、五年はかかるということでもある。
ゆっくりと肉鉾で彼を貫いていく。身を震わせ、喘ぐ彼の欲望も手で扱く。
「あっ、ああ、フィリップ」
その部分がギュッと締め上げるのに、フィリップ自身も喘いで彼の中に更に身を進めさせた。
「あああっ」
彼は子供を欲しがっていない。
なかなか満ちない“器”は、彼にとって良いことなのだろう。
精力で満ちるのに時間がかかることがわかり、自分とのセックスも今はまだ抵抗なく受け入れてくれる。
もし、どんどん精力が満ちて、“器”がいっぱいになったら、彼はどうするのだろう。
そう尋ねると、彼は後孔に根本までギッチリとフィリップ自身を受け入れ、少し苦しそうに息を吐きながらこう言った。
「魔力に変換して、使ってしまえばいい」
「………………」
(私との子は、本当に欲しくないのか)
彼がその言葉に、フィリップは寂しさを感じた。
それが自分勝手な思いだと知っている。
男同士で子を望むことの、おかしさ。
そして生まれてくる子が“魔族”になるであろうことの不幸せさ。
そうしたことを考えれば、子を産むことを否定する彼はおかしくはない。
先日、彼はギガントダンジョンに行って、ギガント魔術師の講義を受けて、どうやって“淫魔の王女”が子を実らせるか、その方法を知った。
そして以前、マグル王宮副魔術師長から精力を魔力へ変換できることを聞いていた彼は、“器”が満ちないように調整することも可能なのだ。
「んっ、あっ、フィリップ」
腰を掴んで打ち付けるように激しく責め立てる。いつになく荒々しいフィリップの様子に、彼は戸惑っているようだ。
「フィリップ」
名を呼ばれ、フィリップは彼の耳元で囁くように言った。
「貴方は本当に、私との子が欲しくないのですか」
子供のことを話せば、彼が不機嫌になることはわかっていた。
でも、言わずにはいられなかった。
彼はフィリップの言葉に少しばかり目を見開き、それからフィリップの青い目をじっと見つめて言った。
「お前の子供は欲しい。だが、魔族に生まれる子を望むことはできない」
そうハッキリと告げられたのだった。
*
翌日、マグル王宮副魔術師長の、王宮の部屋を尋ねたフィリップは、気落ちした様子だった。
マグルは「またバーナードと仲違いをしたのか?」と尋ねてくるが、フィリップは首を振る。
「違うんです。マグル、バーナードと喧嘩はしていません。ただ、相変わらず彼は子供を望んでいないので、私が勝手に気落ちしているだけです。……知っていたら教えて欲しいのですが、“淫魔の王女”は実らせる子の種族を事前に決めることはできないんでしょうか」
「種族まで指定して実らせられたらスゲーと思うよ。あの『淫魔の生態とその捕え方』の本には書かれていなかった。だから、分からないとしか言えない」
「…………彼は魔族かも知れない子を実らせる気はないとハッキリと言われました」
「そりゃそうだよ。王国の騎士団長としては当たり前の意見だ」
「……マグル、貴方は私とバーナードのどちらの味方なんですか」
「どちらの味方でもあるんだよ、僕は」
マグルは、棚から今日のおやつらしきカゴを取り出して、テーブルに置いた。カゴの中にはクッキーがたくさん入っている。その一枚を手に取って、ボリボリと栗鼠のように噛り付きながら言葉を続けた。
「冷静に考えるとさ、バーナードの子は、お前だけじゃなく、殿下の子ということもあり得るんだぜ。だって、淫夢を毎晩のように殿下に見せて、バーナードの器には殿下の精力も入っているんだろう」
その言葉に、フィリップは初めてそのことに気が付いた。動きが止まって、青い目が見開かれる。
「……………………」
「バーナードの器を満たす精力の量の多さで、もし子の父親であることが決められるなら、殿下にも、その資格があるということになる。殿下は“最強王”の呪いを受けて、人間離れした絶倫の持ち主だ。相当、多くの精力をすでにバーナードの器の中に注いでいるはずだ。そう考えると、バーナードの実らせる子は、フィリップ、エドワード王太子、バーナードの三人の子になるのかな。となると、その子の種族は、淫魔、人狼、人間の三択か。こりゃ、何の種族になるかわかんないね」
「…………殿下の子? エ、そんなことが有り得るんですか。私とバーナードが結婚しているのだから、当然、実る子は、二人の子になるのでしょう」
マグルは肩をすくめた。
「それは、人間の世界の考え方だよ。フィリップ、実らせた子の父親は、結婚を条件にしているわけではない。器を満たせば子が生まれるとあれば、父親はその器を満たした者になる。おそらくはその量と質だろうな」
「私と、バーナードと、殿下の子……」
物凄く衝撃を受けたように、フィリップは凍りついていた。
だが、マグルはこう言った。
「いや、殿下がいてくれるおかげで、子の種族に“人間”という選択肢が加わるんだぞ。もし人間の子を望むなら、殿下の存在は必須となる」
「そんなこと、全く考えたことがありませんでした」
絶望の表情で言うフィリップに、マグルはやれやれといった様子だった。
「“淫魔の女王”“淫魔の王女”は、淫乱で、その身は素晴らしく魅力的で、多くの者から強い精力を奪い続け毎日を過ごしている。おそらく奔放な“淫魔”の性として、本来その父親も固定されていないはずだ。毎夜、性交する相手を変えるのも有りなのだろう。もし、その実らせる子を強く、自身の子にしたいと望むなら、魔王のように城に閉じ込め、自身だけが抱いていけばそれが可能だろうね。バーナードは男でストイックなところがあるから、相手はお前と殿下だけに限られている。だからまぁ、もし今実らせるとしたら、お前と殿下の二人の子になるのは確実だ」
「………………器はまだまだ満ちるには時間がかかるとバーナードは言っていました」
「そうだろうね。もし、本来の淫魔のように、手あたり次第好みの男に手を出すならば、その実らせるための時間ももっと短いんだろう。バーナードは淫魔の中でもイレギュラーな存在だ」
フィリップは額に手を当て、深刻な表情をしていた。
「今からでも、バーナードに、殿下への“淫夢”を見せないように頼めば、私と彼だけの子になりますね」
「可能性は上がるだろう。だが、バーナードがお前のその言葉を聞く可能性は低そうだ。殿下の魔力の安定には、彼へ夢を見せる必要性をバーナードはよく分かっているだろう。そしてバーナードは、子を実らせることを望んでいない」
マグルの冷静な言葉が恨めしい。
フィリップはため息をついて、天井を見上げた。
「うまくいかないことばかりですね」
実感のこもったフィリップの言葉に、マグルはやたらしみじみとこう言った。
「人生というのは、そういうものだよ」
そう言うマグル王宮副魔術師長は、この春に結婚式を挙げ、夏の終わりには早くも新妻の妊娠が発覚したという、人生トントン拍子の男なのである。
フィリップは彼の言葉に、苦笑いしていた。
ただバーナードは、フィリップとの子を望んでいないわけではない。
生まれてくる子が、魔族であることが駄目だと言っているのだ。
もし、生まれてくる子が、確実に人間であるならば、彼はきっと喜んで子を望んでくれる。
どうにか確実に、実らせる子を人間にする方法はないものか。
フィリップは考え込んだ。
だが当然のように、良い考えなど簡単に思い浮かぶことはなかったのだった。
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