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第十五章 王立魔術学園の特別講師
第十一話 招待状
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なぜか、王立魔術学園の教室にバートと呼ばれる少年が聴講しに来ることが無くなってしまった。
ぷつりと彼の訪れが消えてしまったことに、アーゼンもセオドリックも、ルーシーもアンドレも「どうして」と疑問を抱いた。
忙しい授業の合間に、彼がいなくなった理由をいろいろと考えてみたが、どれもパッとしない。
セオドリックは「この教室に入って来た時も突然だったのだから、いなくなるのもそうだとしてもおかしくはない」と言っていた。そうはいっても、何も言わずに来なくなったのは残念だった。
ルーシーは、学園の教師に彼のことを尋ねてみたりしたのだが、どの教師達もその理由を知らないようで首を振るばかりだった。
元から聴講生ということで、教室の後ろにひっそりといるだけの存在だった。
多くの生徒達がそれ以上何も言わずに、日々の授業を受けて時間を過ごしていく。
このまま、彼は学園に二度と来ることがなくなってしまうのではないかと、アーゼンらは不安を抱いた。
ルーシーは、彼と彼を迎えに来る騎士の様子を見ることが密かに楽しみだった。
学園の鉄門の前に、彼を待って立っている金髪の美しい騎士。
物語に登場する騎士というのは、ああいう人を言うのだろうと思う。
真っ青な瞳に、整った容貌は、彼を待っている間は静かに無表情でいる。
だけど、門から出てきたバートを見つけた瞬間に輝くのを見るのが好きだった。
(ああ、この人はバートのことが本当に好きなんだ)
そうルーシーは思った。
王立騎士団の副騎士団長である彼は、名をフィリップといって、普段は王都の騎士団の拠点で忙しく働いている。
重責にある彼が、なぜか毎回バートを迎えに来るのだ。
そしてバートも「来るな」と邪険にしながらも、彼を見るその目がどこか柔らかい。
二人はいつも仲良く馬車に乗って去っていく。
(フィリップ副騎士団長様は、騎士団長と結婚しているという話だけど)
騎士団長の隠し子であるバートとは、一体どういう関係なのだろう。
ルーシーはいつもそのことを考えると、疑問で頭の中がいっぱいになってしまうが、麗しい騎士様と少年バートのやりとりを見ているのは楽しかったので、それ以上深く考えることはなかった。
そのルーシーの楽しみだった、迎えの騎士様も、バートが学園に来ないとなると姿を見ることができない。当然、好きだった二人の様子も見られない。
(そうだわ。騎士団にいるフィリップ副騎士団長様に会いに行って聞いてみればいいのよ)
名案だった。
(わざわざ学園に迎えに来てくれていたあの方なら、当然バートが学園に来なくなった理由も知っているはず)
迎えに来ることもピタリと止まっているのだから、知っているはずだ。
(でも、会いに行く理由がないといけないわ)
ルーシーは視線を教室の中に彷徨わせる。
それから、壁に貼られたポスターを見て、ハッと気が付いた。
(そうだわ!!)
名案を思い付いたのだった。
彼女はアーゼン、セオドリック、アンドレに声をかける。
一人で王都の王立騎士団の拠点に行く勇気はなかった。だけど、仲間達と一緒なら行ける。
アーゼンとアンドレは面白がって同行してくれることになったが、セオドリックには用事があると断られた。
だが、結果だけは教えて欲しいとずうずうしい願いをされたのだった。
ルーシーは、王立魔術学園の秋の学園祭の招待状を、フィリップ副騎士団長に手渡すことにしたのだった。
バートの分も含めて渡せば、きっと彼は受け取ってくれる。
その時に、バートのことを聞けばいいのだ。
そしてその日の夕方、善は急げとばかりにルーシー達は学園祭の招待状の入った封筒を持って王立騎士団の拠点までやって来ていた。
大きな拠点の建物の前で、ルーシー達は少しばかり怖気づいたように顔を見合わせていたが、しばらくして意を決した彼女は顔を上げ、門番に話しかける。
すると門番は不思議そうな顔をしながらも、ルーシーのことを建物の中の者に連絡をしてくれた。
やがて、三人の生徒達は「フィリップ副騎士団長がお会いするそうです」と言われ、なんと拠点の建物の中へと案内されたのだった。
三人の生徒達は声を潜めて話していた。
「騎士団の拠点に入れるなんて、すごい……」
「ちょっと自慢できるな」
と、案内をされている最中もきょろきょろと周りを見回してしまうのも仕方ないことであった。
三人は応接室に案内され、椅子に座った。
その最中にも落ち着きなく、周りを見回し続けていた。
扉がノックされた時は、三人とも緊張のあまり、飛び上がりそうになっていた。
入室して来たのは、フィリップ副騎士団長だった。
(はぁー、やっぱり素敵)
騎士の制服を着たその美麗な若者をウットリとルーシーは見惚れて眺めていた。
いつまでもずっと眺めていたい美形だった。
傍らのアーゼンの肘で突っつかれ、ルーシーは慌てて鞄から封筒を取り出した。
「お忙しい中、会って頂きありがとうございます。私達はバート君の同級生です。今度、王立魔術学園で学園祭が開かれます。是非、バート君にも、フィリップさんにも来て頂きたいと思い、招待状を持参しました」
「ご丁寧にありがとうございます」
フィリップ副騎士団長が微笑みながら、差し出された招待状を受け取る。
「学園祭はもうすぐなのですね」
「はい。来週です」
フィリップ副騎士団長は手帳を取り出して日程を見ている。
小さく「団長のスケジュールはなんとかなりそうだ」と呟いているのが意味不明だった。
(バーナード騎士団長のスケジュール管理はフィリップが行っています)
それから、アーゼンが尋ねた。
「あの、最近バート君が学園に来なくなったのはどうしてなのでしょうか。体調でも崩されたのでしょうか。皆、心配しています」
「バートは、忙しくなって学園に行けないだけです。でも、そのうちまた通えるようになると思います。心配してくれてありがとう。彼にもそう伝えておきます」
そして、必ずその招待状をバートに渡してくれると約束してくれた。
それから、フィリップ副騎士団長は、バートが学園でどう過ごしていたのか興味があるようで、バートの学園での様子を質問して来た。
それにはルーシー、アーゼン、アンドレは身振り手振りで話をし、フィリップ副騎士団長はにこやかにその話を聞いてくれて楽しい時間を過ごすことができた。
「行って良かったわ」
王立騎士団の拠点の建物を出たルーシーは、開口一番そう言った。
憧れの騎士様とテーブルを挟んでたくさん話が出来たのだ。もう一生の思い出にしても良い。
「そうだね。行って良かった。学園祭にはバートも来てくれるという話だし」
アーゼンの言葉に、アンドレも頷く。
「良かった。バートは学園祭は初めてになるんだ。あいつが学園に来たら、いっぱい案内してやろう」
三人は頷き合い、そして帰路についたのだった。
*
団長室に入ったフィリップ副騎士団長は、重厚なデスクの椅子に座って、書類をめくっている彼に話しかけた。
「お会いにならなくて、良かったのですか」
「会えるわけがなかろう」
バーナード騎士団長は書類に目を落としたまま、そう答える。
「会ってどうする。隠し子バートの父だが、息子が世話になっているとでも言うのか」
その言葉に、フィリップは吹き出した。
「面白いことをいいますね、貴方は」
デスクに近寄り、そっと封筒を差し出した。
王立魔術学園の、彼のクラスメイト達がわざわざ持参してくれた招待状だった。
来週の、王立魔術学園の学園祭の招待状。彼らはフィリップ副騎士団長の分まで用意してくれている。
バーナードが手紙を手に取り、封を開けると、中から手紙とチケット、そしてパンフレットが折り畳んだ状態で出てきた。
彼はそれを広げて読む。
その傍らでフィリップは言った。
「当日入っていた御用事は、ずらせるものでした。ずらしておきますね」
「もう、お前は行く方向で考えているのだな」
「行くのでしょう?」
その副騎士団長の問いかけに、バーナードは「せっかく招待状をもらったんだからな」と答えていた。
彼はどこか嬉しそうだった。
ぷつりと彼の訪れが消えてしまったことに、アーゼンもセオドリックも、ルーシーもアンドレも「どうして」と疑問を抱いた。
忙しい授業の合間に、彼がいなくなった理由をいろいろと考えてみたが、どれもパッとしない。
セオドリックは「この教室に入って来た時も突然だったのだから、いなくなるのもそうだとしてもおかしくはない」と言っていた。そうはいっても、何も言わずに来なくなったのは残念だった。
ルーシーは、学園の教師に彼のことを尋ねてみたりしたのだが、どの教師達もその理由を知らないようで首を振るばかりだった。
元から聴講生ということで、教室の後ろにひっそりといるだけの存在だった。
多くの生徒達がそれ以上何も言わずに、日々の授業を受けて時間を過ごしていく。
このまま、彼は学園に二度と来ることがなくなってしまうのではないかと、アーゼンらは不安を抱いた。
ルーシーは、彼と彼を迎えに来る騎士の様子を見ることが密かに楽しみだった。
学園の鉄門の前に、彼を待って立っている金髪の美しい騎士。
物語に登場する騎士というのは、ああいう人を言うのだろうと思う。
真っ青な瞳に、整った容貌は、彼を待っている間は静かに無表情でいる。
だけど、門から出てきたバートを見つけた瞬間に輝くのを見るのが好きだった。
(ああ、この人はバートのことが本当に好きなんだ)
そうルーシーは思った。
王立騎士団の副騎士団長である彼は、名をフィリップといって、普段は王都の騎士団の拠点で忙しく働いている。
重責にある彼が、なぜか毎回バートを迎えに来るのだ。
そしてバートも「来るな」と邪険にしながらも、彼を見るその目がどこか柔らかい。
二人はいつも仲良く馬車に乗って去っていく。
(フィリップ副騎士団長様は、騎士団長と結婚しているという話だけど)
騎士団長の隠し子であるバートとは、一体どういう関係なのだろう。
ルーシーはいつもそのことを考えると、疑問で頭の中がいっぱいになってしまうが、麗しい騎士様と少年バートのやりとりを見ているのは楽しかったので、それ以上深く考えることはなかった。
そのルーシーの楽しみだった、迎えの騎士様も、バートが学園に来ないとなると姿を見ることができない。当然、好きだった二人の様子も見られない。
(そうだわ。騎士団にいるフィリップ副騎士団長様に会いに行って聞いてみればいいのよ)
名案だった。
(わざわざ学園に迎えに来てくれていたあの方なら、当然バートが学園に来なくなった理由も知っているはず)
迎えに来ることもピタリと止まっているのだから、知っているはずだ。
(でも、会いに行く理由がないといけないわ)
ルーシーは視線を教室の中に彷徨わせる。
それから、壁に貼られたポスターを見て、ハッと気が付いた。
(そうだわ!!)
名案を思い付いたのだった。
彼女はアーゼン、セオドリック、アンドレに声をかける。
一人で王都の王立騎士団の拠点に行く勇気はなかった。だけど、仲間達と一緒なら行ける。
アーゼンとアンドレは面白がって同行してくれることになったが、セオドリックには用事があると断られた。
だが、結果だけは教えて欲しいとずうずうしい願いをされたのだった。
ルーシーは、王立魔術学園の秋の学園祭の招待状を、フィリップ副騎士団長に手渡すことにしたのだった。
バートの分も含めて渡せば、きっと彼は受け取ってくれる。
その時に、バートのことを聞けばいいのだ。
そしてその日の夕方、善は急げとばかりにルーシー達は学園祭の招待状の入った封筒を持って王立騎士団の拠点までやって来ていた。
大きな拠点の建物の前で、ルーシー達は少しばかり怖気づいたように顔を見合わせていたが、しばらくして意を決した彼女は顔を上げ、門番に話しかける。
すると門番は不思議そうな顔をしながらも、ルーシーのことを建物の中の者に連絡をしてくれた。
やがて、三人の生徒達は「フィリップ副騎士団長がお会いするそうです」と言われ、なんと拠点の建物の中へと案内されたのだった。
三人の生徒達は声を潜めて話していた。
「騎士団の拠点に入れるなんて、すごい……」
「ちょっと自慢できるな」
と、案内をされている最中もきょろきょろと周りを見回してしまうのも仕方ないことであった。
三人は応接室に案内され、椅子に座った。
その最中にも落ち着きなく、周りを見回し続けていた。
扉がノックされた時は、三人とも緊張のあまり、飛び上がりそうになっていた。
入室して来たのは、フィリップ副騎士団長だった。
(はぁー、やっぱり素敵)
騎士の制服を着たその美麗な若者をウットリとルーシーは見惚れて眺めていた。
いつまでもずっと眺めていたい美形だった。
傍らのアーゼンの肘で突っつかれ、ルーシーは慌てて鞄から封筒を取り出した。
「お忙しい中、会って頂きありがとうございます。私達はバート君の同級生です。今度、王立魔術学園で学園祭が開かれます。是非、バート君にも、フィリップさんにも来て頂きたいと思い、招待状を持参しました」
「ご丁寧にありがとうございます」
フィリップ副騎士団長が微笑みながら、差し出された招待状を受け取る。
「学園祭はもうすぐなのですね」
「はい。来週です」
フィリップ副騎士団長は手帳を取り出して日程を見ている。
小さく「団長のスケジュールはなんとかなりそうだ」と呟いているのが意味不明だった。
(バーナード騎士団長のスケジュール管理はフィリップが行っています)
それから、アーゼンが尋ねた。
「あの、最近バート君が学園に来なくなったのはどうしてなのでしょうか。体調でも崩されたのでしょうか。皆、心配しています」
「バートは、忙しくなって学園に行けないだけです。でも、そのうちまた通えるようになると思います。心配してくれてありがとう。彼にもそう伝えておきます」
そして、必ずその招待状をバートに渡してくれると約束してくれた。
それから、フィリップ副騎士団長は、バートが学園でどう過ごしていたのか興味があるようで、バートの学園での様子を質問して来た。
それにはルーシー、アーゼン、アンドレは身振り手振りで話をし、フィリップ副騎士団長はにこやかにその話を聞いてくれて楽しい時間を過ごすことができた。
「行って良かったわ」
王立騎士団の拠点の建物を出たルーシーは、開口一番そう言った。
憧れの騎士様とテーブルを挟んでたくさん話が出来たのだ。もう一生の思い出にしても良い。
「そうだね。行って良かった。学園祭にはバートも来てくれるという話だし」
アーゼンの言葉に、アンドレも頷く。
「良かった。バートは学園祭は初めてになるんだ。あいつが学園に来たら、いっぱい案内してやろう」
三人は頷き合い、そして帰路についたのだった。
*
団長室に入ったフィリップ副騎士団長は、重厚なデスクの椅子に座って、書類をめくっている彼に話しかけた。
「お会いにならなくて、良かったのですか」
「会えるわけがなかろう」
バーナード騎士団長は書類に目を落としたまま、そう答える。
「会ってどうする。隠し子バートの父だが、息子が世話になっているとでも言うのか」
その言葉に、フィリップは吹き出した。
「面白いことをいいますね、貴方は」
デスクに近寄り、そっと封筒を差し出した。
王立魔術学園の、彼のクラスメイト達がわざわざ持参してくれた招待状だった。
来週の、王立魔術学園の学園祭の招待状。彼らはフィリップ副騎士団長の分まで用意してくれている。
バーナードが手紙を手に取り、封を開けると、中から手紙とチケット、そしてパンフレットが折り畳んだ状態で出てきた。
彼はそれを広げて読む。
その傍らでフィリップは言った。
「当日入っていた御用事は、ずらせるものでした。ずらしておきますね」
「もう、お前は行く方向で考えているのだな」
「行くのでしょう?」
その副騎士団長の問いかけに、バーナードは「せっかく招待状をもらったんだからな」と答えていた。
彼はどこか嬉しそうだった。
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