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【短編】
王立魔術学園での講義 (3)
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本や魔道具がうず高く積まれている、狭い部屋の中で暴れられてはたまらないと、マグルは二人を止めた。
「もう、イチャつくのはいいから。二人とも大人しくしていろよ」
「どう見たらイチャついているように見えるんだ」
少年のバーナードを逃がさないように後ろから抱きしめているフィリップ。がっちりとその腕を掴んでいる。フィリップは人狼の呪いを受けてから、本当に力が強くなっており、ここまで掴まれ押さえ込まれると、バーナードの力をもってしても逃げられなかった。
「その姿は誰が見てもイチャついているようにしか見えないぞ、バーナード」
「糞、こいつ本当に馬鹿力になりやがって。もういい加減離せ、フィリップ」
「ダメです。一緒にマグルの話を聞きましょう。このままでいいでしょう?」
ぎゅっと抱きしめ、耳元で囁かれると息が敏感な場所に触れるのか、彼は少し顔を赤らめていた。
逃げようとしても駄目なことがわかると、諦めたように力を抜いていく。
「……仕方ない。このままで話を聞くぞ。今日あった講義の内容でわからないところがあったんだ」
真面目なバーナードはきちんと講義に出席し、教師の話を聞いている。ただ、聴講生であるために、分からない点を教師に質問することを控えている様子があった。彼には親友で王宮副魔術師長のマグルがいる。わからないことはマグルに聞けばいいだろうという安易な気持ちもあった。
「うん。なんだね、バーナード君」
調子に乗ったマグルが偉そうに椅子に足を組んで座り、顎に手をやる。
偉そうにしていても、偉そうに見えないのがマグルである。
「俺は魔族に関する授業も取っているのだが、今日、魔族が極端に減ったという歴史上の事件について話を聞いた。でも、そこはサラリと流されてしまって詳しく知ることができなかったんだ。アレはいったいなんなんだ」
「ああ、“神殺し”の話だろう。禁忌事項だから、生徒には触りしか教えないよ」
「禁忌事項?」
「生徒に教えるには問題があるとされている事項だよ。上級魔術師くらいになると一部解除されると思う。お前も上級魔術師になれば知ることができるぞ!!」
マグルがドヤ顔をしていう。
王宮副魔術師長のマグルは、当然上級資格も持っていた。彼はその禁忌事項も理解しているのだろう。
「そこまで制限がされる内容なのか?」
「そうだね。魔族と神々の戦いの契機になった事件だから。そして魔族はその時に神の怒りにあって相当数を減らした。まぁ、彼らは滅ぼされても当然のことをしたので、仕方がなかったと言える。お前は騎士団長、そしてフィリップは副騎士団長だからこの禁忌事項を話してもいいだろう。魔族はその時、一人の神を捕えて、神を喰い殺したんだよ」
「…………」
凄惨な話に、バーナードもフィリップも言葉を無くした。
「神だから、殺しても復活する。魔族は彼を何度も殺しては喰い、喰っては殺したという。その当時関わった魔族、魔王らはすべて一人残らず他の神々の手により滅された。そうそう、聖王国の聖騎士団はその流れを受けて作られたんだ。魔は滅するべきものという教えもね。それまではそこまで、魔に対する嫌悪も神々の中にはなかった」
「神だから復活するというのなら、囚われていた神は救い出されたんだろう。その後、助かったのではないか」
バーナードの問いかけに、マグルは肩をすくめる。
「神と言えども、何十回何百回も喰われて殺されてを繰り返されて、マトモでいられると思う? 実際、それ以来、その神の名は、語られることもなくなった。一説によると狂った彼を最終的には“殺す”ために、大神の持つ“全てを砕く剣”が使われたという話だ。それでかの神の魂を砕いた」
その時、バーナードの脳裏に、以前、聖王国の魔術師副師団長サムエルが語った言葉が蘇った。
『神子様として代々選ばれる者は、“神の欠片”をその魂に内在する者です』
『かつて、遠い昔、その魂が砕かれた神がおりました。その魂はこの世界の人間達の中に散らばり落ちて、人間の魂の中に混ざってしまいました。私どもは、その“神の欠片”を魂の中に内在させた者を神子様としてお迎えしているのです』
聖王国の騎士や魔術師達が、魔族が神子に近づくことを警戒するのは当然のことだった。
魔族に喰われ殺され、狂った神の魂の欠片を、神子は魂の中に持っている。
そんな凄惨な事件が、神子マラケシュの存在の裏にあるとは知らなかった。
「それで、その神は殺されたというわけですか。ヒドイお話ですね」
話を聞いたフィリップも顔をしかめている。
マグルは続けた。
「そうだね。ヒドイ話だ。まぁ、それで話は終わったわけではなくて、砕かれた“神の欠片”を集めようとする者達が多い。それは魔族に限らず、人間もそうなんだ。“神の欠片”というだけあって、膨大なエネルギーを秘めているからね。ただ、そうした行為は表立っては行われない。やはり、神々の怒りを招く行為であるからだ。それゆえの禁忌事項になっている」
神子マラケシュも言っていた。
『僕の精力は、飛び抜けて美味しいから』
過去には淫魔の王、女王、王子に狙われたと言っていた。
“神の欠片”を内在させるだけあって、神子マラケシュは魔族にとって非常に魅力的な存在なのだろう。攫われることを恐れ、その欠片の持ち主であるマラケシュはあの壮麗な神殿に閉じ込められて育てられている。
「錬金術の材料としても最上級のものとされている。僕は一度としてその欠片を見たことはないけれど、なにせ“神の欠片”だからね」
マグルは淡々と話し続けている。
殺された後は、膨大なエネルギー源として、錬金術の材料としてみなされているというその神は、あまりにも哀れに思えた。
バーナードはマグルに問いかけた。
「その殺された神の名はなんというんだ?」
「エイリース神だよ。かつての狩りの神で、水神リーンの娘婿になるはずだった神。大神の寵愛も深かった少年神だ」
「もう、イチャつくのはいいから。二人とも大人しくしていろよ」
「どう見たらイチャついているように見えるんだ」
少年のバーナードを逃がさないように後ろから抱きしめているフィリップ。がっちりとその腕を掴んでいる。フィリップは人狼の呪いを受けてから、本当に力が強くなっており、ここまで掴まれ押さえ込まれると、バーナードの力をもってしても逃げられなかった。
「その姿は誰が見てもイチャついているようにしか見えないぞ、バーナード」
「糞、こいつ本当に馬鹿力になりやがって。もういい加減離せ、フィリップ」
「ダメです。一緒にマグルの話を聞きましょう。このままでいいでしょう?」
ぎゅっと抱きしめ、耳元で囁かれると息が敏感な場所に触れるのか、彼は少し顔を赤らめていた。
逃げようとしても駄目なことがわかると、諦めたように力を抜いていく。
「……仕方ない。このままで話を聞くぞ。今日あった講義の内容でわからないところがあったんだ」
真面目なバーナードはきちんと講義に出席し、教師の話を聞いている。ただ、聴講生であるために、分からない点を教師に質問することを控えている様子があった。彼には親友で王宮副魔術師長のマグルがいる。わからないことはマグルに聞けばいいだろうという安易な気持ちもあった。
「うん。なんだね、バーナード君」
調子に乗ったマグルが偉そうに椅子に足を組んで座り、顎に手をやる。
偉そうにしていても、偉そうに見えないのがマグルである。
「俺は魔族に関する授業も取っているのだが、今日、魔族が極端に減ったという歴史上の事件について話を聞いた。でも、そこはサラリと流されてしまって詳しく知ることができなかったんだ。アレはいったいなんなんだ」
「ああ、“神殺し”の話だろう。禁忌事項だから、生徒には触りしか教えないよ」
「禁忌事項?」
「生徒に教えるには問題があるとされている事項だよ。上級魔術師くらいになると一部解除されると思う。お前も上級魔術師になれば知ることができるぞ!!」
マグルがドヤ顔をしていう。
王宮副魔術師長のマグルは、当然上級資格も持っていた。彼はその禁忌事項も理解しているのだろう。
「そこまで制限がされる内容なのか?」
「そうだね。魔族と神々の戦いの契機になった事件だから。そして魔族はその時に神の怒りにあって相当数を減らした。まぁ、彼らは滅ぼされても当然のことをしたので、仕方がなかったと言える。お前は騎士団長、そしてフィリップは副騎士団長だからこの禁忌事項を話してもいいだろう。魔族はその時、一人の神を捕えて、神を喰い殺したんだよ」
「…………」
凄惨な話に、バーナードもフィリップも言葉を無くした。
「神だから、殺しても復活する。魔族は彼を何度も殺しては喰い、喰っては殺したという。その当時関わった魔族、魔王らはすべて一人残らず他の神々の手により滅された。そうそう、聖王国の聖騎士団はその流れを受けて作られたんだ。魔は滅するべきものという教えもね。それまではそこまで、魔に対する嫌悪も神々の中にはなかった」
「神だから復活するというのなら、囚われていた神は救い出されたんだろう。その後、助かったのではないか」
バーナードの問いかけに、マグルは肩をすくめる。
「神と言えども、何十回何百回も喰われて殺されてを繰り返されて、マトモでいられると思う? 実際、それ以来、その神の名は、語られることもなくなった。一説によると狂った彼を最終的には“殺す”ために、大神の持つ“全てを砕く剣”が使われたという話だ。それでかの神の魂を砕いた」
その時、バーナードの脳裏に、以前、聖王国の魔術師副師団長サムエルが語った言葉が蘇った。
『神子様として代々選ばれる者は、“神の欠片”をその魂に内在する者です』
『かつて、遠い昔、その魂が砕かれた神がおりました。その魂はこの世界の人間達の中に散らばり落ちて、人間の魂の中に混ざってしまいました。私どもは、その“神の欠片”を魂の中に内在させた者を神子様としてお迎えしているのです』
聖王国の騎士や魔術師達が、魔族が神子に近づくことを警戒するのは当然のことだった。
魔族に喰われ殺され、狂った神の魂の欠片を、神子は魂の中に持っている。
そんな凄惨な事件が、神子マラケシュの存在の裏にあるとは知らなかった。
「それで、その神は殺されたというわけですか。ヒドイお話ですね」
話を聞いたフィリップも顔をしかめている。
マグルは続けた。
「そうだね。ヒドイ話だ。まぁ、それで話は終わったわけではなくて、砕かれた“神の欠片”を集めようとする者達が多い。それは魔族に限らず、人間もそうなんだ。“神の欠片”というだけあって、膨大なエネルギーを秘めているからね。ただ、そうした行為は表立っては行われない。やはり、神々の怒りを招く行為であるからだ。それゆえの禁忌事項になっている」
神子マラケシュも言っていた。
『僕の精力は、飛び抜けて美味しいから』
過去には淫魔の王、女王、王子に狙われたと言っていた。
“神の欠片”を内在させるだけあって、神子マラケシュは魔族にとって非常に魅力的な存在なのだろう。攫われることを恐れ、その欠片の持ち主であるマラケシュはあの壮麗な神殿に閉じ込められて育てられている。
「錬金術の材料としても最上級のものとされている。僕は一度としてその欠片を見たことはないけれど、なにせ“神の欠片”だからね」
マグルは淡々と話し続けている。
殺された後は、膨大なエネルギー源として、錬金術の材料としてみなされているというその神は、あまりにも哀れに思えた。
バーナードはマグルに問いかけた。
「その殺された神の名はなんというんだ?」
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