217 / 568
【短編】
王立魔術学園での講義 (1)
しおりを挟む
広い教室の中、初老の魔術の教師が前方の台の上に立ち、拡声の効果がある棒状の魔道具の前で語り始めた。教室の中にはぎっしりと、制服姿の少年少女達が座って、真剣な表情で教師の話に耳を傾けている。
ここは王都の王立魔術学園。
王国内で最も歴史があり、そして魔術師を目指す者達の最高峰とされる学園であった。
その教室の一番後ろの席で、バーナードは魔法でまた少年の姿にその身を変えて、神妙な面持ちで授業を聞いていた。
バーナードは先日の副都の事件の際、ヴェルヌ魔法学園で魔法の授業を聴講した。この時の授業を聞いた経験が良かったもので、バーナードはその後も魔法の授業を受けたいと考えた。
早速、親友で王宮副魔術師のマグルに相談したところ、王立魔術学園出身の彼は、学園長と直接話をつけて、バーナードが授業を自由に聴講する許しを得たという。
ただ、王立騎士団の騎士団長の姿のまま出席すれば、同じ教室にいる子供達を動揺させ、緊張させるのではないかと思われた。そのため、バーナード騎士団長は“若返りの魔道具”を使って子供の姿で学びに来ている。
通常の騎士団の業務があるために、週に一、二度程度しか聴講できないことが歯痒くもある。騎士学校出身で、魔法の授業も一通りは学んだことがあるが、深く学べる面白さがあった。
騎士団でも魔法の素養がある者もいる。能力向上のため、彼らも魔術学園の授業を聴講してもらう機会を設けることも良いかも知れない。
バーナードはつらつらとそんなことも考えながら、授業が終わった後、教科書類をまとめて鞄に入れた。
王立魔術学園の制服は黒に近い濃紺色のズボンとシャツ、そしてフードのついた黒いローブである。いずれも小さく蛇と杖をモチーフにした学園の紋章が刺繍されている。魔術学園の服務規定は、騎士学校よりも緩いのだろう。髪がぼさぼさの者も多く、中には化粧もしている女子がいることには驚いた。バーナードのいた騎士学校では、一部の隙もなく服装を整えるのが当然だった。日々、服装が乱れていないか厳しくチェックされる。変わり者が多い魔術師の養成学校は違うものだと感じた。
バーナードが一人、スタスタと学園の門をくぐったところで、彼の姿を認めた。
満面の笑みを浮かべ、手を振っているのは、王立騎士団副騎士団長のフィリップだった。
美貌の騎士の青年が、門のところで待ち構えているのに、バーナードが来る前から通りかかる魔術学園の生徒達の熱い視線を集めていた。
バーナードはため息をついて、すぐに彼の腕を掴むとその場を早足で離れるように歩いていく。
フィリップを小声で責めるように言う。
「おい、迎えに来るなと言っただろう」
フィリップは王都一と謳われるほどの美貌である。門前に立っているだけでも噂になっていた。彼に迎えに来られると目立ってしまう。目立たないようにと思って、若返りの魔道具を使っているのに。
フィリップは嬉しそうに魔術学園の制服姿のバーナードを上から下まで眺めていた。
「その制服もとてもよくお似合いです、バーナード」
「ここではバートだと言っただろう」
「はい、そうでした」
注意されても全然へこたれないようでニコニコとしている。彼は少年姿のバーナードを迎えに来て嬉しいのだ。迎えに来るなと言っても、彼はやってくる。
一目、少年姿のバーナードに会いたいがためだった。
「迎えに来られると困る。お前は目立つんだ」
「心配なんです。その姿の貴方がとてもかわいいから」
「俺は別に普通だろう。そんなことを言うのはお前だけだ」
「殿下もきっとそう思っていますよ」
そう言うフィリップの言葉に険がある。その言葉をバーナードはあえて聞き流した。
「仕方ない、馬車で行くか」
副騎士団長を引き連れて歩くと目立ってしまう。
その言葉に「どこへこれから行かれるんですか」とフィリップは尋ねた。
「マグルのところだ。授業でわからなかったところを聞きに行く。あいつは今日、半休で家にいるという話だ」
そうしてバーナードは馬車乗り場に行くと、その日は仕事を早く終わらせたというフィリップも一緒に馬車に乗り、マグルの家へ向かったのだった。
ここは王都の王立魔術学園。
王国内で最も歴史があり、そして魔術師を目指す者達の最高峰とされる学園であった。
その教室の一番後ろの席で、バーナードは魔法でまた少年の姿にその身を変えて、神妙な面持ちで授業を聞いていた。
バーナードは先日の副都の事件の際、ヴェルヌ魔法学園で魔法の授業を聴講した。この時の授業を聞いた経験が良かったもので、バーナードはその後も魔法の授業を受けたいと考えた。
早速、親友で王宮副魔術師のマグルに相談したところ、王立魔術学園出身の彼は、学園長と直接話をつけて、バーナードが授業を自由に聴講する許しを得たという。
ただ、王立騎士団の騎士団長の姿のまま出席すれば、同じ教室にいる子供達を動揺させ、緊張させるのではないかと思われた。そのため、バーナード騎士団長は“若返りの魔道具”を使って子供の姿で学びに来ている。
通常の騎士団の業務があるために、週に一、二度程度しか聴講できないことが歯痒くもある。騎士学校出身で、魔法の授業も一通りは学んだことがあるが、深く学べる面白さがあった。
騎士団でも魔法の素養がある者もいる。能力向上のため、彼らも魔術学園の授業を聴講してもらう機会を設けることも良いかも知れない。
バーナードはつらつらとそんなことも考えながら、授業が終わった後、教科書類をまとめて鞄に入れた。
王立魔術学園の制服は黒に近い濃紺色のズボンとシャツ、そしてフードのついた黒いローブである。いずれも小さく蛇と杖をモチーフにした学園の紋章が刺繍されている。魔術学園の服務規定は、騎士学校よりも緩いのだろう。髪がぼさぼさの者も多く、中には化粧もしている女子がいることには驚いた。バーナードのいた騎士学校では、一部の隙もなく服装を整えるのが当然だった。日々、服装が乱れていないか厳しくチェックされる。変わり者が多い魔術師の養成学校は違うものだと感じた。
バーナードが一人、スタスタと学園の門をくぐったところで、彼の姿を認めた。
満面の笑みを浮かべ、手を振っているのは、王立騎士団副騎士団長のフィリップだった。
美貌の騎士の青年が、門のところで待ち構えているのに、バーナードが来る前から通りかかる魔術学園の生徒達の熱い視線を集めていた。
バーナードはため息をついて、すぐに彼の腕を掴むとその場を早足で離れるように歩いていく。
フィリップを小声で責めるように言う。
「おい、迎えに来るなと言っただろう」
フィリップは王都一と謳われるほどの美貌である。門前に立っているだけでも噂になっていた。彼に迎えに来られると目立ってしまう。目立たないようにと思って、若返りの魔道具を使っているのに。
フィリップは嬉しそうに魔術学園の制服姿のバーナードを上から下まで眺めていた。
「その制服もとてもよくお似合いです、バーナード」
「ここではバートだと言っただろう」
「はい、そうでした」
注意されても全然へこたれないようでニコニコとしている。彼は少年姿のバーナードを迎えに来て嬉しいのだ。迎えに来るなと言っても、彼はやってくる。
一目、少年姿のバーナードに会いたいがためだった。
「迎えに来られると困る。お前は目立つんだ」
「心配なんです。その姿の貴方がとてもかわいいから」
「俺は別に普通だろう。そんなことを言うのはお前だけだ」
「殿下もきっとそう思っていますよ」
そう言うフィリップの言葉に険がある。その言葉をバーナードはあえて聞き流した。
「仕方ない、馬車で行くか」
副騎士団長を引き連れて歩くと目立ってしまう。
その言葉に「どこへこれから行かれるんですか」とフィリップは尋ねた。
「マグルのところだ。授業でわからなかったところを聞きに行く。あいつは今日、半休で家にいるという話だ」
そうしてバーナードは馬車乗り場に行くと、その日は仕事を早く終わらせたというフィリップも一緒に馬車に乗り、マグルの家へ向かったのだった。
22
お気に入りに追加
1,152
あなたにおすすめの小説
完結・虐げられオメガ妃なので敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
Crash!〜溺愛から始まる元魔王と元騎士の優雅なる?転生生活〜
天咲 琴葉
BL
魔王と相討ちになり、斃れた騎士ユージーン。
彼はその生前の功績から、国を守る女神の御元に招かれる。
そこで彼は、平和な異世界に転生する事を願うのだが、その異世界には『とある先客』が既にいる様で――?!
これは、平和を求めた騎士が、新しい世界で大切なモノを取り戻すまでの日々の記録だ――。
王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
僕の番
結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが――
※他サイトにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる