騎士団長が大変です

曙なつき

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第十四章 王家の庭の霊樹

第三話 衣装

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 湯殿から上がったバートは、新しく用意されている白い服を見て驚いた。
 それは純白の衣装だった。裾の長い、詰襟の白い服は、どこか礼装じみている。
 こうして湯殿に入らされ、改まって用意されていることを奇妙に思っていた。
 その衣装にはふんだんに小さな金剛石とパールが縫い付けられ、重みも感じる。

 まるで結婚式に臨むような豪華な衣装だなと内心思い、慌てて頭を振った。

 バカバカしい。

 そして下着を手にした時、バートの顔色が変わった。


「……なんだこれは」

 それは小さな布切れと紐でしかないものだった。
 かろうじて股間を覆い、腰の両サイドで紐で結い留めるソレを見て、バートは大理石の床に叩きつけた。

「なっ、なんてものを用意しているんだ!!」

 怒りのあまり、ゴミ箱の中に突っ込みたかったが、彼のその行動を予期していたのだろうか、湯殿を出た後の脱衣所にゴミ箱は置かれてなかった。
 もう一度、脱いだ下着を身に付けようかと思ったが、それすらも早々に持ち去られている。

 バートはギリギリと歯を噛み締めた。

(糞っ、あの変態の王太子め!! 相変わらずの羞恥責めか!!)

 思い返せば、あの王太子は変態だった。
 以前も伽に行った時は、部屋に大きな鏡を設置して、交わる様子をバートに見せつけようとしていたし、言葉でもネチネチと責めてくる。
 あんな変態と、セーラ妃もよく結婚したものだ。

 そして床に叩きつけた破廉恥な下着を睨みつける。

(俺はあのような破廉恥なものは絶対に身に付けないからな!!)
(絶対にだ!!)

 そして伽に来るのは一年以上ぶりだったバートは思い出したのだ。
 あの時も、ネチネチと責められ続けたので、もう二度と王太子の許には伽には来ないと内心誓っていたことを。
 一年経って、そのことを忘れていたバートであった。



 湯殿から上がったバートが部屋に戻ると、そこにはすでにエドワード王太子がいて、純白の衣装を身に付けたバートを見ると、喜色を浮かべて近寄って来た。

「バート、お前にその衣装はよく似合うな」

 そのお褒めの言葉に、バートは顔を引きつらせる。
 その衣装には、あの紐状の下着も含まれているのだろうか。
 内心、頭に来ていた。

「……そうですか」

 結局、バートはあの頼りない下着を身に付けることはやめていた。結果的に、裾の長いその衣装の下には何もつけられず、スースーとして不安感を覚える。

(糞!! なんでこんな目に遭うんだ。それもこれもこの変態のせいで)

 この変態と内心思われているエドワード王太子は、彼のその心情には全く気付いていないようで、ご機嫌な様子だった。

「お前と今日、私は揃いの白だ。どうだ、よく似合うだろう」

「……はい」

 確かに、エドワード王太子も純白の衣装をまとっていた。真っ白い上着には、バートの衣装と同じように金剛石と小さなパールが縫い付けられている。刺繍もふんだんに刺されているソレ。
 豪奢な黄金色の髪を持つ白皙の王太子である。その豪華な礼装がまたよく似合っていた。
 エドワードは、バートの頬に手を添え、口づけた。

「そなたが一週間しかいられないというのは残念だ」

「……申し訳ありません、仕事が立て込んでいるためです」

「七日間は仕事の話はするなよ、バート」

「はい」

 エドワードはバートを自身の膝の上に座らせると、本格的に深く口づけをしていた。舌を絡める濃厚なそれに、たちまち淫魔であるバートは息を上がらせ、その瞳を潤ませる。
 このまま寝台に雪崩れ込むのではないかと思っていたところ、名残惜し気にエドワードは唇を離した。

「お前を連れて行かねばならぬ場所があった。今はお預けだ」

 そしてもう一度、そっとその唇に唇を触れ合わせたのだった。
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