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第十二章 副都事件
第十二話 落ちていく
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目が覚めた時、自分は誰かの背に担がれて運ばれていた。がっしりとした身の丈の高い男の背に担がれている。荷物のように無造作に、男の肩からその身体が下げられている。
すんと小さく鼻を利かせると、顔の周りに、嗅いだことのある薬品の匂いが漂っていた。
騎士団にいるという仕事柄、この匂いはよく知っていた。
相手を眠らせる時に使う強めの睡眠薬だった。
この時ほど、エドワード王太子が渡してくれた“浄化の指輪”に感謝したことはなかった。
もしこの指輪が無ければ、薬が非常に効きやすい体質のバートは昏々と眠りについたままだったろう。
バートを背負っている男は、バートが薬品で眠りについたままだと思っている。
男の歩いている揺れで、目はしっかりと覚めていた。
目は覚めたが、バートは大人しく、男の背に背負われるままになっていた。
とりあえず、どこに運ばれるか様子を見るのがいいだろう。
運んでいる男は、売春組織の者か。それとも、マラケシュの言う悪魔崇拝者なのか。
はたまた第三者なのかまったく分からない。
そもそも自分が何故こうして攫われることになっているのかも分からなかった。
どこかで自分が調査役だという情報が漏れたのか。
若しくは、単純に獲物として狙われたのか。それもわからなかった。
今、外を男が早足で歩いている。
そう、寮の屋根裏の部屋から連れ出されて、男は学園の裏手に広がる茂みの中を歩いていた。
暗い夜道、迷うことなく真っ直ぐに進んで行く。
そして。
ある場所に辿り着いた男は足を止め、いとも簡単にバートのその少年の身体を捨てたのだった。
深い深い、井戸の底に向かって放り投げた。
その瞬間に、自分を担いでいた男の顔が目に入った。
血のように真っ赤な髪をした若い男だった。釣り目が印象的で、一目見たら忘れられない。
(しまった)
宙に舞う身体。
そのまま暗い穴に向かって落ちていく。
手を伸ばす。
壁に触れた指先が擦れていき、皮が剥け、爪が何枚も剥がれた感触があった。
すぐさま“身体強化”を働かせて、壁のでっぱりに手をかける。
指先に熱と痛みを感じるが、顔をしかめて耐える。
そしてなんとか、底まで落下することは食い止められたのだった。
上を見上げると、この井戸穴に捨てていった男の姿はもうない。
バートは息を吐いた。
もし、意識なくこの井戸に落とされていたならば、この深い井戸の底に叩きつけられて死んでいただろう。
今更ながら、剥げた爪先がズキズキと痛む。
上まで、でっぱりをたどって這い上がるしかない。
そして、下からはキキキキという獣じみた無数の声が聞こえてきた。蠢く音も聞こえる。
何かがたくさん、井戸の下にいる。
ゾッとした。
もし下に落ちたら、きっと下にいる何かが、自分の死体を喰らっていたのだろう。
今だって、虎視眈々と落ちてくるのを待ち構えている。
ソレらの目が自分をじっと見つめていることを感じた。
(早く……上に上がろう)
でっぱりを見つけ、そしてそれに手をかけて這い上がる。
淫魔の能力で夜目が効くことも助かった。
長い時間をかけて、バートは井戸を這いあがる。
井戸の底を覗くと、下にいた何かの気配は消えていた。
井戸の底に横穴でもあるのかも知れない。
ソレはここに投げ込まれた者を喰らっているようだ。
きっとあの男が無造作に投げ捨てたことから、自分だけではなく、他の者も投げ捨てられたことがあるはずだった。
地上に戻ったバートはため息をつき、ある者を問い詰めるために、走り出した。
すんと小さく鼻を利かせると、顔の周りに、嗅いだことのある薬品の匂いが漂っていた。
騎士団にいるという仕事柄、この匂いはよく知っていた。
相手を眠らせる時に使う強めの睡眠薬だった。
この時ほど、エドワード王太子が渡してくれた“浄化の指輪”に感謝したことはなかった。
もしこの指輪が無ければ、薬が非常に効きやすい体質のバートは昏々と眠りについたままだったろう。
バートを背負っている男は、バートが薬品で眠りについたままだと思っている。
男の歩いている揺れで、目はしっかりと覚めていた。
目は覚めたが、バートは大人しく、男の背に背負われるままになっていた。
とりあえず、どこに運ばれるか様子を見るのがいいだろう。
運んでいる男は、売春組織の者か。それとも、マラケシュの言う悪魔崇拝者なのか。
はたまた第三者なのかまったく分からない。
そもそも自分が何故こうして攫われることになっているのかも分からなかった。
どこかで自分が調査役だという情報が漏れたのか。
若しくは、単純に獲物として狙われたのか。それもわからなかった。
今、外を男が早足で歩いている。
そう、寮の屋根裏の部屋から連れ出されて、男は学園の裏手に広がる茂みの中を歩いていた。
暗い夜道、迷うことなく真っ直ぐに進んで行く。
そして。
ある場所に辿り着いた男は足を止め、いとも簡単にバートのその少年の身体を捨てたのだった。
深い深い、井戸の底に向かって放り投げた。
その瞬間に、自分を担いでいた男の顔が目に入った。
血のように真っ赤な髪をした若い男だった。釣り目が印象的で、一目見たら忘れられない。
(しまった)
宙に舞う身体。
そのまま暗い穴に向かって落ちていく。
手を伸ばす。
壁に触れた指先が擦れていき、皮が剥け、爪が何枚も剥がれた感触があった。
すぐさま“身体強化”を働かせて、壁のでっぱりに手をかける。
指先に熱と痛みを感じるが、顔をしかめて耐える。
そしてなんとか、底まで落下することは食い止められたのだった。
上を見上げると、この井戸穴に捨てていった男の姿はもうない。
バートは息を吐いた。
もし、意識なくこの井戸に落とされていたならば、この深い井戸の底に叩きつけられて死んでいただろう。
今更ながら、剥げた爪先がズキズキと痛む。
上まで、でっぱりをたどって這い上がるしかない。
そして、下からはキキキキという獣じみた無数の声が聞こえてきた。蠢く音も聞こえる。
何かがたくさん、井戸の下にいる。
ゾッとした。
もし下に落ちたら、きっと下にいる何かが、自分の死体を喰らっていたのだろう。
今だって、虎視眈々と落ちてくるのを待ち構えている。
ソレらの目が自分をじっと見つめていることを感じた。
(早く……上に上がろう)
でっぱりを見つけ、そしてそれに手をかけて這い上がる。
淫魔の能力で夜目が効くことも助かった。
長い時間をかけて、バートは井戸を這いあがる。
井戸の底を覗くと、下にいた何かの気配は消えていた。
井戸の底に横穴でもあるのかも知れない。
ソレはここに投げ込まれた者を喰らっているようだ。
きっとあの男が無造作に投げ捨てたことから、自分だけではなく、他の者も投げ捨てられたことがあるはずだった。
地上に戻ったバートはため息をつき、ある者を問い詰めるために、走り出した。
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