騎士団長が大変です

第十一章 聖王国の神子

第十六話 手紙

　それから半月後、王立騎士団の詰め所に一通の手紙が届いた。
　王立騎士団副騎士団長のフィリップは、見慣れない紋章の描かれたその手紙に、首を傾げながら、ペーパーナイフで丁寧に手紙を開封していく。
　やがて、その手がわなわなと震えだした。

「……団長……バーナード騎士団長」

　手紙を手に、団長室の彼の元へ急いで足を運ぶと、彼はデスクで書類を読んでいた。
　その顔を上げる。

「どうした、フィリップ副騎士団長」

「貴方に、聖王国大神殿の神子殿から、手紙が届いています。これは一体どういうことですか」

　デスクの上に、手紙が置かれた。
　バーナードはその手紙を手に取り、読んで、声を上げて笑っていた。





　王立騎士団
　バーナード騎士団長殿

　大変ご無沙汰申し上げております。
　お元気でいらっしゃるでしょうか。ここ最近はお会いすることもなく、とても寂しく思っております。

　先日、貴方様がご興味を持っていた、我が国の湖ですが、避暑の為の別荘がございます。
　夏にでも、是非、遊びに来て頂けないでしょうか。
　
　その際には、釣りにももちろん、ご案内致します。
　貴方様に贈られた釣り竿を持って、一緒に釣りを致しましょう。

　



　そして文末には、神子の署名があった。

　フィリップはわなわなと手を震わせていた。

「バーナード……聖王国は魔族には厳しく、魔族は討伐を受けるという話を聞いたことはありますか？」

「ああ、知っている」

　そう、実際、夢の中で聖騎士達に襲い掛かられたのだから、当然知っている。

「これは、バーナードに対する罠です。貴方をおびき寄せて、討伐しようとしているんです」

「…………………そうだな」

　バーナードは喉の奥で、くくくと笑った。

「でも、聖王国の湖には、あの湖固有の珍しい淡水魚がいてな」

「バーナード、それも罠の一つです。貴方を珍しい魚でおびき寄せようとする」

　バーナードはにやりと笑うと、いつまでも心配し続けるフィリップ副騎士団長の頬に手を添えた。

「お前は心配性だな。かわいい奴だ」

　その言葉に、フィリップは頬を赤く染めながらもなおも言った。

「団長、本当に、聖王国はダメです。貴方が討伐されたら、私は……私は……」

　バーナードは嬉しそうに笑いながら、愛しの副騎士団長の顔を見つめた。

「俺が討伐されたら、どうするんだ？」

「貴方を殺した奴を殺して、その後、私も死にます」






「……………」

　バーナードは口元に手を当て、自身も顔を赤らめてぽつりと呟いた。

「ちょっとぐっと来たが、俺が討伐されたからといって、お前が死ぬのは無しだからな……」

「バーナード」

「もうそろそろ、仕事も終わりの時間だ。今日は、お前の屋敷に立ち寄ろう。そして、色々と積もる話を話してやる」

　そう言って、バーナード騎士団長は、自身のマントをさっと羽織り、フィリップを誘ったのだった。

「さあ、帰るぞ」