騎士団長が大変です

曙なつき

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第十一章 聖王国の神子

第十五話 名乗り

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 神剣を抜くことができたバーナードに対して、戦意を喪失したらしい聖騎士二人は、改めて自身の名を名乗った。

「聖騎士団騎士団長ガディス=レイトナーだ」

「同じく、聖騎士団副騎士団長クラン=エセックスであります」

 そう名乗られては、バーナードも名乗らざるを得なかった。

「アルセウス王国王立騎士団、騎士団長バーナードだ」

 黒髪の男の名乗りを聞いたガディスとクランは顔を見合わせた。

「アルセウス王国と言うと、半島の国でありますね」

「ああ、そうだ」

「貴殿は、騎士団長? 淫魔の身で?」

 その問いかけに、バーナードはため息をつく。

「先日、そちらの神子殿に話を聞いたのだが、“淫魔の王女”と“淫魔の王子”を聖騎士団で討伐したそうだな。その後、その淫魔の位が突然、人間である私に引き継がれたのだ」

「…………………」

 バーナードの言葉に、ガディスとクランも言葉を失った。

「それから私は淫魔になった。聖騎士団で王女と王子を討伐したことは間違いないのだな」

「……はい」

 なんと言っていいのかわからない。
 突然、人間の身に淫魔の位が継承される?
 そんなことがあるなど、聞いたことがない。
 だが現実に、目の前の騎士の男はそうだと言っている。

 もしそうならば、彼も被害者と言っても良い話ではないか。
 とんだとばっちりで、淫魔になってしまったという。

 ガディスとクランの二人の聖騎士は、なんと言って良いのかわからないような顔をして、黙り込んでしまった。
 バーナードは、神剣の美しい刀身をじっと見つめた後、どこか名残惜し気にそれを鞘に仕舞った。
 そして、神子のマラケシュに手渡した。

「その剣のおかげで助かった。ありがとう」

 神剣は、神子の身を守るものとして、夢の中へも持ち込んだものだった。
 過去、三人の淫魔に狙われ、戦いの場となった時も、お守りのようにやはりその剣を持ち続けたものだった。

 マラケシュは、目の前の凛々しい黒髪の騎士の男の姿を、まじまじと見つめて言った。

「……ガディス達にはすぐに本当の名前を教えて、貴方はヒドイな」

「仕方ないだろう」

「本当は騎士だったとか。漁師じゃないなんて嘘つきじゃないか!!」

 マラケシュのその怒りっぷりに、バーナードは声を上げて笑った。

「お前があんまりにも俺のことを信じているから、面白くて。ついな。だが、釣りが好きなのは確かだ」

「本当に釣りが好きなの? 本当に?」

 その問いかけに、バーナードは頷いた。

「ああ、好きだ。そうだ、お前に贈り物があったんだ。すぐに戦いになってしまったので、その辺りに落としてしまったと思うが……」

 バーナードはそれを探して、拾い上げて来た。

「夢の中には持ち込むことができたが、夢の外へそれを持ち出すことができるかわからない。試してくれ、マラケシュ」

「…………これは何?」

 それに、バーナードはマラケシュの頭をぽんぽんと撫でながら、優しく言った。

「王国の最新の伸縮式釣り竿だ。お前に丁度いいと思って持ってきた」

 リボンまでつけられて、プレゼント仕様になっている。
 しかし、釣り竿?
 マラケシュは、そんなものを手にするのは初めてであった。また、それは神殿の神子に対して奉納されたこともないものだった。
 そんなものを神子に奉納しようと考える方がおかしい。
 おかしいけど、魚好きで、釣り好きな小鳥からの贈り物としてはふさわしい気がした。

「………………ありがとう」

 少しだけ、マラケシュは頬を染めて嬉しそうにそう言った。
 実は釣りなど一度もしたことはなかった。でも、それでも嬉しい。
 それは、小鳥からの初めての贈り物だった。
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