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第十章 王宮副魔術師長の結婚
第七話 大妖精の古い友人
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ご隠居様と呼ばれる、妖精達の尊敬を集める大妖精に呼ばれていると知って、フィリップはバーナードと顔を見合わせた。
二人の男の脳裏に浮かんだのは、先日、妖精の国へやって来た時に、大妖精に依頼した件であった。
淫魔であるバーナードと共に暮らしていくため、フィリップの身体に害が出ないようにして欲しい。
つまりは、バーナードと釣り合う身体にして欲しいという願いだった。
(バーナードは淫夢をフィリップに送る度に、フィリップは精力を吸い取られてやつれていっていた。誘惑を拒否するように言っても、すっかり淫夢に耽溺しているフィリップはそれが出来ない有様で、そのうち干からびるのではないかと危惧していた)
大妖精たる老人は、妖精女王が迷惑をかけた詫びとして、その願いを聞き届けると言った。
ただ、古い友人に声をかける必要があり、すぐに願いを叶えることはできないと言っていたが。
もしや、その準備が整ったという連絡だろうか。
立ち上がり、フィリップと一緒に行こうとしているバーナードに向かって、お仕着せを着た妖精はぺこりと頭を下げた。
「お呼び立てしているのは、フィリップ様だけです。バーナード様は、どうぞこのままこちらでお待ち下さい」
「……………」
仕方なく、バーナードは大広間に留まる。
ご隠居様は、極めて常識のある大妖精であった。一人で行くフィリップの身に何か起きることはないだろう。
「すぐに戻ってまいります、団長」
フィリップはそう言って、そっとバーナードの手に触れてから、お仕着せを着て先導する小さな妖精の後をついて歩いていった。
お仕着せを着た小さな妖精は、フィリップが大広間から離れ、誰もいない静かな廊下を歩いている時に、彼に声を潜めて話しかけてきた。
「これから、フィリップ様にはご隠居様と、ご隠居様の古いご友人にお会いして頂きます」
「はい」
お仕着せを着ているこの妖精は、随分と知的だった。
他の、感情のまま猪突猛進に飛び回る妖精達とは雰囲気からして違っていた。
「古いご友人の前では、決して、バーナード騎士団長のお話はしてはなりません。それはお約束して下さい」
「……どうしてですか?」
「騎士団長は……“淫魔の王女”の称号を持つ御方は特別なのです」
「……どういうことですか?」
「魔族の中でも、“淫魔の王女”と“淫魔の女王”の立ち位置は特別なのです。普通のサキュバスは数多くいますが、王女位、女王位の御方はこの世にお一人ずつしかおりません。後ほど、ご隠居様からもお話しされるでしょうが、現在、その唯一の“淫魔の王女”の称号を得ているのが、バーナード騎士団長なのです」
つまり、団長はかなりレアな存在だというのだ。
そこでふと思い出した。
そもそも、バーナード騎士団長に“淫魔の王女の加護”を授けたのは、黒い巻き毛にふるいつきたくなるような美しい容姿の女サキュバスで、彼女は“淫魔の王女”であると名乗っていた。
彼女がいるならば、バーナードが唯一ということではないのでは。
その考えを見越したかのように、小さな妖精はこう言った。
「バーナード騎士団長は、亡くなった“淫魔の王女”から、その称号を引き継いでいるのです」
あの女サキュバスが、死んだというのだ。
そのことにフィリップは驚いていた。
死んだから、バーナードが称号を引き継いだ。
引き継いだというよりも、いつの間にか勝手になっていたというのが正確だろうが……。
「さあ、皆さまがお待ちです」
お仕着せを着た小さな妖精が、扉を開いた。
扉の向こうには、卓を囲んで椅子に座った二人の男がいた。
一人は小柄な、あのご隠居様と呼ばれる大妖精であった。
彼の対面に、浅黒い肌をした大柄な男が座って、酒の入っている杯をあおっている。
フィリップが部屋に入ると、彼は片眉を上げて、こちらを見た。
浅黒い肌に、黒髪、そして黄色の瞳をした精悍な顔立ちの男だった。左頬に白い傷が走っている。
どこか荒々しい様子のある男で、戦士だろうかとフィリップは思った。
身体も鍛えられていて、筋肉に覆われている感じである。
「おお、待っておったぞ」
ご隠居様と呼ばれる老人はフィリップを見て微笑み、椅子を勧めた。
「さあさあ、こちらに座るがよい。ビヨルン、これがワシの言っていた男だ」
ビヨルンと呼ばれた、大男はジロジロとフィリップを見つめていた。
「人間にしては綺麗な男だな。本当に、俺の仲間に入れていいのか?」
俺の仲間?
問いかけるように、視線をご隠居様に向ける。
ご隠居様と呼ばれる老人は頷いた。
「精力に溢れる身になることを、彼は望んでいる。そなたが良いだろう」
その言葉に、ビヨルンは吹き出した。
「ハハハハハハハッ、まぁ、違いない。俺の仲間になると、それは保証できるな。そんな変わった望みがあるのか。でも反対に、今度は溢れすぎて解消できなくなって、困るぞ」
「綺麗な男だから、相手には事欠かないだろう」
「なるほど、なるほど」
ビヨルンはひどく面白がっていた。
「わかった、わかった。では、お前を“呪って”やろう」
そう、ビヨルンは黄色の目を光らせ、フィリップを睨みつけたのだった。
二人の男の脳裏に浮かんだのは、先日、妖精の国へやって来た時に、大妖精に依頼した件であった。
淫魔であるバーナードと共に暮らしていくため、フィリップの身体に害が出ないようにして欲しい。
つまりは、バーナードと釣り合う身体にして欲しいという願いだった。
(バーナードは淫夢をフィリップに送る度に、フィリップは精力を吸い取られてやつれていっていた。誘惑を拒否するように言っても、すっかり淫夢に耽溺しているフィリップはそれが出来ない有様で、そのうち干からびるのではないかと危惧していた)
大妖精たる老人は、妖精女王が迷惑をかけた詫びとして、その願いを聞き届けると言った。
ただ、古い友人に声をかける必要があり、すぐに願いを叶えることはできないと言っていたが。
もしや、その準備が整ったという連絡だろうか。
立ち上がり、フィリップと一緒に行こうとしているバーナードに向かって、お仕着せを着た妖精はぺこりと頭を下げた。
「お呼び立てしているのは、フィリップ様だけです。バーナード様は、どうぞこのままこちらでお待ち下さい」
「……………」
仕方なく、バーナードは大広間に留まる。
ご隠居様は、極めて常識のある大妖精であった。一人で行くフィリップの身に何か起きることはないだろう。
「すぐに戻ってまいります、団長」
フィリップはそう言って、そっとバーナードの手に触れてから、お仕着せを着て先導する小さな妖精の後をついて歩いていった。
お仕着せを着た小さな妖精は、フィリップが大広間から離れ、誰もいない静かな廊下を歩いている時に、彼に声を潜めて話しかけてきた。
「これから、フィリップ様にはご隠居様と、ご隠居様の古いご友人にお会いして頂きます」
「はい」
お仕着せを着ているこの妖精は、随分と知的だった。
他の、感情のまま猪突猛進に飛び回る妖精達とは雰囲気からして違っていた。
「古いご友人の前では、決して、バーナード騎士団長のお話はしてはなりません。それはお約束して下さい」
「……どうしてですか?」
「騎士団長は……“淫魔の王女”の称号を持つ御方は特別なのです」
「……どういうことですか?」
「魔族の中でも、“淫魔の王女”と“淫魔の女王”の立ち位置は特別なのです。普通のサキュバスは数多くいますが、王女位、女王位の御方はこの世にお一人ずつしかおりません。後ほど、ご隠居様からもお話しされるでしょうが、現在、その唯一の“淫魔の王女”の称号を得ているのが、バーナード騎士団長なのです」
つまり、団長はかなりレアな存在だというのだ。
そこでふと思い出した。
そもそも、バーナード騎士団長に“淫魔の王女の加護”を授けたのは、黒い巻き毛にふるいつきたくなるような美しい容姿の女サキュバスで、彼女は“淫魔の王女”であると名乗っていた。
彼女がいるならば、バーナードが唯一ということではないのでは。
その考えを見越したかのように、小さな妖精はこう言った。
「バーナード騎士団長は、亡くなった“淫魔の王女”から、その称号を引き継いでいるのです」
あの女サキュバスが、死んだというのだ。
そのことにフィリップは驚いていた。
死んだから、バーナードが称号を引き継いだ。
引き継いだというよりも、いつの間にか勝手になっていたというのが正確だろうが……。
「さあ、皆さまがお待ちです」
お仕着せを着た小さな妖精が、扉を開いた。
扉の向こうには、卓を囲んで椅子に座った二人の男がいた。
一人は小柄な、あのご隠居様と呼ばれる大妖精であった。
彼の対面に、浅黒い肌をした大柄な男が座って、酒の入っている杯をあおっている。
フィリップが部屋に入ると、彼は片眉を上げて、こちらを見た。
浅黒い肌に、黒髪、そして黄色の瞳をした精悍な顔立ちの男だった。左頬に白い傷が走っている。
どこか荒々しい様子のある男で、戦士だろうかとフィリップは思った。
身体も鍛えられていて、筋肉に覆われている感じである。
「おお、待っておったぞ」
ご隠居様と呼ばれる老人はフィリップを見て微笑み、椅子を勧めた。
「さあさあ、こちらに座るがよい。ビヨルン、これがワシの言っていた男だ」
ビヨルンと呼ばれた、大男はジロジロとフィリップを見つめていた。
「人間にしては綺麗な男だな。本当に、俺の仲間に入れていいのか?」
俺の仲間?
問いかけるように、視線をご隠居様に向ける。
ご隠居様と呼ばれる老人は頷いた。
「精力に溢れる身になることを、彼は望んでいる。そなたが良いだろう」
その言葉に、ビヨルンは吹き出した。
「ハハハハハハハッ、まぁ、違いない。俺の仲間になると、それは保証できるな。そんな変わった望みがあるのか。でも反対に、今度は溢れすぎて解消できなくなって、困るぞ」
「綺麗な男だから、相手には事欠かないだろう」
「なるほど、なるほど」
ビヨルンはひどく面白がっていた。
「わかった、わかった。では、お前を“呪って”やろう」
そう、ビヨルンは黄色の目を光らせ、フィリップを睨みつけたのだった。
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