騎士団長が大変です

曙なつき

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第十章 王宮副魔術師長の結婚

第三話 話し合い

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 バーナードがフィリップに予約させた店は、個室のあるお洒落な店だった。
 海鮮の煮込みが美味しい店を選ぶところが、バーナードのことを思うフィリップらしかった。
 バーナードも何回かフィリップと一緒にその店で食事をとったことがあったが、魚介が新鮮で味が良い。
 そして彼は、最近になって気が付いたのだが“封印の指輪”をつけながら酒を飲むと、昏倒することなく普通でいられるのだ。
 その事実を知ったバーナードは感動し、一方のフィリップは憮然としていた。

「これで、今まで飲めなかった酒が、また飲めるようになるのか」

 バーナードは喜んで、高い酒を注文しだした。禁酒してきた反動がきている。
 “淫魔の王女の加護”を得て以来、何事にも敏感になっていた彼であったが、“封印の指輪”をつけることで、“淫魔”の能力を封印できるのだ。
 結果として、酒に極端に弱いという点も打ち消されるのだろう。

 一方のフィリップはぶつぶつと呟いていた。

「……“封印の指輪”でバーナードの敏感さが打ち消される? なんとかあの指輪を……隠さないと」

 とぼそりと物騒なことを呟いていたが、ご機嫌に杯を重ねだしているバーナードは気が付いていなかった。
 そこに、カトリーヌ嬢を連れて現れたのがマグルであった。

 すでにバーナードとフィリップが、酒を飲みだしている様子にマグルは呆れていた。

「おい、お前ら何もう飲みだしているんだ」

「マグル」

 バーナードはマグルの手を掴み、上下に振った。

「お前の発明の才に感謝するぞ。ありがとうマグル」

 すでに少し酔った気配が漂っているバーナード。だが、念願の彼女の前で褒められたことが嬉しいのか、マグルは照れていた。

「いやぁ、それほどでも」

「………………」

 フィリップは余計なことを……というような目付きでジロリとマグルを見つめた。
 “封印の指輪”があるせいで、バーナードは酒で昏倒することもなくなり、敏感になることもなく(媚薬で狂うこともなくなり)、“淫夢”も見せてくれなくもなる。また自分の夢の中へはあれ以来一度も渡ってきてくれていない。いいことが一つもない指輪であった。……フィリップの夢に渡らないのは、ケモミミ軍衣事件が響いているのだが、フィリップはその事実をスルーしていた。
 なんとかバーナードの目を盗んで、あの指輪を取り上げないといけないと考えていた。


 マグルの傍らのカトリーヌは、バーナードとフィリップに対して綺麗に一礼した。

「お久しぶりです。バーナード騎士団長、フィリップ副騎士団長」

「ああ、久しぶりだな」

 カトリーヌはマグルが引いてくれた椅子に座り、皆、グラスを手に乾杯する。

「カトリーヌ嬢との再会と、二人の結婚を祈念して乾杯だ」

 その言葉にマグルとカトリーヌは目を合わせて微笑み合う。
 ワインを飲みながら、バーナードはマグルに尋ねた。

「カトリーヌ嬢に、あちらの世界の話は全て聞いたのか?」

「ああ。聞いた」

 フィリップとセリーヌ、カトリーヌの姉妹が妖精の国に迷い込み、元の世界に戻るために妖精の王族達の力を借りたこと。その際、セリーヌと妖精王子が恋に落ち、二人が結婚することになったこと。そして妖精王子の迎えを阻止するため、父たる教授が冒険者を雇ったことなど。カトリーヌはマグルへ知らせることが遅れたことを詫びながら、話してくれた。

「ユスタニア渓谷が、妖精の国とそんなに近い場所だとは知らなかった。バーナード、お前が子供の頃、よく釣りに行っていた場所じゃないか」

 バーナードはうなずいた。

「ああ、あそこはよく魚が釣れるスポットだ。そして俺も昔、妖精の国に紛れ込んだことがあるんだ」

「……お前らしいな」

 マグルは苦笑する。

「だから、また一度妖精の国へ渡るのならば、あの渓谷からが良いと思う。来週末にでも、行ってみないか」

「お前は随分気軽に行ってくれるな。そんな簡単に渡れるのか? 妖精の国に?」

 それにバーナードはうなずいて、またワインを飲み干す。
 隣のフィリップは、彼が飲み過ぎではないかと思うほどハイペースで酒を飲んでいた。
 思い起こせば、バーナードは加護を受ける前は酒が好きで、強い方であった。

「妖精王子の元に嫁いだ姉妹の妹がいるんだ。たぶん、彼らも喜んで招いでくれると思う」

「そうか」

「ただ……」

 バーナードはチロリとフィリップを見つめて言った。

「あちらには男好きの妖精女王がいる。武器を用意していかないと、フィリップがまた襲われるだろう」

「そうですね。あの妖精女王に会う可能性があります。ちゃんと備えていかないと、またフィリップさんが襲われますね」

 カトリーヌも同意する。
 それを見て、マグルは言った。

「ええ? 妖精女王ってそんな男好きなの? 本当?」

「「間違いなく男好きだ」」

 バーナードとカトリーヌは二人して同意していた。

「大丈夫ですよ。前回もなんとかなりましたから」

 フィリップはそう言うが、前回の二回目の女王襲来の時には、フィリップは眠らされ今まさに女王に襲われる時にバーナードが助けたのだ。
 
「それに、相当あの女王はバーナードに怯えていましたよ」

 最後の方ではヒーと情けない悲鳴を上げ、もう手は出さないから許してくれとまで懇願していた。

「お前があの女王に襲われるのは勘弁して欲しい。また殿下にお願いして剣をお借りしよう」

 そのバーナードの言葉に、フィリップは首を振った。

「…………私はこれ以上、殿下に借りを作って欲しくないです」
 
 バーナードにたくさんの借りを作らせて、あの王太子はきっと喜んでいるだろう。
 そして一番良いであろうタイミングで、それを取り立てるはずだ。
 麗しい王太子の姿をしていながらも、その心の奥底にはドロリとしたまとわりつく欲を感じていた。
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