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【短編】
古代ダンジョン踏破と魔術師の恨みつらみ (7)
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第七話 王宮への宿泊
王都の路上に複数の魔物が出現し、どうやらそれがギガントダンジョンと関わりがあると知った王は、バーナード騎士団長とフィリップ副騎士団長二人に、今晩は王宮へ泊まるように命じた。
侯爵家と王家の依頼によるダンジョン探索であったわけだから、陛下が心配して二人を王宮に留め置こうとするのも当然の話であった。
王宮はその敷地すべてを結界で幾重にも覆われている。“王家の庭”にある霞かかる霊樹を中心とした結界は、いかなる敵も破ることはできないと言われている。
魔術師ギガントに狙われているのならば、王宮で宿泊することが良いことは確かであった。王宮外ならば、いつ狙われるかわからずに気が休まらないだろう。
王立騎士団長バーナードと副騎士団長フィリップは、立派な客室に案内された。
客室の横には、浴室までついており、夕食も部屋まで運んでくれるという。
至れり尽くせりの待遇である。
バーナードはため息をついて、羽織っていたマントを外した。フィリップがそれを受け取り、衣装棚にしまう。
襟元を緩ませて、バーナードは椅子に座った。
「面倒なことになった」
「いかがなさいますか」
「……マグルは言っていた。不老に近いであろうあの魔術師は、時間もあることだろうから、執拗に我々を狙い続けるだろうと。上手くいかなくても、諦めずに執拗に、何度も何度も狙い続けるだろうと」
「そうですね」
「だから、明日、陛下にヴァンドライデンをお借りして、倒しに行く」
「わかりました」
フィリップは浴室の浴槽に湯をはり始めた。
白い陶器製の、猫足をした立派な浴槽である。
「湯が張れたら、一緒に入浴しましょう、バーナード」
「……お前一人で入れ」
「一緒に入るんです。そして愛し合いましょう」
フィリップの言葉に、バーナードはやや目を見開き、彼を見つめた。
「……ここは王宮だ」
フィリップは、バーナードの座る椅子に近寄ると、その肩に手を置き、耳元で囁いた。
「殿下がいるから、お嫌なのですか?」
耳朶を食む。
「……………」
「殿下のことですから、私と貴方が愛し合う様子を見ているかも知れませんね。でも、私は構わないです」
「フィリップ」
バーナードのその胸元のボタンを外していく。シャツのボタンを全て外し、手をその胸に差し入れる。目元を朱に染める彼の唇に、自身の唇を押し当てた。
「浴室に行きましょう。貴方は私の精を受け取って、力をつけなければなりません。魔術師を倒すのでしょう? ならば今晩は、よく愛し合わなければ」
浴室に連れ込まれ、バーナードはフィリップに浴槽の中で何度も愛された。
寝台に場所を変えても幾度となく精を注がれ、その身をフィリップはきつく抱きしめる。
フィリップからの愛を、バーナードは確かに感じていた。
そしてその苛立ちも。
かつてこの王宮で、王太子に対して伽をしていた自分に対しての不満と不安。それは恐らく今後も、尽きることはないだろう。
そのことに対する罪悪感もあり、バーナードは執拗ともいえるほど、自分を強く求めるフィリップの手をはねのけることはできなかった。
不安ならば、彼のその不安がなくなるまでその側にいて、彼に応えるしかない。
彼のことを想うならば。
後ろからのしかかり、繋がりながら、その手と手を重ね、ぴったりと折り重なる。
「ん……あ」
後ろに振り向かせ、唇を重ねて舌を求める。
彼は従順だった。
首筋を舐めては、吸い、所有の痕跡をつける。色鮮やかに何か所にも。
根本まで埋め込まれたそれを、彼はきつく絞るように締め付けていく。太腿を流れ落ちる白濁。
とろりと情欲に濡れる茶色の瞳。
指で、彼の高ぶっている欲望も優しく扱くとたちまち昇りつめ、喘ぎながら果てて行く。
軋む寝台。熱い吐息に、切なげな声。乱れる黒髪に、張り詰めた汗に濡れた肌。
「バーナード……もう一度、キスして下さい」
そう言うと、彼は唇を開く。
ずっとこのまま、朝まで一緒に愛し合いたかった。
翌朝、フィリップが目を覚ます前にバーナードはすでに身支度を終えていた。
浴室で身をすでに清めていたのだろう。軍衣をまとい、マントを羽織って一部の隙もない姿をしている。
「おはようございます……バーナード」
世界がどこか黄色く見える。
昨夜、さんざんバーナードの身を貪ったのに、彼は相変わらずおかしなことに、セックスによって体力が増強されており、昨日にも増して元気そうに見えていた。対してフィリップは、少しばかりやつれて顔色が悪い。
「……昨日は……お前はちょっとやり過ぎたんじゃないか」
彼の言葉に、フィリップは苦笑した。
「すみません。貴方は、お元気そうで良かったです」
「ああ、お前のおかげでな」
そう言って、バーナードは少し照れながら、横になっているフィリップの唇に、音を立てて口づけした。
「辛いなら、お前は今日、ここで休んでいてもいいぞ」
「とんでもありません。私も今、支度します」
フィリップは、置いていかれてはたまらないとばかりに、慌てて寝台から起き上がり、浴室で身を清めた。
手早く軍衣を身に付けていく。
そうしている間、バーナードは椅子に足を組んで座り、顎に手を当てて考え込んでいる様子があった。
その腰には、竜剣ヴァンドライデンがすでに下げられている。
朝早くに侍従長が届けに来たようだ。
用意が出来たフィリップを連れて、バーナードは出立しようとしたところを、王宮から慌ててマグルがやって来る。
「僕も連れていってよー。古代魔術師ギガントに会いたいからさ!!」
「……危険があると思うが」
「大丈夫、大丈夫」
そう言って、マグルもまた自分の馬に跨り、バーナード達の後を追ったのだった。
王都の路上に複数の魔物が出現し、どうやらそれがギガントダンジョンと関わりがあると知った王は、バーナード騎士団長とフィリップ副騎士団長二人に、今晩は王宮へ泊まるように命じた。
侯爵家と王家の依頼によるダンジョン探索であったわけだから、陛下が心配して二人を王宮に留め置こうとするのも当然の話であった。
王宮はその敷地すべてを結界で幾重にも覆われている。“王家の庭”にある霞かかる霊樹を中心とした結界は、いかなる敵も破ることはできないと言われている。
魔術師ギガントに狙われているのならば、王宮で宿泊することが良いことは確かであった。王宮外ならば、いつ狙われるかわからずに気が休まらないだろう。
王立騎士団長バーナードと副騎士団長フィリップは、立派な客室に案内された。
客室の横には、浴室までついており、夕食も部屋まで運んでくれるという。
至れり尽くせりの待遇である。
バーナードはため息をついて、羽織っていたマントを外した。フィリップがそれを受け取り、衣装棚にしまう。
襟元を緩ませて、バーナードは椅子に座った。
「面倒なことになった」
「いかがなさいますか」
「……マグルは言っていた。不老に近いであろうあの魔術師は、時間もあることだろうから、執拗に我々を狙い続けるだろうと。上手くいかなくても、諦めずに執拗に、何度も何度も狙い続けるだろうと」
「そうですね」
「だから、明日、陛下にヴァンドライデンをお借りして、倒しに行く」
「わかりました」
フィリップは浴室の浴槽に湯をはり始めた。
白い陶器製の、猫足をした立派な浴槽である。
「湯が張れたら、一緒に入浴しましょう、バーナード」
「……お前一人で入れ」
「一緒に入るんです。そして愛し合いましょう」
フィリップの言葉に、バーナードはやや目を見開き、彼を見つめた。
「……ここは王宮だ」
フィリップは、バーナードの座る椅子に近寄ると、その肩に手を置き、耳元で囁いた。
「殿下がいるから、お嫌なのですか?」
耳朶を食む。
「……………」
「殿下のことですから、私と貴方が愛し合う様子を見ているかも知れませんね。でも、私は構わないです」
「フィリップ」
バーナードのその胸元のボタンを外していく。シャツのボタンを全て外し、手をその胸に差し入れる。目元を朱に染める彼の唇に、自身の唇を押し当てた。
「浴室に行きましょう。貴方は私の精を受け取って、力をつけなければなりません。魔術師を倒すのでしょう? ならば今晩は、よく愛し合わなければ」
浴室に連れ込まれ、バーナードはフィリップに浴槽の中で何度も愛された。
寝台に場所を変えても幾度となく精を注がれ、その身をフィリップはきつく抱きしめる。
フィリップからの愛を、バーナードは確かに感じていた。
そしてその苛立ちも。
かつてこの王宮で、王太子に対して伽をしていた自分に対しての不満と不安。それは恐らく今後も、尽きることはないだろう。
そのことに対する罪悪感もあり、バーナードは執拗ともいえるほど、自分を強く求めるフィリップの手をはねのけることはできなかった。
不安ならば、彼のその不安がなくなるまでその側にいて、彼に応えるしかない。
彼のことを想うならば。
後ろからのしかかり、繋がりながら、その手と手を重ね、ぴったりと折り重なる。
「ん……あ」
後ろに振り向かせ、唇を重ねて舌を求める。
彼は従順だった。
首筋を舐めては、吸い、所有の痕跡をつける。色鮮やかに何か所にも。
根本まで埋め込まれたそれを、彼はきつく絞るように締め付けていく。太腿を流れ落ちる白濁。
とろりと情欲に濡れる茶色の瞳。
指で、彼の高ぶっている欲望も優しく扱くとたちまち昇りつめ、喘ぎながら果てて行く。
軋む寝台。熱い吐息に、切なげな声。乱れる黒髪に、張り詰めた汗に濡れた肌。
「バーナード……もう一度、キスして下さい」
そう言うと、彼は唇を開く。
ずっとこのまま、朝まで一緒に愛し合いたかった。
翌朝、フィリップが目を覚ます前にバーナードはすでに身支度を終えていた。
浴室で身をすでに清めていたのだろう。軍衣をまとい、マントを羽織って一部の隙もない姿をしている。
「おはようございます……バーナード」
世界がどこか黄色く見える。
昨夜、さんざんバーナードの身を貪ったのに、彼は相変わらずおかしなことに、セックスによって体力が増強されており、昨日にも増して元気そうに見えていた。対してフィリップは、少しばかりやつれて顔色が悪い。
「……昨日は……お前はちょっとやり過ぎたんじゃないか」
彼の言葉に、フィリップは苦笑した。
「すみません。貴方は、お元気そうで良かったです」
「ああ、お前のおかげでな」
そう言って、バーナードは少し照れながら、横になっているフィリップの唇に、音を立てて口づけした。
「辛いなら、お前は今日、ここで休んでいてもいいぞ」
「とんでもありません。私も今、支度します」
フィリップは、置いていかれてはたまらないとばかりに、慌てて寝台から起き上がり、浴室で身を清めた。
手早く軍衣を身に付けていく。
そうしている間、バーナードは椅子に足を組んで座り、顎に手を当てて考え込んでいる様子があった。
その腰には、竜剣ヴァンドライデンがすでに下げられている。
朝早くに侍従長が届けに来たようだ。
用意が出来たフィリップを連れて、バーナードは出立しようとしたところを、王宮から慌ててマグルがやって来る。
「僕も連れていってよー。古代魔術師ギガントに会いたいからさ!!」
「……危険があると思うが」
「大丈夫、大丈夫」
そう言って、マグルもまた自分の馬に跨り、バーナード達の後を追ったのだった。
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