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【短編】
古代ダンジョン踏破と魔術師の恨みつらみ (1)
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第一話 森林の中にある古代のダンジョン
王都の南には、大きく広がる森林地帯があった。
そこはこの王国よりも遥か昔にあった国の遺跡が、緑に飲み込まれて在った。遺跡のほとんどが朽ちていたが、それでも価値のある遺物を掘り出す者もいた。掘り出されたもので貴重なものは、非常に高値がついた。
冒険者達は、遺物を求めて嬉々として森林の奥へ足を踏み入れ、遺跡の発掘をしていたが、地下何層にも渡る古い遺跡の中には、危険な罠が仕掛けられていたり、奇怪な古代生物が襲いかかってくることもあった。
遺跡の奥に分け入り、戻って来ない冒険者達も多い。
バーナード騎士団長は冒険者ではない。
繰り返すが、王立騎士団の騎士団長であって、冒険者ではないのだ。
本来であれば、遺跡探索のため、南の森林地帯になんぞ足を踏み入れるはずもなかったが、彼はヴィッセル侯爵家から直々に話が持ちかけられ、更には国王の「頼む」という言葉まで受けては引き受けざるを得なかった。現侯爵と国王は乳兄弟にあたり、非常に仲が良いのだ。
ヴィッセル侯爵家三男のシャウルは、三男坊という気軽な立場から、彼は王立学園を卒業後、冒険者になっていた。元からそうした探索の才能があったのだろう。彼はこの王都南の遺跡において、数々の遺物を掘り出しては、オークションで売りさばき、大金を手にしていた。王都の冒険者の中でも、腕利きと言われる部類であろう。
その彼が、“ギガントの遺跡”に挑戦すると言って、姿を消したのが二週間ほど前になる。
“ギガントの遺跡”は、王都南の森林地帯の最も奥にある遺跡で、ダンジョンになっていることで有名であった。ギガントという名の魔術師が作り上げたそのダンジョンは、別名“エロスのダンジョン”とも呼ばれていた。
そう、迷路の中には大量のエロ石像が転がり、壁画もエロ壁画、全面破廉恥なエロの芸術(?)が展開されているのだ。面白がってその“ギガントの遺跡”に挑戦するカップルの冒険者達も多い。
一層、二層と深度を増す度に、要求されるエロも高度に……注文が多くなるらしい。
四十二階層まで突入した強者もいたが、それ以上、下の階層にはとても挑戦できないと、その強者の冒険者も赤面し、匙を投げてしまうほどの難度の高い“エロダンジョン”であった。
その“エロダンジョン”で消息を絶った、侯爵家三男のシャウルを探して出して、連れ戻して欲しい。それが国王と侯爵家からの内々の依頼であった。
バーナード騎士団長は「はぁ」とため息をついていた。
騎士団として引き受けた仕事ではない。個人としてヴィッセル侯爵家と陛下からの依頼を受けて引き受けたものだから、彼は現在、騎士団の軍装を身に付けず、私服だった。ダンジョンで動きやすいような、冒険者がまとう服を身に付けている。シャツにズボンにマントを羽織り、軽めの簡素な革の甲冑をまとっている。腰にはしっかりと剣を佩いていた。
彼の傍らには、同じような格好をしたフィリップ副騎士団長がいた。フィリップは、笑みを浮かべまいとしても、自然に口元が緩んでしまうことが耐えられなかった。
(バーナード騎士団長と……エロダンジョン……)
このエロいダンジョンで、これから起こるであろうことを考えるだけで、すでに高ぶり、鼻血が出そうな思いである。エロダンジョンに挑むことに嫌そうな団長と対照的なフィリップであった。
ダンジョンの中身が中身のため、バーナードは伴侶であるフィリップと二人で臨むことにしていた。
周りはやはり、カップルの冒険者が多く見え、大抵が身を寄せ合い、期待に頬を紅潮させて、手を絡ませてダンジョンの入口をくぐっていくのが、どこかいかがわしかった。雰囲気的には連れ込み宿に入るようなものである。
バーナードは不機嫌そうに眉間に皺を寄せ、フィリップに言った。
「さっさと入るぞ。ついてこいフィリップ」
「はい」
(団長は……嫌そうだな)
他の冒険者のように、イチャイチャしたいと言ったら、睨まれそうな雰囲気だった。
相変わらず、お堅いのだから。
(でも、真面目でそういうところが、団長はいいんだけどな)
一階の道を進む中でも、壁にはいわゆる春画のたぐいの絵がデカデカと極彩色で描かれ、柱には交歓する人間達の彫刻が刻み込まれている。
「……何を考えてこんなダンジョンを作ったんだ。そのギガントという魔術師は……」
バーナードの悪態混じりの言葉に、フィリップは答えた。
「ひどく好色な魔術師だったという話ですね。毎夜毎夜、集会を開いて、人間の男女は元より、魔物、魔族の類とも乱交していたとか」
「…………」
「このダンジョンも、趣味で作ったと言う話ですよ」
「随分と手の込んだ趣味だ。その情熱を別のものに向けたのなら、きっと後世に残る素晴らしい業績を残せただろうに」
そのバーナードの言葉を聞きながらも、フィリップは内心、こうして時代を越えてある意味愛されているエロダンジョンを作っただけでも、立派な業績と言えるのじゃないかと思っていた。もちろん、そのことは口にしない。
いつの間にか、先に入っていたカップルの冒険者達の姿が見えなくなっている。
このダンジョンの不思議なところは、グループ毎に、きちんとルートが自動的に振り分けられることだった。
先を行っているカップル達のルートとは違う道に、自分達は進んでいるのだろう。
どのようなルートに振り分けられるかは、ランダムらしい。
四方を壁に囲まれた道を進んでいくと、部屋に突き当たった。
そしてその部屋に入った途端、入口の石扉がゴゴゴゴと音を立てながら閉められていく。
事前に資料で知っていたとはいえ、閉じ込められる状況になるのは気分がよくない。
この部屋は、いわゆる『〇〇しないと出られない』という問題が出されている部屋で、その〇〇は、階層によって要求度が違うらしい。
この一階の部屋の設問は共通で、よく知られていた。
部屋の中央に石板があり、その石板には古代語で『一分間キスしないと出られない』とあった。
それくらいは軽い要求であった。
「バーナード」
彼を呼ぶと、バーナードは不機嫌そうな顔のまま、そばまでやって来た。
「キスしましょう」
「……ああ」
彼の頬に手を添え、そしてその唇に自分の唇を重ねる。
思わず、その腰を抱き寄せるようにして、深く口づけをする。
「……ん」
舌まで入れられるとは思っていなかったのだろう。バーナードの目が驚いたように見開かれる。
「んん」
唾液すら互いに飲み込むようなそのねっとりとした口づけをしていると、やがて反対側の石扉が開いていく。
少し荒く息をつきながら、唇を離したバーナードは言った。
「扉が開いた。行くぞ、フィリップ」
濡れた唇を拭い、さっさと先を急ごうとする彼の背を、フィリップは慌てて追ったのだった。
王都の南には、大きく広がる森林地帯があった。
そこはこの王国よりも遥か昔にあった国の遺跡が、緑に飲み込まれて在った。遺跡のほとんどが朽ちていたが、それでも価値のある遺物を掘り出す者もいた。掘り出されたもので貴重なものは、非常に高値がついた。
冒険者達は、遺物を求めて嬉々として森林の奥へ足を踏み入れ、遺跡の発掘をしていたが、地下何層にも渡る古い遺跡の中には、危険な罠が仕掛けられていたり、奇怪な古代生物が襲いかかってくることもあった。
遺跡の奥に分け入り、戻って来ない冒険者達も多い。
バーナード騎士団長は冒険者ではない。
繰り返すが、王立騎士団の騎士団長であって、冒険者ではないのだ。
本来であれば、遺跡探索のため、南の森林地帯になんぞ足を踏み入れるはずもなかったが、彼はヴィッセル侯爵家から直々に話が持ちかけられ、更には国王の「頼む」という言葉まで受けては引き受けざるを得なかった。現侯爵と国王は乳兄弟にあたり、非常に仲が良いのだ。
ヴィッセル侯爵家三男のシャウルは、三男坊という気軽な立場から、彼は王立学園を卒業後、冒険者になっていた。元からそうした探索の才能があったのだろう。彼はこの王都南の遺跡において、数々の遺物を掘り出しては、オークションで売りさばき、大金を手にしていた。王都の冒険者の中でも、腕利きと言われる部類であろう。
その彼が、“ギガントの遺跡”に挑戦すると言って、姿を消したのが二週間ほど前になる。
“ギガントの遺跡”は、王都南の森林地帯の最も奥にある遺跡で、ダンジョンになっていることで有名であった。ギガントという名の魔術師が作り上げたそのダンジョンは、別名“エロスのダンジョン”とも呼ばれていた。
そう、迷路の中には大量のエロ石像が転がり、壁画もエロ壁画、全面破廉恥なエロの芸術(?)が展開されているのだ。面白がってその“ギガントの遺跡”に挑戦するカップルの冒険者達も多い。
一層、二層と深度を増す度に、要求されるエロも高度に……注文が多くなるらしい。
四十二階層まで突入した強者もいたが、それ以上、下の階層にはとても挑戦できないと、その強者の冒険者も赤面し、匙を投げてしまうほどの難度の高い“エロダンジョン”であった。
その“エロダンジョン”で消息を絶った、侯爵家三男のシャウルを探して出して、連れ戻して欲しい。それが国王と侯爵家からの内々の依頼であった。
バーナード騎士団長は「はぁ」とため息をついていた。
騎士団として引き受けた仕事ではない。個人としてヴィッセル侯爵家と陛下からの依頼を受けて引き受けたものだから、彼は現在、騎士団の軍装を身に付けず、私服だった。ダンジョンで動きやすいような、冒険者がまとう服を身に付けている。シャツにズボンにマントを羽織り、軽めの簡素な革の甲冑をまとっている。腰にはしっかりと剣を佩いていた。
彼の傍らには、同じような格好をしたフィリップ副騎士団長がいた。フィリップは、笑みを浮かべまいとしても、自然に口元が緩んでしまうことが耐えられなかった。
(バーナード騎士団長と……エロダンジョン……)
このエロいダンジョンで、これから起こるであろうことを考えるだけで、すでに高ぶり、鼻血が出そうな思いである。エロダンジョンに挑むことに嫌そうな団長と対照的なフィリップであった。
ダンジョンの中身が中身のため、バーナードは伴侶であるフィリップと二人で臨むことにしていた。
周りはやはり、カップルの冒険者が多く見え、大抵が身を寄せ合い、期待に頬を紅潮させて、手を絡ませてダンジョンの入口をくぐっていくのが、どこかいかがわしかった。雰囲気的には連れ込み宿に入るようなものである。
バーナードは不機嫌そうに眉間に皺を寄せ、フィリップに言った。
「さっさと入るぞ。ついてこいフィリップ」
「はい」
(団長は……嫌そうだな)
他の冒険者のように、イチャイチャしたいと言ったら、睨まれそうな雰囲気だった。
相変わらず、お堅いのだから。
(でも、真面目でそういうところが、団長はいいんだけどな)
一階の道を進む中でも、壁にはいわゆる春画のたぐいの絵がデカデカと極彩色で描かれ、柱には交歓する人間達の彫刻が刻み込まれている。
「……何を考えてこんなダンジョンを作ったんだ。そのギガントという魔術師は……」
バーナードの悪態混じりの言葉に、フィリップは答えた。
「ひどく好色な魔術師だったという話ですね。毎夜毎夜、集会を開いて、人間の男女は元より、魔物、魔族の類とも乱交していたとか」
「…………」
「このダンジョンも、趣味で作ったと言う話ですよ」
「随分と手の込んだ趣味だ。その情熱を別のものに向けたのなら、きっと後世に残る素晴らしい業績を残せただろうに」
そのバーナードの言葉を聞きながらも、フィリップは内心、こうして時代を越えてある意味愛されているエロダンジョンを作っただけでも、立派な業績と言えるのじゃないかと思っていた。もちろん、そのことは口にしない。
いつの間にか、先に入っていたカップルの冒険者達の姿が見えなくなっている。
このダンジョンの不思議なところは、グループ毎に、きちんとルートが自動的に振り分けられることだった。
先を行っているカップル達のルートとは違う道に、自分達は進んでいるのだろう。
どのようなルートに振り分けられるかは、ランダムらしい。
四方を壁に囲まれた道を進んでいくと、部屋に突き当たった。
そしてその部屋に入った途端、入口の石扉がゴゴゴゴと音を立てながら閉められていく。
事前に資料で知っていたとはいえ、閉じ込められる状況になるのは気分がよくない。
この部屋は、いわゆる『〇〇しないと出られない』という問題が出されている部屋で、その〇〇は、階層によって要求度が違うらしい。
この一階の部屋の設問は共通で、よく知られていた。
部屋の中央に石板があり、その石板には古代語で『一分間キスしないと出られない』とあった。
それくらいは軽い要求であった。
「バーナード」
彼を呼ぶと、バーナードは不機嫌そうな顔のまま、そばまでやって来た。
「キスしましょう」
「……ああ」
彼の頬に手を添え、そしてその唇に自分の唇を重ねる。
思わず、その腰を抱き寄せるようにして、深く口づけをする。
「……ん」
舌まで入れられるとは思っていなかったのだろう。バーナードの目が驚いたように見開かれる。
「んん」
唾液すら互いに飲み込むようなそのねっとりとした口づけをしていると、やがて反対側の石扉が開いていく。
少し荒く息をつきながら、唇を離したバーナードは言った。
「扉が開いた。行くぞ、フィリップ」
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