騎士団長が大変です

第九章 夢を渡る

序

　ここ最近、団長が格好いい。
　そう思っているのは自分だけではないようだ。

　黒髪は艶やかに輝き、その茶色の瞳は炯々と輝き、その肌も若々しく張りがある。もうピチピチという感じがする。男ぶりも当然上がっていて、マントを翻しブーツをカツカツと音を立てさせながら歩くと、皆振り向いて、男も女も彼をうっとりと眺めている。

　彼は既婚者である。
　なのに、ここ最近は騎士団に彼宛の差し入れやらファンレターが積み上げられている。

　しつこいようだが、彼は既婚者である。
　既に私という伴侶がいる。

　確かに彼は素晴らしい人だ。
　それは認めるし、もし、私に彼の素晴らしさを語ってくれと言われれば、一晩中語ることも出来ると思う。

　彼の男ぶりが上がり、彼の素晴らしさを皆が褒め称えるようになるのは素直に嬉しいことだったけれど、複雑な思いもある。

　彼はサキュバスだ。
　それも“淫魔の王女”という称号を持つ高位のサキュバス。
　彼は男の精力を得て、その男ぶりが上がっているのだろうと思う。
　その得ている男の精力が、問題だった。

　
　王太子エドワード
　“最強王”の呪いを受けし者である。
　団長は彼に“淫夢”を送り、王太子はその“淫夢”で欲を解消しているという、ある意味お互いにメリットのある関係らしいが、私は気に喰わなかった。
　私という伴侶がいながら、彼は他の男の精力を身に得ているのだ。明らかにおかしいだろう。

　だが、彼に「お前の身を害したくない」「お前が大事だから手を出せない」とまで言われたら、許すしかない……。　
　早く、彼に釣り合う身になりたい。

　妖精の国の、ご隠居様と呼ばれる大妖精の老人は、私を彼と釣り合うようにしてくれると言った。だが、古い友人に声をかけるために、すぐにはできないとも言っていた。

　もう、本心では今すぐにも釣り合うようにして欲しい。
　“淫夢”を送られているエドワード王太子は、最近では王宮でも落ち着いて生活しているという。
　妃が妊娠中で、かつ寵愛していた少年が亡くなったばかりの彼は、その生活が荒れていてもおかしくはなかった。
　だけど、それが落ち着いているのもきっと、バーナード騎士団長が彼に送り続けている“淫夢”のせいなのだろう。