騎士団長が大変です

曙なつき

文字の大きさ
上 下
122 / 560
第八章 王太子の見る夢

第一話 王太子からの話

しおりを挟む
 王立騎士団長バーナードは、王宮へと定例の報告へ向かった時、王太子エドワードに呼び止められた。
 そこは王宮の長い廊下であり、彼の傍らにはいつものように副騎士団長のフィリップが控えて立っていた。
 
「バーナード騎士団長」

 片手を挙げて呼び止めるエドワード王太子。
 母たる王妃によく似た金髪碧眼の華やかな美貌の青年だった。
 フィリップも、自身が王都一と呼ばれる美貌であることを自負している。
 だが、目の前の王太子も遜色ない美しい男だった。
 彼を見て、たちどころにフィリップは警戒を見せていた。

「そなたと少し話がしたい」

 露骨にフィリップは不機嫌そうな様子を見せた。
 いつものバーナードなら、何かと理由をつけてその場を去るのだが、その時の彼は違った。

「わかりました。フィリップ副騎士団長、先に戻ってくれ」

 その言葉に、フィリップは驚く。

「わかったな」

「……はい」

 何故という言葉を飲み込んで、フィリップは立ち尽くした。
 彼の前で、バーナードはエドワード王太子と並んで歩いて行った。

「お前の副騎士団長は、ひどく不満そうな顔で見ているぞ」

 エドワード王太子が意地悪くそう言うと、バーナードは息を吐いた。

「彼には後で説明します」

「今説明した方がいいのではないか。あんな縋りつくような目で、我々をずっと目で追っているぞ」

 そう言いながらも、エドワードは彼の目の前で無情にも扉を閉めた。
 視線が追っていることをわかった上で、彼はそうしていた。
 そしてバーナードに椅子を勧めた。

 椅子に座ったバーナードの対面に、同じく座ったエドワードは尋ねた。

「ここに呼ばれた理由を、お前は理解しているようだな」

「ええ、呼ばれると思っていました」

は、お前が見せたのか」

 その問いかけに、バーナードは頷いた。
 彼はあっさりと同意していた。

「そうです。殿下」




 淫魔となったバーナードは、他人に“淫夢”を見せて精力を奪う力を得た。

 意識がある時は、他人から精力を奪うことは自制できる。
 しかし、夜、自分が眠りに落ちている時はそういうわけにはいかなかった。
 すでに何回もフィリップに“淫夢”を見せて、彼から精力を奪い、やつれさせている有様だった。
 フィリップに“淫夢”の中の誘惑に対して抵抗するように求めても、すっかり夢の中の快楽に夢中になっている彼が抵抗することはなかった。
 抵抗するどころか、それに喜んでいる彼の有様に、バーナードは正直頭を抱えていた。

 それならば、フィリップに“淫夢”を見させないようにしたいと意識した結果、どうやら別の人間に……そう、エドワード王太子に“淫夢”を見せるようになっていた。

 それがわかったのは、バーナードが淫魔となり、男から吸い上げた精力の味の違いがわかるようになったからだった。
 エドワード王太子は、“最強王”の呪いを受けているだけあって、その身に秘めている精力の味わいは格別であった。
 淫夢で彼の精力を吸い上げたバーナードは、翌朝は肌艶も髪艶もよくなり、こういってはなんだが、力に満ち溢れていることを感じた。

 そしてエドワードも常とは違う夢の様子で察したのだろう。
 だから、彼はバーナードを呼び止めたのだった。




「アレは随分と淫らな夢だったぞ」

 エドワードは長い指で自分の唇に触れ、意味深にバーナードをその碧い瞳で見つめる。

「……夢の内容まで私は関知しておりません。夢は、夢を見る者の希望に沿うらしいですね」

 椅子に足を組んで座るバーナードは淡々と答えていく。

「そうか。まぁ、愉しい夢だったことは確かだ。しかし“淫魔の王女の加護”は、他人に“淫夢”を見させて、精力を奪う力まであるとは。あたかも淫魔の如しだな」

「そうですね」

 真実を突くようなその問いかけにも、バーナードは顔色を変えずに答えている。

「だが、私にとってアレは随分と助かる。欲の発散ができる」

 エドワード王太子は、妻セーラ妃の妊娠に伴い、その欲をどう発散するのかが問題になっていた。先日、彼はその欲の発散を担い可愛がっていた半魔の少年を失ったばかりであった。

「だから、バーナード、これからもあの夢を私に見せてくれると助かる」

 言外に、自分から精力を吸い上げろというのだろう。
 だが、それはバーナードにとっても好都合であった。
 フィリップに淫夢を見せて精力を吸い上げると、ただの人間である彼は、やつれ果てていくのみだ。
 これ以上、そんな目に遭わせたくなかった。

「ええ、そうさせて頂けると、私も助かります」

 こうして二人の利害は一致したのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の彼氏は義兄に犯され、奪われました。

天災
BL
 私の彼氏は、義兄に奪われました。いや、犯されもしました。

LV1魔王に転生したおっさん絵師の異世界スローライフ~世界征服は完了してたので二次嫁そっくりの女騎士さんと平和な世界を満喫します~

東雲飛鶴
ファンタジー
●実は「魔王のひ孫」だった初心者魔王が本物魔王を目指す、まったりストーリー● ►30才、フリーター兼同人作家の俺は、いきなり魔王に殺されて、異世界に魔王の身代わりとして転生。 俺の愛する二次嫁そっくりな女騎士さんを拉致って、魔王城で繰り広げられるラブコメ展開。 しかし、俺の嫁はそんな女じゃねえよ!!  理想と現実に揺れる俺と、軟禁生活でなげやりな女騎士さん、二人の気持ちはどこに向かうのか――。『一巻お茶の間編あらすじ』   ►長い大戦のために枯渇した国庫を元に戻すため、金策をしにダンジョンに潜った魔王一行。 魔王は全ての魔法が使えるけど、全てLV1未満でPTのお荷物に。 下へ下へと進むPTだったが、ダンジョン最深部では未知の生物が大量発生していた。このままでは魔王国に危害が及ぶ。 魔王たちが原因を究明すべく更に進むと、そこは別の異世界に通じていた。 謎の生物、崩壊寸前な別の異世界、一巻から一転、アクションありドラマありの本格ファンタジー。『二巻ダンジョン編あらすじ』   (この世界の魔族はまるマ的なものです) ※ただいま第二巻、ダンジョン編連載中!※ ※第一巻、お茶の間編完結しました!※   舞台……魔族の国。主に城内お茶の間。もしくはダンジョン。   登場人物……元同人作家の初心者魔王、あやうく悪役令嬢になるところだった女騎士、マッドな兎耳薬師、城に住み着いている古竜神、女賞金稼ぎと魔族の黒騎士カップル、アラサークールメイド&ティーン中二メイド、ガチムチ親衛隊長、ダンジョンに出会いを求める剣士、料理好きなドワーフ、からくり人形、エロエロ女吸血鬼、幽霊執事、親衛隊一行、宰相等々。 HJ大賞2020後期一次通過・カクヨム併載 【HOTランキング二位ありがとうございます!:11/21】

メス喘ぎレッスン帖 ─団長、奥さんを抱く前に俺と発声練習しましょう!─

雲丹はち
BL
セックス経験ゼロのまま結婚しちゃった騎士団長に年下副官が初夜のイロハを教え込む話。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

媚薬盛られました。クラスメイトにやらしく介抱されました。

みき
BL
媚薬盛られた男子高校生が、クラスメイトにえっちなことされる話。 BL R-18 ほぼエロです。感想頂けるととても嬉しいです。 登場キャラクター名 桐島明×東郷廉

騎士団長の俺が若返ってからみんながおかしい

雫谷 美月
BL
騎士団長である大柄のロイク・ゲッドは、王子の影武者「身代わり」として、魔術により若返り外見が少年に戻る。ロイクはいまでこそ男らしさあふれる大男だが、少年の頃は美少年だった。若返ったことにより、部下達にからかわれるが、副団長で幼馴染のテランス・イヴェールの態度もなんとなく余所余所しかった。 賊たちを返り討ちにした夜、野営地で酒に酔った部下達に裸にされる。そこに酒に酔ったテランスが助けに来たが様子がおかしい…… 一途な副団長☓外見だけ少年に若返った団長 ※ご都合主義です ※無理矢理な描写があります。 ※他サイトからの転載dす

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...