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第八章 王太子の見る夢
第一話 王太子からの話
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王立騎士団長バーナードは、王宮へと定例の報告へ向かった時、王太子エドワードに呼び止められた。
そこは王宮の長い廊下であり、彼の傍らにはいつものように副騎士団長のフィリップが控えて立っていた。
「バーナード騎士団長」
片手を挙げて呼び止めるエドワード王太子。
母たる王妃によく似た金髪碧眼の華やかな美貌の青年だった。
フィリップも、自身が王都一と呼ばれる美貌であることを自負している。
だが、目の前の王太子も遜色ない美しい男だった。
彼を見て、たちどころにフィリップは警戒を見せていた。
「そなたと少し話がしたい」
露骨にフィリップは不機嫌そうな様子を見せた。
いつものバーナードなら、何かと理由をつけてその場を去るのだが、その時の彼は違った。
「わかりました。フィリップ副騎士団長、先に戻ってくれ」
その言葉に、フィリップは驚く。
「わかったな」
「……はい」
何故という言葉を飲み込んで、フィリップは立ち尽くした。
彼の前で、バーナードはエドワード王太子と並んで歩いて行った。
「お前の副騎士団長は、ひどく不満そうな顔で見ているぞ」
エドワード王太子が意地悪くそう言うと、バーナードは息を吐いた。
「彼には後で説明します」
「今説明した方がいいのではないか。あんな縋りつくような目で、我々をずっと目で追っているぞ」
そう言いながらも、エドワードは彼の目の前で無情にも扉を閉めた。
視線が追っていることをわかった上で、彼はそうしていた。
そしてバーナードに椅子を勧めた。
椅子に座ったバーナードの対面に、同じく座ったエドワードは尋ねた。
「ここに呼ばれた理由を、お前は理解しているようだな」
「ええ、呼ばれると思っていました」
「あの夢は、お前が見せたのか」
その問いかけに、バーナードは頷いた。
彼はあっさりと同意していた。
「そうです。殿下」
淫魔となったバーナードは、他人に“淫夢”を見せて精力を奪う力を得た。
意識がある時は、他人から精力を奪うことは自制できる。
しかし、夜、自分が眠りに落ちている時はそういうわけにはいかなかった。
すでに何回もフィリップに“淫夢”を見せて、彼から精力を奪い、やつれさせている有様だった。
フィリップに“淫夢”の中の誘惑に対して抵抗するように求めても、すっかり夢の中の快楽に夢中になっている彼が抵抗することはなかった。
抵抗するどころか、それに喜んでいる彼の有様に、バーナードは正直頭を抱えていた。
それならば、フィリップに“淫夢”を見させないようにしたいと意識した結果、どうやら別の人間に……そう、エドワード王太子に“淫夢”を見せるようになっていた。
それがわかったのは、バーナードが淫魔となり、男から吸い上げた精力の味の違いがわかるようになったからだった。
エドワード王太子は、“最強王”の呪いを受けているだけあって、その身に秘めている精力の味わいは格別であった。
淫夢で彼の精力を吸い上げたバーナードは、翌朝は肌艶も髪艶もよくなり、こういってはなんだが、力に満ち溢れていることを感じた。
そしてエドワードも常とは違う夢の様子で察したのだろう。
だから、彼はバーナードを呼び止めたのだった。
「アレは随分と淫らな夢だったぞ」
エドワードは長い指で自分の唇に触れ、意味深にバーナードをその碧い瞳で見つめる。
「……夢の内容まで私は関知しておりません。夢は、夢を見る者の希望に沿うらしいですね」
椅子に足を組んで座るバーナードは淡々と答えていく。
「そうか。まぁ、愉しい夢だったことは確かだ。しかし“淫魔の王女の加護”は、他人に“淫夢”を見させて、精力を奪う力まであるとは。あたかも淫魔の如しだな」
「そうですね」
真実を突くようなその問いかけにも、バーナードは顔色を変えずに答えている。
「だが、私にとってアレは随分と助かる。欲の発散ができる」
エドワード王太子は、妻セーラ妃の妊娠に伴い、その欲をどう発散するのかが問題になっていた。先日、彼はその欲の発散を担い可愛がっていた半魔の少年を失ったばかりであった。
「だから、バーナード、これからもあの夢を私に見せてくれると助かる」
言外に、自分から精力を吸い上げろというのだろう。
だが、それはバーナードにとっても好都合であった。
フィリップに淫夢を見せて精力を吸い上げると、ただの人間である彼は、やつれ果てていくのみだ。
これ以上、そんな目に遭わせたくなかった。
「ええ、そうさせて頂けると、私も助かります」
こうして二人の利害は一致したのだった。
そこは王宮の長い廊下であり、彼の傍らにはいつものように副騎士団長のフィリップが控えて立っていた。
「バーナード騎士団長」
片手を挙げて呼び止めるエドワード王太子。
母たる王妃によく似た金髪碧眼の華やかな美貌の青年だった。
フィリップも、自身が王都一と呼ばれる美貌であることを自負している。
だが、目の前の王太子も遜色ない美しい男だった。
彼を見て、たちどころにフィリップは警戒を見せていた。
「そなたと少し話がしたい」
露骨にフィリップは不機嫌そうな様子を見せた。
いつものバーナードなら、何かと理由をつけてその場を去るのだが、その時の彼は違った。
「わかりました。フィリップ副騎士団長、先に戻ってくれ」
その言葉に、フィリップは驚く。
「わかったな」
「……はい」
何故という言葉を飲み込んで、フィリップは立ち尽くした。
彼の前で、バーナードはエドワード王太子と並んで歩いて行った。
「お前の副騎士団長は、ひどく不満そうな顔で見ているぞ」
エドワード王太子が意地悪くそう言うと、バーナードは息を吐いた。
「彼には後で説明します」
「今説明した方がいいのではないか。あんな縋りつくような目で、我々をずっと目で追っているぞ」
そう言いながらも、エドワードは彼の目の前で無情にも扉を閉めた。
視線が追っていることをわかった上で、彼はそうしていた。
そしてバーナードに椅子を勧めた。
椅子に座ったバーナードの対面に、同じく座ったエドワードは尋ねた。
「ここに呼ばれた理由を、お前は理解しているようだな」
「ええ、呼ばれると思っていました」
「あの夢は、お前が見せたのか」
その問いかけに、バーナードは頷いた。
彼はあっさりと同意していた。
「そうです。殿下」
淫魔となったバーナードは、他人に“淫夢”を見せて精力を奪う力を得た。
意識がある時は、他人から精力を奪うことは自制できる。
しかし、夜、自分が眠りに落ちている時はそういうわけにはいかなかった。
すでに何回もフィリップに“淫夢”を見せて、彼から精力を奪い、やつれさせている有様だった。
フィリップに“淫夢”の中の誘惑に対して抵抗するように求めても、すっかり夢の中の快楽に夢中になっている彼が抵抗することはなかった。
抵抗するどころか、それに喜んでいる彼の有様に、バーナードは正直頭を抱えていた。
それならば、フィリップに“淫夢”を見させないようにしたいと意識した結果、どうやら別の人間に……そう、エドワード王太子に“淫夢”を見せるようになっていた。
それがわかったのは、バーナードが淫魔となり、男から吸い上げた精力の味の違いがわかるようになったからだった。
エドワード王太子は、“最強王”の呪いを受けているだけあって、その身に秘めている精力の味わいは格別であった。
淫夢で彼の精力を吸い上げたバーナードは、翌朝は肌艶も髪艶もよくなり、こういってはなんだが、力に満ち溢れていることを感じた。
そしてエドワードも常とは違う夢の様子で察したのだろう。
だから、彼はバーナードを呼び止めたのだった。
「アレは随分と淫らな夢だったぞ」
エドワードは長い指で自分の唇に触れ、意味深にバーナードをその碧い瞳で見つめる。
「……夢の内容まで私は関知しておりません。夢は、夢を見る者の希望に沿うらしいですね」
椅子に足を組んで座るバーナードは淡々と答えていく。
「そうか。まぁ、愉しい夢だったことは確かだ。しかし“淫魔の王女の加護”は、他人に“淫夢”を見させて、精力を奪う力まであるとは。あたかも淫魔の如しだな」
「そうですね」
真実を突くようなその問いかけにも、バーナードは顔色を変えずに答えている。
「だが、私にとってアレは随分と助かる。欲の発散ができる」
エドワード王太子は、妻セーラ妃の妊娠に伴い、その欲をどう発散するのかが問題になっていた。先日、彼はその欲の発散を担い可愛がっていた半魔の少年を失ったばかりであった。
「だから、バーナード、これからもあの夢を私に見せてくれると助かる」
言外に、自分から精力を吸い上げろというのだろう。
だが、それはバーナードにとっても好都合であった。
フィリップに淫夢を見せて精力を吸い上げると、ただの人間である彼は、やつれ果てていくのみだ。
これ以上、そんな目に遭わせたくなかった。
「ええ、そうさせて頂けると、私も助かります」
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