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第七章 加護を外れる
第四話 渓谷で出会った娘達
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そして、ユスタニア渓谷へ行く日になった。
バーナードとフィリップは馬に乗って、現地の集合場所へ行くことにした。
街を離れると、木々の紅葉が目立ってくる。赤や黄に染まった木々は美しく、二人で馬を進めるのも楽しい。
途中、軽食をとった後、約束の時間に約束の場所へと辿り着いた。
フィリップは、悩んだが結局、バーナードと一緒にユスタニア渓谷へと行くことにした。
釣り倶楽部の仲間達も妻や家族達を連れて行くというので、フィリップが来ても問題がないし、家族達皆が全員、釣りをするわけではない。適当にぶらぶらしてくれて構わないとバーナードは言っていた。
むしろ、夫達の釣り狂いに嫌気を射している奥方達もいるようで、バーナードが「俺も気を付けないとな」と苦笑していた。
十人ほどの釣り倶楽部の会員達が、大学の先生に協力することになったとバーナードは言っていた。
現地に着くと、すでに釣りを開始している者達もいて、気安くバーナードに手を挙げて挨拶していた。
「じゃあ、俺も釣りをするか。フィリップ、散歩をするのはいいが、迷子になるなよ」
「子供じゃあるまいし、迷子になんかなりません」
「俺は子供の時に、この渓谷で迷子になったことがある。意外と“深い”場所があるから気を付けろ」
釣り竿を用意し始めるバーナード。伸縮式の釣り竿を手にして、テキパキと餌を付け始める。
その茶色の目が、もう渓谷の川の流れしか見ていないことにフィリップは苦笑した。
「バーナードも気を付けてくださいね」
フィリップはそう言って、片手をあげてその場を後にした。
(さて、どうしたものかな)
半日ほど時間を潰さないといけない。
とりあず、渓谷内をぶらぶらと散歩して、適当にバーナードの釣りの様子でも見に行けばいいかと考えた。
そして用意していた渓谷の地図を眺めていると、自分のすぐそばに、いつの間にか二人の少女が立っていることに気が付いた。
十代半ばほどの少女二人で、おそらく姉妹であろう。二人とも顔立ちがよく似ている。
茶色の髪に、大きな緑色の瞳のかわいらしい娘達だった。髪はお下げにしてリボンで結わえている。黄緑色の小花柄のワンピースを二人してまとっていた。
そのうちの一人の少女が、頬を少し赤らめてフィリップをじっと見つめて言った。
「お兄さん、俳優さん? すごくハンサムですね」
「……俳優ではないけど、ありがとう」
フィリップは王都一と言われる美貌の持ち主だった。
立っているだけでも、女子供が見惚れているのはよくあることだった。
だからこうして声をかけられることにも、彼は慣れていた。
「俳優ではないんですか? ええっ、こんなに素敵なのに。私、あなたが俳優なら、絶対に肖像画を買いますよ」
王都の俳優たちの絵チラシや肖像画が、若い娘達の間で飛ぶように売れていることをフィリップは知っていた。
目の前の少女の相手をするのが少し面倒だと思いながらも、暇だからまぁいいかという気持ちも少しあった。
フィリップは金髪を掻き上げると、その動作を見ただけで、少女二人は手を組んで喜んで声を上げていた。
「いいなー、お兄さんはそんなに美形で。私達ももう少し綺麗なら良かったんだけど」
「君達もかわいいじゃないか」
その言葉に、サッと少女達の頬に朱が入る。
しどろもどろしながら「ありがとうございます」と言っている。
「二人は渓谷に遊びに来たの?」
「お父様がお仕事で、渓谷に来ないといけなくて、私達も一緒に来たんです」
「仕事?」
問いかけるフィリップに、少女の一人がこう言った。
「大学の先生をしていて、渓谷の新種の魚の調査をしているんです」
釣り倶楽部繋がりの娘達だった。
「そうなんだ。奇遇だけね、私の連れもその調査に協力しているんだ」
「そうなんですか!! 釣り倶楽部の人なんですか?」
「私は違うけどね。連れが倶楽部の会員だ」
そう、フィリップは魚の一匹も釣りあげられない。
フィリップは、釣りをしている黒髪の若い男を指さす。バーナードだった。彼は長い竿を操って、早速、銀色に輝く魚を釣り上げている。
少女二人は「あー」と納得したように声を上げていた。
「あの人なら知っています。バーナード騎士団長さんですよね。お父様が、今回の釣りの調査には是非呼びたいって言ってました。彼がいるのといないのとでは、釣れる魚の量が違うとか」
「…………そう」
釣り仲間の間でも、バーナード騎士団長はちょっとした有名人らしい。
「相変わらず、凄い釣っていますね。きっとあの人なら新種の魚も釣ってくれそう……」
少女達二人は顔を見合わせて頷き合っていた。
それから、今更ながら気が付いたようにフィリップに向かって軽く頭を下げて自己紹介をした。
「私はセリーヌ=マクレイガーです」
「私はセリーヌの妹のカトリーヌ=マクレイガーです。どうぞよろしくお願いします」
バーナードとフィリップは馬に乗って、現地の集合場所へ行くことにした。
街を離れると、木々の紅葉が目立ってくる。赤や黄に染まった木々は美しく、二人で馬を進めるのも楽しい。
途中、軽食をとった後、約束の時間に約束の場所へと辿り着いた。
フィリップは、悩んだが結局、バーナードと一緒にユスタニア渓谷へと行くことにした。
釣り倶楽部の仲間達も妻や家族達を連れて行くというので、フィリップが来ても問題がないし、家族達皆が全員、釣りをするわけではない。適当にぶらぶらしてくれて構わないとバーナードは言っていた。
むしろ、夫達の釣り狂いに嫌気を射している奥方達もいるようで、バーナードが「俺も気を付けないとな」と苦笑していた。
十人ほどの釣り倶楽部の会員達が、大学の先生に協力することになったとバーナードは言っていた。
現地に着くと、すでに釣りを開始している者達もいて、気安くバーナードに手を挙げて挨拶していた。
「じゃあ、俺も釣りをするか。フィリップ、散歩をするのはいいが、迷子になるなよ」
「子供じゃあるまいし、迷子になんかなりません」
「俺は子供の時に、この渓谷で迷子になったことがある。意外と“深い”場所があるから気を付けろ」
釣り竿を用意し始めるバーナード。伸縮式の釣り竿を手にして、テキパキと餌を付け始める。
その茶色の目が、もう渓谷の川の流れしか見ていないことにフィリップは苦笑した。
「バーナードも気を付けてくださいね」
フィリップはそう言って、片手をあげてその場を後にした。
(さて、どうしたものかな)
半日ほど時間を潰さないといけない。
とりあず、渓谷内をぶらぶらと散歩して、適当にバーナードの釣りの様子でも見に行けばいいかと考えた。
そして用意していた渓谷の地図を眺めていると、自分のすぐそばに、いつの間にか二人の少女が立っていることに気が付いた。
十代半ばほどの少女二人で、おそらく姉妹であろう。二人とも顔立ちがよく似ている。
茶色の髪に、大きな緑色の瞳のかわいらしい娘達だった。髪はお下げにしてリボンで結わえている。黄緑色の小花柄のワンピースを二人してまとっていた。
そのうちの一人の少女が、頬を少し赤らめてフィリップをじっと見つめて言った。
「お兄さん、俳優さん? すごくハンサムですね」
「……俳優ではないけど、ありがとう」
フィリップは王都一と言われる美貌の持ち主だった。
立っているだけでも、女子供が見惚れているのはよくあることだった。
だからこうして声をかけられることにも、彼は慣れていた。
「俳優ではないんですか? ええっ、こんなに素敵なのに。私、あなたが俳優なら、絶対に肖像画を買いますよ」
王都の俳優たちの絵チラシや肖像画が、若い娘達の間で飛ぶように売れていることをフィリップは知っていた。
目の前の少女の相手をするのが少し面倒だと思いながらも、暇だからまぁいいかという気持ちも少しあった。
フィリップは金髪を掻き上げると、その動作を見ただけで、少女二人は手を組んで喜んで声を上げていた。
「いいなー、お兄さんはそんなに美形で。私達ももう少し綺麗なら良かったんだけど」
「君達もかわいいじゃないか」
その言葉に、サッと少女達の頬に朱が入る。
しどろもどろしながら「ありがとうございます」と言っている。
「二人は渓谷に遊びに来たの?」
「お父様がお仕事で、渓谷に来ないといけなくて、私達も一緒に来たんです」
「仕事?」
問いかけるフィリップに、少女の一人がこう言った。
「大学の先生をしていて、渓谷の新種の魚の調査をしているんです」
釣り倶楽部繋がりの娘達だった。
「そうなんだ。奇遇だけね、私の連れもその調査に協力しているんだ」
「そうなんですか!! 釣り倶楽部の人なんですか?」
「私は違うけどね。連れが倶楽部の会員だ」
そう、フィリップは魚の一匹も釣りあげられない。
フィリップは、釣りをしている黒髪の若い男を指さす。バーナードだった。彼は長い竿を操って、早速、銀色に輝く魚を釣り上げている。
少女二人は「あー」と納得したように声を上げていた。
「あの人なら知っています。バーナード騎士団長さんですよね。お父様が、今回の釣りの調査には是非呼びたいって言ってました。彼がいるのといないのとでは、釣れる魚の量が違うとか」
「…………そう」
釣り仲間の間でも、バーナード騎士団長はちょっとした有名人らしい。
「相変わらず、凄い釣っていますね。きっとあの人なら新種の魚も釣ってくれそう……」
少女達二人は顔を見合わせて頷き合っていた。
それから、今更ながら気が付いたようにフィリップに向かって軽く頭を下げて自己紹介をした。
「私はセリーヌ=マクレイガーです」
「私はセリーヌの妹のカトリーヌ=マクレイガーです。どうぞよろしくお願いします」
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