騎士団長が大変です

曙なつき

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第七章 加護を外れる

第一話 王都釣り倶楽部の集会

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 その日、王立騎士団長バーナードはとても機嫌が良かった。
 仕事中でも、珍しく口元が緩んでいることが多く、団長室で書類を受け取りに来たフィリップが思わず「どうしたんですか」と聞いてしまうほどだった。

 それに、バーナードは少し笑って言った。


「いや、そろそろ集会の時期だからだ」

 フィリップは壁に貼られた日程表に目をやった。
 今週末の休日に、赤字で“集会”と書いてある。

「…………………ああ、王都釣り倶楽部の集会ですか」

「そうだ」

 嬉しそうに笑うバーナード。
 
 王都釣り倶楽部は、歴史ある団体組織で、創設も五百年を優に超える。
 人員も、そうそうたるメンバーを抱えているという(メンバー表を見たことがあるフィリップは「こんな人まで釣り倶楽部に入ってるのか」と驚いた記憶がある)。入会にあたっては三人のメンバーの推薦が必要であったが、当然のようにバーナードは会員だった。入会基準は厳しいといわれるが、バーナードは十代で加入していた。

 バーナードが、釣り倶楽部のバッチなど机の引き出しの中に、大切にしまっていることを知っている。
 釣り好きな彼だから、釣りの話が延々と仲間達とできるその会の集会は、きっと楽しくて仕方ないのだろう。

 半年に一度の集会は、王都の大ホールで行われた後に小さなグループに分かれての会合となる。
 先日の南の諸島へ旅行に行った時も、だいぶその釣り仲間達のアドバイスを受けていたらしい。



 そして週末、バーナードはいそいそとその釣り倶楽部の集会に出かけ、帰宅は夜もだいぶ遅くなった時間帯であった。
 彼はその日、フィリップの屋敷に帰ることにしており、暗い中そっと屋敷のドアを開けて入ってきた。
 浴室で身を清めた後に、寝台に潜り込む。
 その身にフィリップが手を伸ばし、冷たい身体に抱き着くと、彼は「起きていたのか」と小さく声をかけてきた。

「起こしたのなら悪かった」

「いえ、眠りが浅かったので」

 そしてその唇にそっと唇を重ねると、彼も優しく応えてくれた。

「会合は楽しかったですか」

 窓から月の明かりが差し込んでいる。フィリップの家は裏手が森に面しており、夜になると比較的静かな地域であった。

「楽しかった。新種の魚の報告があって、皆それに興奮していた」

「そうですか」

 釣り倶楽部といいながら、新種の魚の報告があるなど、まるで学会のようだなとフィリップは思った。
 横になった彼のその唇を更に深く求める。手をそっとズボンをずらして彼自身に触れさせると、バーナードは熱い息を吐いた。

「……フィリップ」

「疲れているならやめますが」

「……そんなちょっかいを出した後に、卑怯だぞ」

 バーナードは笑ってフィリップを睨むと、お互いに強く抱き締め合った。やがて寝台が軋み始める。
 
「来月、出かける予定が入った」

 事が終わった後、気だるげに息を吐いている彼の背中に唇を這わせている時に、バーナードはそう言った。

「どこへお出かけする予定なのですか?」

「ユスタニア渓谷に行く」

 王都に比較的近い渓谷で、今は木々の紅葉も美しい頃合いだろう。
 睡魔が襲ってきているのか、バーナードの瞼が重くなってきている。
 茶色の瞳もとろんとしてきている。

「……倶楽部の大学の教授に頼まれて……同行することになった」

「……」

 大学の教授を連れての釣りというのは、なかなか珍しい。何を具体的にするのか、何泊くらい出かけるのか。そう聞こうにも、彼の瞼は完全に閉じてしまっていた。

 フィリップはそっとバーナードの唇に口づけた。
 明日、目が覚めてから聞くしかないだろう。
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