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第六章 王家の剣
第八話 見たかったもの
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半年以上王宮に住みながら、リュンクスは、エドワード王太子の妃であるセーラに会ったことはなかった。
同じ王宮内で生活していても、出会うことのないように侍従達が配慮していた。
とはいえ、まったく出会わないということもない。
リュンクスは遠目からセーラ妃を見ることがあった。
ゆったりとしたドレスをまとい、膨らんだお腹にそっと手をやる美しい女だった。
長い金の髪に、真っ白い肌、青い瞳の彼女が、エドワード王太子の妃なのだろう。
それを見て、リュンクスは猛烈に羨ましかった。
誰よりも美しくて、そしてあの優しい王太子に愛されて、子供まで孕んでいる。
それに対して自分はなんだ。
首の隷属の首輪が重く感じられる。
殿下は優しくしてくれる。優しく愛してくれる。
だけど、きっと心はない。
欲を解消してくれる体のいい相手なのだ。
それは今までと一緒だった。
かわいい、綺麗だと言って可愛がってくれる男達と一緒だ。
でも、心のどこかで囁く声もする。
殿下は本当に優しいよ
本当に本当に、大切にしてくれるよ
今まで乗ったことのない船に乗せて、今度は釣りにも連れていってくれると言ってくれた。
本当に優しい、いい人だよ。
でももう遅い。
遅いんだ。
じりじりともう一つの隷紋が、リュンクスを責め立てていた。
早く
早くヤレと命じていた。
その命令には決して逆らえなかった。
だから、王宮の花園で花を摘むセーラ妃を遠目で認めた時、リュンクスは走り出していた。
驚いて止める侍従達の手を振り払い、セーラ妃の前に立ちはだかる護衛騎士達の前をすり抜け、その白い手で、どこからか取り出した長い針を振りかざした時、叫び声がした。
「やめろ」
その声に、本能的な怯えが走り、身体が止まった。
見るまでもない。
わかっていた。
この声はあの、バーナードという騎士団長のものだった。
あの恐ろしい男の声。
そして止まってしまった体に、護衛騎士が剣を突き刺したのは一瞬で、リュンクスはその腹を貫かれた。
倒れるその小柄な身体。大きく見開かれた美しい紫色の瞳に、真っ青な空が映る。
ごふと零れる赤い血。
腹が熱かった。
視界にあの、黒髪に茶色の瞳の騎士団長の姿が映る。厳しい顔つきでリュンクスを見下ろす。
最後に見たかったのは、こんな怖い男の顔じゃない。
そう、最後に見たかったのは
綺麗な湖の船の上で、優しく笑いかける王太子の顔だった。
同じ王宮内で生活していても、出会うことのないように侍従達が配慮していた。
とはいえ、まったく出会わないということもない。
リュンクスは遠目からセーラ妃を見ることがあった。
ゆったりとしたドレスをまとい、膨らんだお腹にそっと手をやる美しい女だった。
長い金の髪に、真っ白い肌、青い瞳の彼女が、エドワード王太子の妃なのだろう。
それを見て、リュンクスは猛烈に羨ましかった。
誰よりも美しくて、そしてあの優しい王太子に愛されて、子供まで孕んでいる。
それに対して自分はなんだ。
首の隷属の首輪が重く感じられる。
殿下は優しくしてくれる。優しく愛してくれる。
だけど、きっと心はない。
欲を解消してくれる体のいい相手なのだ。
それは今までと一緒だった。
かわいい、綺麗だと言って可愛がってくれる男達と一緒だ。
でも、心のどこかで囁く声もする。
殿下は本当に優しいよ
本当に本当に、大切にしてくれるよ
今まで乗ったことのない船に乗せて、今度は釣りにも連れていってくれると言ってくれた。
本当に優しい、いい人だよ。
でももう遅い。
遅いんだ。
じりじりともう一つの隷紋が、リュンクスを責め立てていた。
早く
早くヤレと命じていた。
その命令には決して逆らえなかった。
だから、王宮の花園で花を摘むセーラ妃を遠目で認めた時、リュンクスは走り出していた。
驚いて止める侍従達の手を振り払い、セーラ妃の前に立ちはだかる護衛騎士達の前をすり抜け、その白い手で、どこからか取り出した長い針を振りかざした時、叫び声がした。
「やめろ」
その声に、本能的な怯えが走り、身体が止まった。
見るまでもない。
わかっていた。
この声はあの、バーナードという騎士団長のものだった。
あの恐ろしい男の声。
そして止まってしまった体に、護衛騎士が剣を突き刺したのは一瞬で、リュンクスはその腹を貫かれた。
倒れるその小柄な身体。大きく見開かれた美しい紫色の瞳に、真っ青な空が映る。
ごふと零れる赤い血。
腹が熱かった。
視界にあの、黒髪に茶色の瞳の騎士団長の姿が映る。厳しい顔つきでリュンクスを見下ろす。
最後に見たかったのは、こんな怖い男の顔じゃない。
そう、最後に見たかったのは
綺麗な湖の船の上で、優しく笑いかける王太子の顔だった。
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