騎士団長が大変です

曙なつき

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第六章 王家の剣

第二話 妃の懐妊(中)

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 セーラ妃が妊娠したと聞いた時、エドワード王太子は大変喜んだ。

「もうあなただけの身ではないのだ。大事にしておくれ」

 そう言って、そっとセーラ妃の身体を抱きしめる。
 セーラは嬉しそうに微笑んだ。

 エドワード王太子はとてもお優しい。妃の身を案じるその様子に、妃に仕える侍女たちも二人を微笑みながら見守っていた。
 だが、セーラは妊娠した時から懸念していたことがあった。
 それはセーラだけでなく、この王宮に仕える者達全員の懸念であった。

「殿下、でも夜の……」

 それに、エドワードは妃に対して優しく言った。

「セーラが心配する必要はない。君はそのことについて何も考えなくていいのだよ」

 そう言うのならば、また以前寵愛していたという少年を呼び寄せるのだろうか。
 彼女の金の髪を黙って撫でるエドワード。

 “最強王の呪い”をその身に受けるエドワードは、その欲を発散できねば苦しむことになる(最終的には魔力暴走で王宮を吹っ飛ばす)。
 セーラには心配ないと告げたが、セーラはエドワードのことがとても心配であった。




 後ほど、彼女の心配を晴らそうと、セーラの自室へ侍従長が訪ねてきた。

「ご安心ください。エドワード殿下にはサキュバスハーフの少年が伽につくことになっております」

 その言葉に驚いた。

「サキュバスハーフというと、サキュバスの血を引くということですか」

 侍従長はうなずいた。

「はい。紹介を受けまして宮殿に迎え入れることに致しました。彼は、側妃として迎え入れられますが、王統譜にその名は記載されません」

 王統譜とは、王と迎え入れられた妃の名を記していく帳簿であった。そこに記載しないということは、正式な妃というわけではなく、寵愛を受けるだけの存在ということだった。

 さらに侍従長は告げた。

「彼はサキュバスハーフということで、隷属の首輪をつけている“奴隷”になります」

 その言葉に、セーラは衝撃を受けた。



 ここ半島周辺国では、隷属の首輪をつけて人間を奴隷にすることを禁止していた。
 だが、抜け道はあった。獣人や、獣人の血を引く人間や、魔族の血を引く人間は、「人間ではないもの」と見なされ、隷属の首輪をつけることが認められている。
 彼はそういう存在だというのだ。

「……その、“奴隷”の状態から解放してあげることはできないの?」

 かつてサキュバスの娘に愛され、彼女から加護を受けたセーラは、思わずそう口走っていた。
 あんまりではないか。
 ただ、サキュバスと人間のハーフということだけで、その首に隷属の首輪をはめられるのは。

「……隷属状態の方が、殿下の身の安全が計られますし、そのサキュバスの少年にとっても良いことだと思います」

「そんな」

 あまりにも勝手な言い分ではないかとセーラは思った。

 だが、侍従長は静かに一礼して部屋を出て行き、セーラの言葉には耳を貸さなかった。
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