騎士団長が大変です

曙なつき

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【短編】

騎士団長とケモミミ事件 (1)

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 王立騎士団の詰め所に、その日フィリップはやや遅れてやってきた。
 いつも通る道が工事をしていたため、遠回りをしなければならなかったのだ。
 そのため、彼は駆け込むように詰め所に入ると、すぐに上着を脱いで団長室に入った。

 昨夜、バーナードは自分の屋敷に帰っており、おのおのが自身の屋敷から出勤している。
 バーナード騎士団長の性格からして、すでに団長室にいて、いつものようにあの重厚なデスクの椅子に座り、書類でもめくっていることだろう。

 フィリップは扉を開けつつ、「おはようございます。遅れて申し訳ありません」と挨拶した。
 彼は、やはり予想通りに長い足を組んで椅子に座っており、書類をめくっていた。

「ああ、おはよう」

 フィリップは自分の上着を落とした。
 そして目を擦る。
 自分が見たものが信じられなかった。

「……………」

 団長の頭にケモノの黒い耳がついていたのだ。丸みを帯びたフォルムのそれは、豹のもののように思える。そして黒い尻尾が椅子の後ろでゆらゆらと揺れている。

「…………バーナード、その耳はどうしたんですか」

「…………何を言っている?」

 怪訝な顔をして、バーナードがそう言うが、フィリップは彼の頭の黒い耳がぴこぴこと動き、彼の後ろで黒い尻尾がゆらゆらと揺れている様子から目を離せなかった。

「耳だけじゃないです。尻尾まであるじゃないですか」

 驚いてそのまま彼の椅子の後ろに行くと、尻尾を掴んだ。
 途端、彼は「うわっ」と叫んで、真っ赤な顔をしてフィリップの身をドンと押した。

「お前、急になにをするんだ」

「……団長は気が付いていないんですか?」

「……大丈夫か、フィリップ」

 あまりにも自分が言い続けるので、今度はバーナードの方が心配そうな様子になっていた。

「疲れているのか? さっきから耳とか尻尾とかおかしいぞ」

「………………」

 彼は自分の頭に耳が生え、後ろに尻尾があることに気が付いていない。
 いや、もしかしたら。

 そこで気が付いた。

 見えているのは自分だけなのかも知れない。
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