78 / 560
【短編】
傷病の騎士の、妻たるものの務め (十)
しおりを挟む
第十話 帰宅
仕事から帰宅したバーナードはフィリップを馬車に乗せて、フィリップの屋敷へと移動した。
その頃にはもう、フィリップは足をひきずりながらも歩けるようになっていた。
やはり、自身の屋敷でフィリップと致すことについて、バーナードは落ち着かないようだった。
そしてフィリップも、自分の屋敷に戻ることができて、明らかに安堵していた。
椅子に座ると、ふーと息をついていた。
「疲れたか?」
バーナードがお茶を入れてテーブルに置く。
普段、フィリップが用意するお茶を彼が用意する姿が新鮮だった。
「ええ、少し。でも大丈夫ですよ。バーナード。いろいろとありがとうございました」
そう言うと、バーナードは照れたように笑った。
「いや、俺は何もしていない。屋敷の召使達がいろいろとお前にしてくれたようだな」
ええ。
あなたの赤ちゃんの頃の映像を見せびらかして、ブチっと消して悔しがらせたり、あなたと致している時に、結界の外から攻撃魔法をぶちかましていたりと……色々としていたようですね。
でもそんなことを騎士団長バーナードへ伝えることは出来なかったので、フィリップは笑顔でこう言った。
「とてもお世話になりました。御礼を申し上げておいてください」
(もう二度とお世話になることはないでしょう)
笑顔の裏で囁く高度な言葉の技を覚えた、フィリップであった。
おまけ
フィリップがマグルの家に赴き、執事のセバスチャンからの言葉を伝えると、マグルは満面の笑みを浮かべていた。
「まぁ、僕が今回は勝ったね。セバスはすごい悔しがっていたろう」
「ええ」
もう人相が変わるほど怒りを覚えていて、そばにいて恐ろしかった。
「あいつはバーナードが大好きな変態ジジイで、昔からバーナードを騎士にすべくぎっちぎちのスケジュールを入れていたんだよな。でも、バーナードは昔からいい奴で、僕も好きだったからよく二人で抜け出していた」
「そうですか」
確かにそう、セバスチャンも言っていた。
マグルのことを「魔術が使えるから、坊ちゃまをいつも魔法を使って連れ回すんです。とんでもないガキ」だと悪態をついていた。
「あいつに、映像記録見せられた? ちびっこのバーナードの奴とか」
「……見せびらかしてきましたよ」
「あいつに映像記録の魔道具を高値で売りつけたのは僕なんだよね。あいつ、すげぇ高値でも買ってくれて、おかげで僕は大儲けしてたよ」
「…………映像記録の控えはないのですか?」
「それはないねー。なんだ、フィリップ、バーナードの子供時代の映像とか見たいの?」
頷くフィリップに、マグルは肩をすくめた。
「本当、バーナードはもてるなー。悪いけど、映像記録は僕は撮っていないね。そればかりは、あのセバスが貯め込んでいるから」
「……貯め込んでいる?」
「そう。僕、あいつに三十個以上の映像記録の魔道具を売ってやったから。たぶんあのジジイは全部、バーナードの記録を撮っていると思う」
その執着に、ゾクリと震える思いがした。
「……その、バーナードは?」
マグルは手をひらひらと揺らして言った。
「前も言ったけど、バーナードは気が付いていない。あいつは昔から鈍感なんだよな」
鈍感で済むことなのだろうか……
そんな執事達の住む屋敷に、バーナードは今も帰宅している。
今も昔も、何も気が付かずに。
仕事から帰宅したバーナードはフィリップを馬車に乗せて、フィリップの屋敷へと移動した。
その頃にはもう、フィリップは足をひきずりながらも歩けるようになっていた。
やはり、自身の屋敷でフィリップと致すことについて、バーナードは落ち着かないようだった。
そしてフィリップも、自分の屋敷に戻ることができて、明らかに安堵していた。
椅子に座ると、ふーと息をついていた。
「疲れたか?」
バーナードがお茶を入れてテーブルに置く。
普段、フィリップが用意するお茶を彼が用意する姿が新鮮だった。
「ええ、少し。でも大丈夫ですよ。バーナード。いろいろとありがとうございました」
そう言うと、バーナードは照れたように笑った。
「いや、俺は何もしていない。屋敷の召使達がいろいろとお前にしてくれたようだな」
ええ。
あなたの赤ちゃんの頃の映像を見せびらかして、ブチっと消して悔しがらせたり、あなたと致している時に、結界の外から攻撃魔法をぶちかましていたりと……色々としていたようですね。
でもそんなことを騎士団長バーナードへ伝えることは出来なかったので、フィリップは笑顔でこう言った。
「とてもお世話になりました。御礼を申し上げておいてください」
(もう二度とお世話になることはないでしょう)
笑顔の裏で囁く高度な言葉の技を覚えた、フィリップであった。
おまけ
フィリップがマグルの家に赴き、執事のセバスチャンからの言葉を伝えると、マグルは満面の笑みを浮かべていた。
「まぁ、僕が今回は勝ったね。セバスはすごい悔しがっていたろう」
「ええ」
もう人相が変わるほど怒りを覚えていて、そばにいて恐ろしかった。
「あいつはバーナードが大好きな変態ジジイで、昔からバーナードを騎士にすべくぎっちぎちのスケジュールを入れていたんだよな。でも、バーナードは昔からいい奴で、僕も好きだったからよく二人で抜け出していた」
「そうですか」
確かにそう、セバスチャンも言っていた。
マグルのことを「魔術が使えるから、坊ちゃまをいつも魔法を使って連れ回すんです。とんでもないガキ」だと悪態をついていた。
「あいつに、映像記録見せられた? ちびっこのバーナードの奴とか」
「……見せびらかしてきましたよ」
「あいつに映像記録の魔道具を高値で売りつけたのは僕なんだよね。あいつ、すげぇ高値でも買ってくれて、おかげで僕は大儲けしてたよ」
「…………映像記録の控えはないのですか?」
「それはないねー。なんだ、フィリップ、バーナードの子供時代の映像とか見たいの?」
頷くフィリップに、マグルは肩をすくめた。
「本当、バーナードはもてるなー。悪いけど、映像記録は僕は撮っていないね。そればかりは、あのセバスが貯め込んでいるから」
「……貯め込んでいる?」
「そう。僕、あいつに三十個以上の映像記録の魔道具を売ってやったから。たぶんあのジジイは全部、バーナードの記録を撮っていると思う」
その執着に、ゾクリと震える思いがした。
「……その、バーナードは?」
マグルは手をひらひらと揺らして言った。
「前も言ったけど、バーナードは気が付いていない。あいつは昔から鈍感なんだよな」
鈍感で済むことなのだろうか……
そんな執事達の住む屋敷に、バーナードは今も帰宅している。
今も昔も、何も気が付かずに。
33
お気に入りに追加
1,131
あなたにおすすめの小説
LV1魔王に転生したおっさん絵師の異世界スローライフ~世界征服は完了してたので二次嫁そっくりの女騎士さんと平和な世界を満喫します~
東雲飛鶴
ファンタジー
●実は「魔王のひ孫」だった初心者魔王が本物魔王を目指す、まったりストーリー●
►30才、フリーター兼同人作家の俺は、いきなり魔王に殺されて、異世界に魔王の身代わりとして転生。
俺の愛する二次嫁そっくりな女騎士さんを拉致って、魔王城で繰り広げられるラブコメ展開。
しかし、俺の嫁はそんな女じゃねえよ!!
理想と現実に揺れる俺と、軟禁生活でなげやりな女騎士さん、二人の気持ちはどこに向かうのか――。『一巻お茶の間編あらすじ』
►長い大戦のために枯渇した国庫を元に戻すため、金策をしにダンジョンに潜った魔王一行。
魔王は全ての魔法が使えるけど、全てLV1未満でPTのお荷物に。
下へ下へと進むPTだったが、ダンジョン最深部では未知の生物が大量発生していた。このままでは魔王国に危害が及ぶ。
魔王たちが原因を究明すべく更に進むと、そこは別の異世界に通じていた。
謎の生物、崩壊寸前な別の異世界、一巻から一転、アクションありドラマありの本格ファンタジー。『二巻ダンジョン編あらすじ』
(この世界の魔族はまるマ的なものです)
※ただいま第二巻、ダンジョン編連載中!※
※第一巻、お茶の間編完結しました!※
舞台……魔族の国。主に城内お茶の間。もしくはダンジョン。
登場人物……元同人作家の初心者魔王、あやうく悪役令嬢になるところだった女騎士、マッドな兎耳薬師、城に住み着いている古竜神、女賞金稼ぎと魔族の黒騎士カップル、アラサークールメイド&ティーン中二メイド、ガチムチ親衛隊長、ダンジョンに出会いを求める剣士、料理好きなドワーフ、からくり人形、エロエロ女吸血鬼、幽霊執事、親衛隊一行、宰相等々。
HJ大賞2020後期一次通過・カクヨム併載
【HOTランキング二位ありがとうございます!:11/21】
さがしもの
猫谷 一禾
BL
策士な風紀副委員長✕意地っ張り親衛隊員
(山岡 央歌)✕(森 里葉)
〖この気持ちに気づくまで〗のスピンオフ作品です
読んでいなくても大丈夫です。
家庭の事情でお金持ちに引き取られることになった少年時代。今までの環境と異なり困惑する日々……
そんな中で出会った彼……
切なさを目指して書きたいです。
予定ではR18要素は少ないです。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
騎士団長の俺が若返ってからみんながおかしい
雫谷 美月
BL
騎士団長である大柄のロイク・ゲッドは、王子の影武者「身代わり」として、魔術により若返り外見が少年に戻る。ロイクはいまでこそ男らしさあふれる大男だが、少年の頃は美少年だった。若返ったことにより、部下達にからかわれるが、副団長で幼馴染のテランス・イヴェールの態度もなんとなく余所余所しかった。
賊たちを返り討ちにした夜、野営地で酒に酔った部下達に裸にされる。そこに酒に酔ったテランスが助けに来たが様子がおかしい……
一途な副団長☓外見だけ少年に若返った団長
※ご都合主義です
※無理矢理な描写があります。
※他サイトからの転載dす
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる