騎士団長が大変です

曙なつき

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【短編】

傷病の騎士の、妻たるものの務め (十)

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第十話 帰宅


 仕事から帰宅したバーナードはフィリップを馬車に乗せて、フィリップの屋敷へと移動した。
 その頃にはもう、フィリップは足をひきずりながらも歩けるようになっていた。

 やはり、自身の屋敷でフィリップと致すことについて、バーナードは落ち着かないようだった。
 そしてフィリップも、自分の屋敷に戻ることができて、明らかに安堵していた。
 椅子に座ると、ふーと息をついていた。

「疲れたか?」

 バーナードがお茶を入れてテーブルに置く。
 普段、フィリップが用意するお茶を彼が用意する姿が新鮮だった。
 
「ええ、少し。でも大丈夫ですよ。バーナード。いろいろとありがとうございました」

 そう言うと、バーナードは照れたように笑った。

「いや、俺は何もしていない。屋敷の召使達がいろいろとお前にしてくれたようだな」

 ええ。
 あなたの赤ちゃんの頃の映像を見せびらかして、ブチっと消して悔しがらせたり、あなたと致している時に、結界の外から攻撃魔法をぶちかましていたりと……色々としていたようですね。

 でもそんなことを騎士団長バーナードへ伝えることは出来なかったので、フィリップは笑顔でこう言った。

「とてもお世話になりました。御礼を申し上げておいてください」
(もう二度とお世話になることはないでしょう)

 笑顔の裏で囁く高度な言葉の技を覚えた、フィリップであった。






おまけ

 フィリップがマグルの家に赴き、執事のセバスチャンからの言葉を伝えると、マグルは満面の笑みを浮かべていた。

「まぁ、僕が今回は勝ったね。セバスはすごい悔しがっていたろう」

「ええ」

 もう人相が変わるほど怒りを覚えていて、そばにいて恐ろしかった。

「あいつはバーナードが大好きな変態ジジイで、昔からバーナードを騎士にすべくぎっちぎちのスケジュールを入れていたんだよな。でも、バーナードは昔からいい奴で、僕も好きだったからよく二人で抜け出していた」

「そうですか」

 確かにそう、セバスチャンも言っていた。
 マグルのことを「魔術が使えるから、坊ちゃまをいつも魔法を使って連れ回すんです。とんでもないガキ」だと悪態をついていた。



「あいつに、映像記録見せられた? ちびっこのバーナードの奴とか」

「……見せびらかしてきましたよ」

「あいつに映像記録の魔道具を高値で売りつけたのは僕なんだよね。あいつ、すげぇ高値でも買ってくれて、おかげで僕は大儲けしてたよ」

「…………映像記録の控えはないのですか?」

「それはないねー。なんだ、フィリップ、バーナードの子供時代の映像とか見たいの?」

 頷くフィリップに、マグルは肩をすくめた。

「本当、バーナードはもてるなー。悪いけど、映像記録は僕は撮っていないね。そればかりは、あのセバスが貯め込んでいるから」

「……貯め込んでいる?」

「そう。僕、あいつに三十個以上の映像記録の魔道具を売ってやったから。たぶんあのジジイは全部、バーナードの記録を撮っていると思う」

 その執着に、ゾクリと震える思いがした。

「……その、バーナードは?」

 マグルは手をひらひらと揺らして言った。

「前も言ったけど、バーナードは気が付いていない。あいつは昔から鈍感なんだよな」

 鈍感で済むことなのだろうか……

 そんな執事達の住む屋敷に、バーナードは今も帰宅している。
 今も昔も、何も気が付かずに。
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