騎士団長が大変です

曙なつき

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【短編】

傷病の騎士の、妻たるものの務め (四)

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第四話 看病をする騎士団長


 夕方、目を覚ました時、寝台の前の椅子にはバーナードが座っていた。
 彼は騎士団の詰め所に向かったはずだった。
 一瞬、自分がどこにいるのか理解できず、フィリップはゆっくりと周囲を見回す。
 彼は心配そうな眼差しで、フィリップを見つめていた。

「大丈夫か」

 その時、フィリップは身体が熱いことを感じた。
 発熱しているらしい。

「セバスから連絡をもらった。熱が出ている」

 額に、冷たく絞ったタオルが置かれ、足には氷嚢が当てられていた。
 この時期に氷を作るとは、何らかの魔道具で用意したものだろう。
 起き上がると、まだ足がズキンと痛んだ。
 慌ててバーナードが言った。

「寝ていろ、フィリップ」

「……すみません」

「謝るな。いいから、早く治すんだな」

「はい」

 自分の屋敷に帰るどころではなかった。
 発熱してしまうとは。
 骨折や捻挫を負った後、発熱する者がいる話は聞いたことがあった。
 
「よく足を冷やせば、熱も引いてくる。心配するな」

 彼の手が額に触れた。

「薬をもらっているが、飲めるか?」

「はい」

 バーナードは枕をフィリップの背に当て、起き上がらせると、水差しの水をグラスに注ぎ、粉薬を差し出した。
 フィリップの手がおぼつかないのを見て、バーナードは粉薬を水に溶かすとそれを口に含み、フィリップの唇に自身の唇を重ねて流し込んだ。
 フィリップは驚いたが、コクリと薬と水を飲み干した。

 熱く息を吐いて呟く。

「熱が上がりそうです」

 それに、バーナードは微笑を浮かべ、潤むフィリップの青い目のその瞼に口づけを落とす。

「また眠っていろ。今度目が覚めた時には、何か食べられそうなものを用意させておく」

「はい」

 フィリップは言葉に甘え、目を閉じた。




 目が覚めた時、部屋の中は真っ暗だった。
 深く眠ってしまったらしい。
 見ると、寝台の横のサイドテーブルには布巾が掛けられた軽食が置かれていた。
 用意してくれたものだろう。

 そして、寝台の傍らにはバーナードが眠っていた。
 すやすやと眠っている彼の寝顔を見つめて笑みを零す。

 寝顔がかわいいことを、彼は知っているのだろうか。
 思わずその唇に軽く口づけると、彼は目をぱちりと覚ました。

「……起こしてしまって申し訳ありません」

 フィリップの額にバーナードは手を伸ばす。

「熱はだいぶ下がったな」

「はい」

 バーナードは自身の腕の中にフィリップを抱き込んだ。

「眠っておけ。また熱を出すぞ」

「わかりました」

 大人しく彼の言葉通り眠ろうとすると、バーナードがフィリップの首筋を甘く噛んだ。

「……バーナード、眠れなくなります」

 やわやわと甘く噛まれるその感触に、フィリップは身を震わせた。

「ああ、済まない。ついな」

 バーナードは少し目元を赤く染め、顔を背ける。

「眠ろう」

「もしかして、バーナード。あなた発情しているんですか」

「違う!! そうじゃない」

 バーナードはしばらく言い淀んでいたが、やがて口にした。

「……弱っているお前がかわいくてな」

 だから珍しくも彼の方からちょっかいを出してきたのだ。
 それにフィリップはバーナードの頬に手を当てて言った。

「熱が下がったら、存分にあなたをかわいがってあげますから」

「…………俺は、お前がかわいいと言っているんだが」

「いいじゃないですか。することは一つなんですから」

「…………お前は」

 バーナードははぁとため息をついた。それからフィリップの髪をくしゃくしゃと乱暴に撫でた。

「もう、寝るんだ」

「はい」

 フィリップはとろとろとまた眠りの中に落ちていく。
 夢の中、緑の草原で、柵を飛び越えるバーナードの姿を見た。
 一人、二人と柵を飛び越えるバーナードの姿がたくさん増え、たくさんの彼をどう捕まえようかと悩んでいるうちに、深い眠りの中へと落ちていた。
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