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【短編】
騎士団長と会議は踊る (3)
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第三話 ザッハトリア王国の王宮へ
騎士団長バーナードの宿の部屋を盗聴させていたザッハトリア王国、近衛騎士団騎士団長ルーサーは、報告を受けて手にしていたガラスの杯を苛立たし気に床に叩きつけた。
中に入っていたワインが飛び散る。
「……ずっと王国国歌を歌っているというのか!!」
「はい」
ルーサーの前に直立不動で立つ騎士が、答える。
「王国国歌を歌い続けているようであります」
マグルの作った新型の“静寂の魔道具”は、部屋内部の音が聞き取れなくする代わりに、任意の録音の音を流すことができた。
マグルは王国内でも名が知られているテノール歌手の男二人の王国国歌斉唱を録音しており、延々と国歌が流れ続けるように設定していた。
おかげで、ザッハトリア王国をはじめとする盗聴部隊の者達は、王国国歌をそらで歌えるようになるほど繰り返し聞かされることになっていた。
またそのテノール歌手の歌がうまいのである。
バーナード騎士団長はその剣の腕前のみならず、歌手としても成功できるのではないかと思う者達まで出る始末であった。
「……あいつが歌なんて歌うはずがなかろう!! 何らかの術で、音をすり替えられているに違いない。わかったか!!」
「はい」
ザッハトリアの騎士達は、そうではないかと思う気持ちもあった。しかし、少し残念に思った。
翌日。
いよいよ、国際会議が開かれる。
王国の文官達もバーナードとは別の馬車に乗ってきており、彼らと共に連れ立って王宮へ向かう。
ザッハトリア王国は半島最北端の国で、その国土は広大であった。
王宮も非常に広かった。
初めて足を踏み入れたバーナードは素直にその巨大な王宮に感嘆した。
まず、馬車を下りたそこは白い石畳が続き、左右に咆哮する獅子の巨大な石像が二頭並べて置かれていた。その石像の後ろにずらりと北方神話の男神、女神の彫像が続く。弓を構えたり、鉾を突き出したりする躍動感のある彫像を見ながら、会議場へ向かう。
「見事ですね」
歩くバーナードの後ろに、フィリップは従いながら、呟いた。
「そうだな」
マントを翻し、竜剣を腰佩いて歩くバーナードに、皆、視線を向ける。
騎士団長バーナードの名はよく知られていた。
彼のことを誇らしく思いながら、フィリップは周囲を密かに伺う。
大型魔獣シンディアを倒すであろうと目されている、最有力騎士である。誰もがバーナードへ視線を向けた。そこには賞賛、羨望、感嘆、嫉妬と様々な感情が込められている。
そして憎悪。
ゾクリと背筋が震えるような強い視線を受けて、フィリップは一瞬碧い目を瞠った。
彫像達の立ち並ぶ道を抜けた先に、その男がいた。
相手を殺してしまいたいと、射るようなその強い視線の主をフィリップは知っていた。
バーナードが一度だけ出場した武道大会の決勝戦で、倒した大男。
ルーサー=マイラント
このザッハトリア王国の近衛騎士団の騎士団長であり、王弟の息子である男。
真っ赤なたてがみのような髪に、濃い緑の瞳の、筋骨逞しいその男は、バーナードを憎悪していた。
眩しいほど白い近衛騎士の隊服と赤い髪の彼は、非常に目を引いた。
黒の軍衣姿のバーナードとはまるで対のような存在である。
ルーサー騎士団長は、バーナードを睨みながら言った。
「よく来たな、バーナード騎士団長」
「……ああ」
非常に億劫そうに、バーナードはうなずいていた。
相手をするのに非常に面倒な男。それがルーサー騎士団長であった。
騎士団長バーナードの宿の部屋を盗聴させていたザッハトリア王国、近衛騎士団騎士団長ルーサーは、報告を受けて手にしていたガラスの杯を苛立たし気に床に叩きつけた。
中に入っていたワインが飛び散る。
「……ずっと王国国歌を歌っているというのか!!」
「はい」
ルーサーの前に直立不動で立つ騎士が、答える。
「王国国歌を歌い続けているようであります」
マグルの作った新型の“静寂の魔道具”は、部屋内部の音が聞き取れなくする代わりに、任意の録音の音を流すことができた。
マグルは王国内でも名が知られているテノール歌手の男二人の王国国歌斉唱を録音しており、延々と国歌が流れ続けるように設定していた。
おかげで、ザッハトリア王国をはじめとする盗聴部隊の者達は、王国国歌をそらで歌えるようになるほど繰り返し聞かされることになっていた。
またそのテノール歌手の歌がうまいのである。
バーナード騎士団長はその剣の腕前のみならず、歌手としても成功できるのではないかと思う者達まで出る始末であった。
「……あいつが歌なんて歌うはずがなかろう!! 何らかの術で、音をすり替えられているに違いない。わかったか!!」
「はい」
ザッハトリアの騎士達は、そうではないかと思う気持ちもあった。しかし、少し残念に思った。
翌日。
いよいよ、国際会議が開かれる。
王国の文官達もバーナードとは別の馬車に乗ってきており、彼らと共に連れ立って王宮へ向かう。
ザッハトリア王国は半島最北端の国で、その国土は広大であった。
王宮も非常に広かった。
初めて足を踏み入れたバーナードは素直にその巨大な王宮に感嘆した。
まず、馬車を下りたそこは白い石畳が続き、左右に咆哮する獅子の巨大な石像が二頭並べて置かれていた。その石像の後ろにずらりと北方神話の男神、女神の彫像が続く。弓を構えたり、鉾を突き出したりする躍動感のある彫像を見ながら、会議場へ向かう。
「見事ですね」
歩くバーナードの後ろに、フィリップは従いながら、呟いた。
「そうだな」
マントを翻し、竜剣を腰佩いて歩くバーナードに、皆、視線を向ける。
騎士団長バーナードの名はよく知られていた。
彼のことを誇らしく思いながら、フィリップは周囲を密かに伺う。
大型魔獣シンディアを倒すであろうと目されている、最有力騎士である。誰もがバーナードへ視線を向けた。そこには賞賛、羨望、感嘆、嫉妬と様々な感情が込められている。
そして憎悪。
ゾクリと背筋が震えるような強い視線を受けて、フィリップは一瞬碧い目を瞠った。
彫像達の立ち並ぶ道を抜けた先に、その男がいた。
相手を殺してしまいたいと、射るようなその強い視線の主をフィリップは知っていた。
バーナードが一度だけ出場した武道大会の決勝戦で、倒した大男。
ルーサー=マイラント
このザッハトリア王国の近衛騎士団の騎士団長であり、王弟の息子である男。
真っ赤なたてがみのような髪に、濃い緑の瞳の、筋骨逞しいその男は、バーナードを憎悪していた。
眩しいほど白い近衛騎士の隊服と赤い髪の彼は、非常に目を引いた。
黒の軍衣姿のバーナードとはまるで対のような存在である。
ルーサー騎士団長は、バーナードを睨みながら言った。
「よく来たな、バーナード騎士団長」
「……ああ」
非常に億劫そうに、バーナードはうなずいていた。
相手をするのに非常に面倒な男。それがルーサー騎士団長であった。
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