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【短編】
騎士団長と媚薬 (二)
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仕事を終えたフィリップは、鍵を開けて屋敷の扉を開いた。
開いた扉の先に向かって、声を上げる。
「ただいま帰りました」
いつもなら、中から「おかえり」という声が聞こえるはずなのに、返事がない。
出かけているのだろうかと思いながら、フィリップは屋敷の中へ入った。
バーナードが運動のため、外へ走りに出ている可能性もあった。
出かけているなら仕方ない。
フィリップは明かりの魔道具を点けようと、壁際に手を伸ばした時、中から発せられた気配に気が付いた。
「……」
荒い息遣いが聞こえる。
「……誰かいるんですか」
そう声をかけた時、突然フィリップは壁にその身体を激しく叩きつけられた。
思わず息が詰まり、呻き声を上げ、痛みに顔をしかめる。そして、ずるずると床に座り込むと、そのまま床に押し倒された。そのフィリップの身体の上にのしかかっていたのは、バーナードだった。
彼はフィリップの上に跨っていた。
「……どうしたんです、バーナード」
驚いて声をかけると、バーナードは苦悶するように眉を寄せ、ハァハァと荒く息を吐き続けていた。
気が付くと部屋の中は荒れていた。
椅子は倒れ、床には様々なものが散らばり落ちている。まるで暴れたかのような様相だった。
「……くそ……なんだ、アレは」
吐き捨てるように言われる言葉に、フィリップはバーナードへ尋ねた。
「何かあったんですか」
頬を赤らめ、目を潤ませ、全身を震わせているバーナードの様子は尋常ではなかった。その異変に、フィリップはなおも彼に問いかけ、その肩に手をかけた。途端、バーナードは身を引きつらせ、声を上げた。
「あああっ、触るな!!」
「どうしたんです!!」
バーナードは首を振る。
「こんなの……おかしい……」
苦し気に切なげに眉を寄せて、囁くように言われる言葉。
彼の様子がおかしい。
「飴が……飴が、くそっ」
悪態をつきながら、飴のことを言う。
「飴?」
「お前が倉庫に置いていた飴だ!! ああっ、もう」
バーナードは、その手でフィリップのシャツの胸元を掴むと、引き裂いた。ボタンが吹っ飛ぶ。
フィリップはあまりのことに目を大きく見開き、呆然としていた。
「団長……?」
「お前が……欲しい」
茶色の瞳から急速に理性の輝きが失われ、とろりとした欲を湛えていく。
荒く吐く息の音だけが、部屋の中に響いていく。
フィリップは必死に、倉庫の中の飴のことを考えた。そして、ようやく合点がいった。
騎士団長バーナードとの結婚を報告した後、王立騎士団の騎士達から結婚祝いだと笑いながら渡された媚薬入りのキャンディーを倉庫に仕舞った。
処女がその喪失の時に、痛みを紛らわせるために使う極めて弱い媚薬効果のあるキャンディーだった。
効力は極めて弱いと聞いていたが、バーナードの様子を見る限り、それは真実ではなさそうだ。
いや、違う。
フィリップは思い出した。
騎士団長は、“淫魔の王女の加護”を受けた結果、彼は酒はもとより、薬なども非常に効きやすくなったという話だった。
あらゆるものに敏感な身体になったと言っていた。実際、酒を一口、口にしただけで昏倒したこともあったではないか。
極めて弱いという媚薬のキャンディーを口にした彼は、すっかり出来上がっていた。
そう、彼はすっかり出来上がっていたのだった。
開いた扉の先に向かって、声を上げる。
「ただいま帰りました」
いつもなら、中から「おかえり」という声が聞こえるはずなのに、返事がない。
出かけているのだろうかと思いながら、フィリップは屋敷の中へ入った。
バーナードが運動のため、外へ走りに出ている可能性もあった。
出かけているなら仕方ない。
フィリップは明かりの魔道具を点けようと、壁際に手を伸ばした時、中から発せられた気配に気が付いた。
「……」
荒い息遣いが聞こえる。
「……誰かいるんですか」
そう声をかけた時、突然フィリップは壁にその身体を激しく叩きつけられた。
思わず息が詰まり、呻き声を上げ、痛みに顔をしかめる。そして、ずるずると床に座り込むと、そのまま床に押し倒された。そのフィリップの身体の上にのしかかっていたのは、バーナードだった。
彼はフィリップの上に跨っていた。
「……どうしたんです、バーナード」
驚いて声をかけると、バーナードは苦悶するように眉を寄せ、ハァハァと荒く息を吐き続けていた。
気が付くと部屋の中は荒れていた。
椅子は倒れ、床には様々なものが散らばり落ちている。まるで暴れたかのような様相だった。
「……くそ……なんだ、アレは」
吐き捨てるように言われる言葉に、フィリップはバーナードへ尋ねた。
「何かあったんですか」
頬を赤らめ、目を潤ませ、全身を震わせているバーナードの様子は尋常ではなかった。その異変に、フィリップはなおも彼に問いかけ、その肩に手をかけた。途端、バーナードは身を引きつらせ、声を上げた。
「あああっ、触るな!!」
「どうしたんです!!」
バーナードは首を振る。
「こんなの……おかしい……」
苦し気に切なげに眉を寄せて、囁くように言われる言葉。
彼の様子がおかしい。
「飴が……飴が、くそっ」
悪態をつきながら、飴のことを言う。
「飴?」
「お前が倉庫に置いていた飴だ!! ああっ、もう」
バーナードは、その手でフィリップのシャツの胸元を掴むと、引き裂いた。ボタンが吹っ飛ぶ。
フィリップはあまりのことに目を大きく見開き、呆然としていた。
「団長……?」
「お前が……欲しい」
茶色の瞳から急速に理性の輝きが失われ、とろりとした欲を湛えていく。
荒く吐く息の音だけが、部屋の中に響いていく。
フィリップは必死に、倉庫の中の飴のことを考えた。そして、ようやく合点がいった。
騎士団長バーナードとの結婚を報告した後、王立騎士団の騎士達から結婚祝いだと笑いながら渡された媚薬入りのキャンディーを倉庫に仕舞った。
処女がその喪失の時に、痛みを紛らわせるために使う極めて弱い媚薬効果のあるキャンディーだった。
効力は極めて弱いと聞いていたが、バーナードの様子を見る限り、それは真実ではなさそうだ。
いや、違う。
フィリップは思い出した。
騎士団長は、“淫魔の王女の加護”を受けた結果、彼は酒はもとより、薬なども非常に効きやすくなったという話だった。
あらゆるものに敏感な身体になったと言っていた。実際、酒を一口、口にしただけで昏倒したこともあったではないか。
極めて弱いという媚薬のキャンディーを口にした彼は、すっかり出来上がっていた。
そう、彼はすっかり出来上がっていたのだった。
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