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第四章 “淫魔の王女”の加護を持つ騎士
第四話 魔力暴走
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それから二か月が経った。
新年を迎えて二週間、雪のちらつく日だった。
厚手の灰色のコートを羽織り、馬車に乗ったバーナードとフィリップは王宮へ向かった。
森に出没する魔獣の討伐についての会議だった。
あれ以来、王宮ではバーナードが“淫魔の王女の加護”を持つことも、彼がバートであることも口にする者は誰もいない。
有難いことだった。
雪が薄く積もった道を歩いていく。
吐く息も白く、外は凍える寒さだった。早く王宮内に入ってしまいたかった。
その時、視線を感じた。
見ると、王宮の二階部分の窓辺に、エドワード王太子が立ち、階下を歩くバーナード達をじっと見下ろしていた。
やがて、彼は踵を返して見えなくなる。
エドワード王太子を久しぶりに見たバーナードは、彼が顔色も悪く、痩せたように思えた。
会議は予定通り始まり、そして終わった。
帰るかと、フィリップと席を立ったその時、隣の近衛騎士団長に、慌てて駈け込んで来た侍従が声を潜めて報告していた。
「殿下がまたもや、魔力暴走を」
近衛騎士団長と副騎士団長が席を立って、足早に去っていく。
バーナードとフィリップも少し遅れてその後を追った。
フィリップは心配そうな表情で言った。
「殿下が魔力暴走ですか。落ち着いていたと聞いていましたが」
「……」
窓辺に佇んでいたエドワード王太子の姿を思い出す。
先日のマグルの言葉といい、うまく彼は、衝動を発散できていないのではないかと思った。
しばらく進むと、扉が破れ、そこに仁王立ちしたエドワードの姿があった。
碧い瞳を釣り上げ、息も荒く、険しい顔で彼はそこにいた。
優美な美貌の持ち主であった彼は、元の姿を欠片も残していなかった。
近衛騎士団長が飛び掛かり、羽交い絞めしようとしていたが、たやすく蹴り倒されていた。
「ぐふっ」と言いながら、壁に叩きつけられ、昏倒している。
(…………)
近衛騎士団には相当な訓練が必要ではないかと思った。
もし、彼が自分の部下なら、もっと冷静に対処するように命じただろう。
がむしゃらな突進がいいことではない。
エドワードの周りで、青白い雷光のようなものがピシピシと音を立てて飛び交っていた。身体から溢れた魔力だろう。
膨大なソレは、エドワードから急速に溢れ、渦巻いている。
このまま放っておけば、伝承のように王宮を吹き飛ばしてもおかしくはなかった。
その時、彼は、顔を上げ、その碧い瞳はバーナードを認めた。
そして、口元にゆっくりと笑みを浮かべた。
碧い瞳は、獲物を見つけた肉食獣のようにギラギラと輝く。
「バート」
そう、彼を認めて言ったのだ。
次の瞬間、ぐんと移動して、バーナードの目と鼻の先にエドワードは現れた。
「!!」
「団長!!」
フィリップが叫ぶ。バーナードは彼に下がるように命じた。
エドワードは手を伸ばし、バーナードを捕えようとしたが、バーナードはそれを避け、彼は走った。
この王宮の中で、彼の魔力暴走を起こさせるわけにはいかない。
雪のちらつく中、王宮の裏手の広場に向かった。
エドワードは彼の後をずっとついてきていた。
王宮から離れた場所に来て、バーナードはエドワードに向きかう。
帯剣していたが、王太子に向けて剣を抜くつもりはなかった。
凄まじい移動スピードで飛びかかってくる彼を避けながら、気絶させるタイミングを見計らう。
そして、自分の正面から飛び掛かってきた時、彼はすれ違い様、その首の後ろに手刀で一本入れたのだ。
ぐらりと倒れる彼を抱きとめる。
「……バート」
もう一度呟くように言って、エドワードは気絶した。
バーナードは彼を抱き上げ、雪が積もり始めた道を、戻って行ったのだった。
新年を迎えて二週間、雪のちらつく日だった。
厚手の灰色のコートを羽織り、馬車に乗ったバーナードとフィリップは王宮へ向かった。
森に出没する魔獣の討伐についての会議だった。
あれ以来、王宮ではバーナードが“淫魔の王女の加護”を持つことも、彼がバートであることも口にする者は誰もいない。
有難いことだった。
雪が薄く積もった道を歩いていく。
吐く息も白く、外は凍える寒さだった。早く王宮内に入ってしまいたかった。
その時、視線を感じた。
見ると、王宮の二階部分の窓辺に、エドワード王太子が立ち、階下を歩くバーナード達をじっと見下ろしていた。
やがて、彼は踵を返して見えなくなる。
エドワード王太子を久しぶりに見たバーナードは、彼が顔色も悪く、痩せたように思えた。
会議は予定通り始まり、そして終わった。
帰るかと、フィリップと席を立ったその時、隣の近衛騎士団長に、慌てて駈け込んで来た侍従が声を潜めて報告していた。
「殿下がまたもや、魔力暴走を」
近衛騎士団長と副騎士団長が席を立って、足早に去っていく。
バーナードとフィリップも少し遅れてその後を追った。
フィリップは心配そうな表情で言った。
「殿下が魔力暴走ですか。落ち着いていたと聞いていましたが」
「……」
窓辺に佇んでいたエドワード王太子の姿を思い出す。
先日のマグルの言葉といい、うまく彼は、衝動を発散できていないのではないかと思った。
しばらく進むと、扉が破れ、そこに仁王立ちしたエドワードの姿があった。
碧い瞳を釣り上げ、息も荒く、険しい顔で彼はそこにいた。
優美な美貌の持ち主であった彼は、元の姿を欠片も残していなかった。
近衛騎士団長が飛び掛かり、羽交い絞めしようとしていたが、たやすく蹴り倒されていた。
「ぐふっ」と言いながら、壁に叩きつけられ、昏倒している。
(…………)
近衛騎士団には相当な訓練が必要ではないかと思った。
もし、彼が自分の部下なら、もっと冷静に対処するように命じただろう。
がむしゃらな突進がいいことではない。
エドワードの周りで、青白い雷光のようなものがピシピシと音を立てて飛び交っていた。身体から溢れた魔力だろう。
膨大なソレは、エドワードから急速に溢れ、渦巻いている。
このまま放っておけば、伝承のように王宮を吹き飛ばしてもおかしくはなかった。
その時、彼は、顔を上げ、その碧い瞳はバーナードを認めた。
そして、口元にゆっくりと笑みを浮かべた。
碧い瞳は、獲物を見つけた肉食獣のようにギラギラと輝く。
「バート」
そう、彼を認めて言ったのだ。
次の瞬間、ぐんと移動して、バーナードの目と鼻の先にエドワードは現れた。
「!!」
「団長!!」
フィリップが叫ぶ。バーナードは彼に下がるように命じた。
エドワードは手を伸ばし、バーナードを捕えようとしたが、バーナードはそれを避け、彼は走った。
この王宮の中で、彼の魔力暴走を起こさせるわけにはいかない。
雪のちらつく中、王宮の裏手の広場に向かった。
エドワードは彼の後をずっとついてきていた。
王宮から離れた場所に来て、バーナードはエドワードに向きかう。
帯剣していたが、王太子に向けて剣を抜くつもりはなかった。
凄まじい移動スピードで飛びかかってくる彼を避けながら、気絶させるタイミングを見計らう。
そして、自分の正面から飛び掛かってきた時、彼はすれ違い様、その首の後ろに手刀で一本入れたのだ。
ぐらりと倒れる彼を抱きとめる。
「……バート」
もう一度呟くように言って、エドワードは気絶した。
バーナードは彼を抱き上げ、雪が積もり始めた道を、戻って行ったのだった。
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