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第四章 “淫魔の王女”の加護を持つ騎士
第三話 愛憎
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エドワード王太子は、バーナード騎士団長を知っていた。
彼は王立騎士団に入団した十代の頃から注目されていた。特にその剣の素晴らしい腕前で。
エドワード王太子に剣の指導をしたこともあれば、御前試合で戦っている姿も見たことがある。
逞しい肢体に、男らしい凛々しい顔立ち。
真っ直ぐな彼の茶色の瞳。
それはバートと一緒だった。
「まさか、……バーナードが……バートだと」
恐らくそれが真実であろうと、侍従長と王宮魔術師長は告げた。
彼は加護を持つことこそ口にしなかったが、否定もしなかった。
状況証拠から、彼がバートである可能性は極めて高い。
だが、なぜだという声に、バーナードの人となりを知る近衛騎士団長は言った。
「私は彼ほど忠義に篤い男を知りません。恐らく、殿下のことを考えてのことでしょう。彼が…バートが王宮にやって来たのは、殿下の王太子の身分が剥奪されるどうかという話が出ていた最悪の時でしたから。彼が来ることで、あの話題は綺麗になくなったではありませんか」
近衛騎士団長はバーナードのした行為に、複雑な笑みを浮かべていたが、好意的であった。
「彼のしたことで、誰か傷つけましたか? それはないですよね。彼はその身を捧げて忠義を為しただけです。皆々様、彼のこれまでの忠節と功績を鑑み、彼のことはそのまま……」
そのまま忘れてしまいましょう
そう言いかけた近衛騎士団長の言葉を、エドワードは遮った。
「許さぬ」
短く、エドワードは告げた。
「私は、彼を許さぬ。騎士団長を罷免し、彼をひっ捕らえよ」
王太子の言葉に、近衛騎士団長は顔色を変える。
「殿下……」
「私は許さぬぞ」
顔を強張らせてそう言うエドワードは、部屋を去っていった。
*
侍従長は、騎士団長バーナードが“淫魔の王女の加護”を持つことは口外せぬよう厳しく命じた。
あの会議室に集められた面々には、警備の騎士も含めて魔法契約まで締結させていた。
栄えある王立騎士団の騎士団長が、“淫魔の王女の加護”を持ち、王家に仕えていることは、やはり外聞の悪いことであった。好奇心で噂されることを避けるためにも、厳重に秘匿することが必要だった。
フィリップの屋敷に、王宮魔術師のマグルがやって来た。
部屋に入るなり、彼はテーブルの上に静寂の魔道具を置いて作動させると、椅子に座って盛大にため息をついた。
「殿下はピリピリしているし、僕も睨まれるし最低~」
部屋にいたバーナードは笑っている。
傍らのフィリップと寄り添ってソファに座っている。新婚感満載の二人に、マグルは恨みがましい目を向けていた。
「けっ、この新婚野郎」
結婚したバーナードとフィリップの仲は順調だった。バーナードが、王子にその身をバートとして捧げた後は、なおも二人の仲は深まった様子だった。何が幸いするのかわからないものだとマグルは思っている。
夫が他の男に抱かれているとか……なかなかあり得ないよな。
彼らにとってあれはもう過ぎたことと処理されているようだった。
王太子には人造生命体がセックスドールとして供され、それで呪われた欲望を散らしているという話だったからだ。
「今回はいくつか報告があるんだ」
マグルは鞄から自分の夕食らしきもの、肉を挟み込んだサンドイッチのようなものを取り出し、口にしながら話し出した。
それを見て、フィリップがつまめるものを飲み物と一緒にテーブルの上に並べてくれる。
フィリップはよく気が付くいい嫁だなと……これまたマグルは思っていた。
「まず、殿下だけど、めちゃバーナードに怒ってる。騎士団長を罷免して捕えろと言っているらしいよ。バーナード、気を付けろよ~。かわいさ余って憎さ百倍とはいったもので、殿下はお前に執着していた分だけ憎しみがあるみたいだぞ。愛憎ってやつかな」
「…………」
バーナードはなんと言っていいのかわからない顔をしていた。
「ま、そう言い張っているのは殿下だけみたいだから、放っておけばいい。侍従長、近衛騎士団長、魔術師長はお前に比較的好意的だ。お前がバートの時も、無欲でいたからな。王家への忠義でやったことだとみてくれているぞ。よかったな、バーナード」
それもどういう表情で受け止めていいのか、バーナードはわからず無言だった。
「お前が“淫魔の王女の加護”持ちだということは、厳重に秘密が管理されている。ま、お前みたいないかにも逞しい騎士が、ああいう淫魔系の加護を持っているのは、変な噂になるといやだろうからな。それもよかったと思う」
「そうだな」
「あとはほとぼりが冷めるのを待つ感じかね。一つだけ懸念することがあるとすれば……」
マグルが腕を組んで、困ったような顔をして言った。
「殿下専用の、セックスドールがしょっちゅう壊れて持たないことだね。ありゃ、ちょっと作るのが大変なんだよ。やる度に壊しているから、魔術師長も作るの大変なのに、そのうち回らなくなるような気がする」
「頑張れ」
バーナードはぼそりとそう言う。本当に、頑張ってもらわないと困る。
「まぁ、頑張るけどさ。そう考えると」
ちらりとフィリップを見て、言葉を選びながら言った。
「お前の“淫魔の王女の加護”は本当に優秀な加護だと思う」
「…………」
それにはバーナードは無言だった。
彼は王立騎士団に入団した十代の頃から注目されていた。特にその剣の素晴らしい腕前で。
エドワード王太子に剣の指導をしたこともあれば、御前試合で戦っている姿も見たことがある。
逞しい肢体に、男らしい凛々しい顔立ち。
真っ直ぐな彼の茶色の瞳。
それはバートと一緒だった。
「まさか、……バーナードが……バートだと」
恐らくそれが真実であろうと、侍従長と王宮魔術師長は告げた。
彼は加護を持つことこそ口にしなかったが、否定もしなかった。
状況証拠から、彼がバートである可能性は極めて高い。
だが、なぜだという声に、バーナードの人となりを知る近衛騎士団長は言った。
「私は彼ほど忠義に篤い男を知りません。恐らく、殿下のことを考えてのことでしょう。彼が…バートが王宮にやって来たのは、殿下の王太子の身分が剥奪されるどうかという話が出ていた最悪の時でしたから。彼が来ることで、あの話題は綺麗になくなったではありませんか」
近衛騎士団長はバーナードのした行為に、複雑な笑みを浮かべていたが、好意的であった。
「彼のしたことで、誰か傷つけましたか? それはないですよね。彼はその身を捧げて忠義を為しただけです。皆々様、彼のこれまでの忠節と功績を鑑み、彼のことはそのまま……」
そのまま忘れてしまいましょう
そう言いかけた近衛騎士団長の言葉を、エドワードは遮った。
「許さぬ」
短く、エドワードは告げた。
「私は、彼を許さぬ。騎士団長を罷免し、彼をひっ捕らえよ」
王太子の言葉に、近衛騎士団長は顔色を変える。
「殿下……」
「私は許さぬぞ」
顔を強張らせてそう言うエドワードは、部屋を去っていった。
*
侍従長は、騎士団長バーナードが“淫魔の王女の加護”を持つことは口外せぬよう厳しく命じた。
あの会議室に集められた面々には、警備の騎士も含めて魔法契約まで締結させていた。
栄えある王立騎士団の騎士団長が、“淫魔の王女の加護”を持ち、王家に仕えていることは、やはり外聞の悪いことであった。好奇心で噂されることを避けるためにも、厳重に秘匿することが必要だった。
フィリップの屋敷に、王宮魔術師のマグルがやって来た。
部屋に入るなり、彼はテーブルの上に静寂の魔道具を置いて作動させると、椅子に座って盛大にため息をついた。
「殿下はピリピリしているし、僕も睨まれるし最低~」
部屋にいたバーナードは笑っている。
傍らのフィリップと寄り添ってソファに座っている。新婚感満載の二人に、マグルは恨みがましい目を向けていた。
「けっ、この新婚野郎」
結婚したバーナードとフィリップの仲は順調だった。バーナードが、王子にその身をバートとして捧げた後は、なおも二人の仲は深まった様子だった。何が幸いするのかわからないものだとマグルは思っている。
夫が他の男に抱かれているとか……なかなかあり得ないよな。
彼らにとってあれはもう過ぎたことと処理されているようだった。
王太子には人造生命体がセックスドールとして供され、それで呪われた欲望を散らしているという話だったからだ。
「今回はいくつか報告があるんだ」
マグルは鞄から自分の夕食らしきもの、肉を挟み込んだサンドイッチのようなものを取り出し、口にしながら話し出した。
それを見て、フィリップがつまめるものを飲み物と一緒にテーブルの上に並べてくれる。
フィリップはよく気が付くいい嫁だなと……これまたマグルは思っていた。
「まず、殿下だけど、めちゃバーナードに怒ってる。騎士団長を罷免して捕えろと言っているらしいよ。バーナード、気を付けろよ~。かわいさ余って憎さ百倍とはいったもので、殿下はお前に執着していた分だけ憎しみがあるみたいだぞ。愛憎ってやつかな」
「…………」
バーナードはなんと言っていいのかわからない顔をしていた。
「ま、そう言い張っているのは殿下だけみたいだから、放っておけばいい。侍従長、近衛騎士団長、魔術師長はお前に比較的好意的だ。お前がバートの時も、無欲でいたからな。王家への忠義でやったことだとみてくれているぞ。よかったな、バーナード」
それもどういう表情で受け止めていいのか、バーナードはわからず無言だった。
「お前が“淫魔の王女の加護”持ちだということは、厳重に秘密が管理されている。ま、お前みたいないかにも逞しい騎士が、ああいう淫魔系の加護を持っているのは、変な噂になるといやだろうからな。それもよかったと思う」
「そうだな」
「あとはほとぼりが冷めるのを待つ感じかね。一つだけ懸念することがあるとすれば……」
マグルが腕を組んで、困ったような顔をして言った。
「殿下専用の、セックスドールがしょっちゅう壊れて持たないことだね。ありゃ、ちょっと作るのが大変なんだよ。やる度に壊しているから、魔術師長も作るの大変なのに、そのうち回らなくなるような気がする」
「頑張れ」
バーナードはぼそりとそう言う。本当に、頑張ってもらわないと困る。
「まぁ、頑張るけどさ。そう考えると」
ちらりとフィリップを見て、言葉を選びながら言った。
「お前の“淫魔の王女の加護”は本当に優秀な加護だと思う」
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