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第三章 いらない加護を受け取る
第十四話 帰宅
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仕事を終え、帰宅したフィリップは深くため息をついた。
王立騎士団に急遽、要請された仕事が入り、駆り出されたのだ。遅い時間まで働くことになり、さすがに疲れていた。
部屋に入り、魔道具の灯りを点けようとした時、暗がりから声がした。
「フィリップ」
若々しいその声に、一瞬誰だかわからなかった。
「ああ、すまない。この姿で会うのは初めてか」
それで灯りを点ける。
部屋の奥に、白い近衛騎士の隊服をまとった黒髪の少年が立っていた。
よく見ると、その顔立ちには見覚えがある。
「……バーナード団長?」
彼は嬉しそうに笑った。
「よくわかったな、フィリップ。俺だ、バーナードだ。若返りの魔道具で姿が変わっているんだ」
「……驚きました。聞いていなければわからなかったかも知れません」
バーナードはどっかりと椅子に座り、身を深く沈めた。
「済まないな。少し休ませてくれ。森を抜けてきたから、さすがに疲れた」
「……やはり、あなただったのですね。王立騎士団にも森への捜索要請が出されて、今まで駆り出されていたのですよ」
それに、バーナードは心底おかしそうに笑った。
「俺のことを、俺の騎士団が探しているのか。すごいな。ははははは」
「バーナード、笑いごとではないですよ。まだ、あなたを探しているんですから」
バーナードはフィリップを手招きした。それで近寄る彼の後頭部に手をやると、むんずと掴んで引き寄せ、唇を重ねた。
少年の柔らかな唇の感触に一瞬驚いたが、彼の唇が開いて、舌が入ってくる。
しばらくお互いの唇の感触を楽しんだ後、バーナードは唇を離した。
彼の茶色の目はフィリップを見つめて言った。
「一週間、お前に会えないと辛かった」
そう言われて、フィリップはバーナードに噛みつくように口づけ、その細身にのしかかった。
「ひどい人だ、あなたは」
「そうだ、俺はひどい男だよ、フィリップ。お前に会いたかった。こうなって初めてわかったよ」
彼はフィリップの背に手を回し、ぎゅっと抱きついた。
「お前に夢中だってことが」
その言葉にフィリップはバーナードをきつく抱きしめる。
「団長は、本当にひどい」
「うん」
「私は……ずっと前からあなたに夢中なんですよ」
「わかってるさ、フィリップ。ああ、お前が欲しくてたまらない。俺を早く抱いてくれ」
「……その姿のあなたを抱くのですか? 元の姿には戻らないのですか」
「姿を変えるのには時間がかかる。とりあえず、この姿のままでいいだろう。殿下のお古でいやか」
「ひどい人だ。私がどれだけ嫉妬していたか、わかっていますか」
「仕方ないだろう」
「忠節を盾に他の男に身を任せるなんて、もうそんなことはしないでください」
「…………善処したい」
はっきりと否定されなかったことに、フィリップは内心ため息をついた。
「上書きしますよ。殿下のことなんて思い出せないくらい、いっぱいにしてあげます」
「期待している」
彼はにやりと笑って、フィリップに口づけた。
翌朝、目を覚ました時には案の定、寝台の傍らにはおらず、彼は居間の椅子に座って書類をめくっていた。
大人な、がっしりとした体躯のバーナード騎士団長の姿に戻っている。それにほっとする思いだった。
やはり、彼は、いつもの彼の姿でいてほしい。
両耳に開けたピアスの孔自体も、ポーションの力で塞いでしまったようで、なんの痕跡も残っていない。
そして、昨夜さんざん貪ったのに、疲れた様子を微塵も見せないことに、フィリップは呆れていた。
「おはようございます、バーナード」
「ああ、おはよう」
「今日から仕事ですか?」
「昨日で七日間の休暇は終わったからな」
バーナードは当然のようにそう言っていた。
王立騎士団に急遽、要請された仕事が入り、駆り出されたのだ。遅い時間まで働くことになり、さすがに疲れていた。
部屋に入り、魔道具の灯りを点けようとした時、暗がりから声がした。
「フィリップ」
若々しいその声に、一瞬誰だかわからなかった。
「ああ、すまない。この姿で会うのは初めてか」
それで灯りを点ける。
部屋の奥に、白い近衛騎士の隊服をまとった黒髪の少年が立っていた。
よく見ると、その顔立ちには見覚えがある。
「……バーナード団長?」
彼は嬉しそうに笑った。
「よくわかったな、フィリップ。俺だ、バーナードだ。若返りの魔道具で姿が変わっているんだ」
「……驚きました。聞いていなければわからなかったかも知れません」
バーナードはどっかりと椅子に座り、身を深く沈めた。
「済まないな。少し休ませてくれ。森を抜けてきたから、さすがに疲れた」
「……やはり、あなただったのですね。王立騎士団にも森への捜索要請が出されて、今まで駆り出されていたのですよ」
それに、バーナードは心底おかしそうに笑った。
「俺のことを、俺の騎士団が探しているのか。すごいな。ははははは」
「バーナード、笑いごとではないですよ。まだ、あなたを探しているんですから」
バーナードはフィリップを手招きした。それで近寄る彼の後頭部に手をやると、むんずと掴んで引き寄せ、唇を重ねた。
少年の柔らかな唇の感触に一瞬驚いたが、彼の唇が開いて、舌が入ってくる。
しばらくお互いの唇の感触を楽しんだ後、バーナードは唇を離した。
彼の茶色の目はフィリップを見つめて言った。
「一週間、お前に会えないと辛かった」
そう言われて、フィリップはバーナードに噛みつくように口づけ、その細身にのしかかった。
「ひどい人だ、あなたは」
「そうだ、俺はひどい男だよ、フィリップ。お前に会いたかった。こうなって初めてわかったよ」
彼はフィリップの背に手を回し、ぎゅっと抱きついた。
「お前に夢中だってことが」
その言葉にフィリップはバーナードをきつく抱きしめる。
「団長は、本当にひどい」
「うん」
「私は……ずっと前からあなたに夢中なんですよ」
「わかってるさ、フィリップ。ああ、お前が欲しくてたまらない。俺を早く抱いてくれ」
「……その姿のあなたを抱くのですか? 元の姿には戻らないのですか」
「姿を変えるのには時間がかかる。とりあえず、この姿のままでいいだろう。殿下のお古でいやか」
「ひどい人だ。私がどれだけ嫉妬していたか、わかっていますか」
「仕方ないだろう」
「忠節を盾に他の男に身を任せるなんて、もうそんなことはしないでください」
「…………善処したい」
はっきりと否定されなかったことに、フィリップは内心ため息をついた。
「上書きしますよ。殿下のことなんて思い出せないくらい、いっぱいにしてあげます」
「期待している」
彼はにやりと笑って、フィリップに口づけた。
翌朝、目を覚ました時には案の定、寝台の傍らにはおらず、彼は居間の椅子に座って書類をめくっていた。
大人な、がっしりとした体躯のバーナード騎士団長の姿に戻っている。それにほっとする思いだった。
やはり、彼は、いつもの彼の姿でいてほしい。
両耳に開けたピアスの孔自体も、ポーションの力で塞いでしまったようで、なんの痕跡も残っていない。
そして、昨夜さんざん貪ったのに、疲れた様子を微塵も見せないことに、フィリップは呆れていた。
「おはようございます、バーナード」
「ああ、おはよう」
「今日から仕事ですか?」
「昨日で七日間の休暇は終わったからな」
バーナードは当然のようにそう言っていた。
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