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第三章 いらない加護を受け取る
第十二話 引き留める手を振り払って(中)
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七日目
それはバートが王宮を退去する日だった。
その前日の晩から、王太子は彼を寝台で組み伏せ、抱き続けていた。
二人して肌は汗に濡れ、下肢は精に濡れきっている。
前夜から完徹とかひどすぎる。内心バートは思っていた。
もし自分がサキュバスの加護を持っていなかったら、抱き潰されるどころではない。抱き殺される状態だったろう。
腹上死とかやめて欲しい(いや、組み敷かれているから腹下死だろうか)。
だが、加護のおかげか、エドワードに精を注がれれば注がれるほど、その身体には力が漲った。
殿下はずっと自分を抱いていることで、疲労困憊させ、出て行かせまいと思っているのだろうが、結果は逆で、逃げるための力を与え続けていることに等しい。
バートは自分の上にのしかかり、夢中になって身体を求める王太子の若々しい顔を見つめた。
食事も取られ、眠りにもつけられるようになった彼は、だいぶ元気になった。
お暇するには良い頃合いだ。
自分がいなくなれば元の木阿弥だとマグルは言っていた。正直そうなる可能性は高いと思う。
だが、またその時、考えるしかない。
ずっとこのままここにいるわけにはいかない。
フィリップが家で待っているのだ。
殿下に抱かれている間、フィリップはどうしているだろうかと思うことが幾度もあった。
結婚をしていながら、忠義のために他の男に抱かれることを許せと言うとは、自分はひどい男だと思う。
呆れて、彼が離縁を求めてきてもおかしくはない。
その時には黙って受け入れるつもりだった。
だが、それでもこうしてフィリップのことを思うことは許して欲しい。
王太子に抱かれるようになってよくわかったが、フィリップはバーナードを大切に、丁寧に愛していた。
王太子がまだ十八と若く、性の手練手管をよく知らないせいもあるのだろうが、フィリップとのセックスは、バーナードを尊重していしたし、こういってはなんだが、彼からの愛を感じた。
フィリップが頻繁に自分の身体を求めるのは、もちろんサキュバスの加護のせいだとは思う。そうだとは思う一方で、身体を交える時には、バーナードの許諾を得たり、バーナードが快感を得るようによくよく配慮していることを感じるのだ。
皮肉なことに、王太子に抱かれるようになって初めて気が付いたことだった。
長々と抱かれ、身にはまた溢れるほどエドワードの精が注ぎこまれていた。
バートは少し洗い清めたいと浴室に向かう。
幸いなことに、エドワードはついてこなかった。
彼には少し変態じみたところがあり、バートの後孔から男の精が流れ出すところを見たいようなのだ。
羞恥心からやめてくれと何度言っても、やめてくれない。
幾度も注ぎ込まれたそこは、柔らかく綻んで敏感になっていて、指で掻きまわされるとたちどころに自分はイってしまう。
彼は指で精を掻き出してくれながらも、意地悪くそこを掻きまわすようにして、バートを啼かせた。
それを思い出して、バートは小さくため息をついた。
エドワードは巨根・絶倫というひどい呪いを受けていたが、本当にその通りで、自分でなければ到底彼の性欲にはついていけないと思った。
身を清め、身体から彼の精を洗い流した後、バートは濡れた肌を拭いた。
昨夜から、部屋の中の自分の衣服の一切が消えていることに気が付いていた。
服が無ければ逃げ出せまいと思っているのだろう。
本当に、ヒドイ……
七日間という約束で来たのに。
だが、そうなるであろうことを見越して、バートは服を数日前から隠していた。
浴室の棚の奥に、備品を入れる箱があり、備品を取り出して代わりに服を詰め込んでいた。
幸いなことに見つかっていない。
というよりも、ここ連日ずっとセックスばかりしている部屋へ、備品交換のため女官達も部屋に入ることができなかったのだと思う。
下着を身に付け、シャツとズボンをまとう。靴がないことが残念だったが、どこかで手に入れるしかない。
戻りが遅いことに、寝室の方から声がかかる。
「バート?」
呼ぶ声が響く。
バートは上を見上げた。浴室の天井の高い位置に大きな硝子のはめられた天窓があり、明るい陽射しがさんさんと差し込んでいる。
そこから外へ出られそうだ。だが、天窓のある位置は高かった。普通に手を伸ばして届く距離ではない。
天窓には鍵もついていた。
昨夜からずっと精を受け入れ続けた自分は、力が漲っており、壊すことは容易だろう。
バートは自然と微笑んでいた。
騎士団長であるときと違って、この少年の身であることの良さは、身の軽さだった。
彼はタイルの壁を蹴り上げると、ひょいと天窓へ続くでっぱりに足をかけ、さらに飛び上がり、天窓のヘリに手をかけた。
そのまま身を、腕の力だけで引き上げた。
上に登ると、鍵部分に手をやり、力を込める。
普通の人間の力では、絶対に壊せないそれを、バートは引きちぎった。
(サキュバスの加護はこういう点はいいな。……セックスして男の精を受け入れなければならないという大きな難点はあるが)
その時、遅すぎることに業を煮やしたエドワードが浴室に入った。
彼はすぐに、遥か頭上の天窓部分にいるバートを見つけた。
「……バート!!」
「殿下、お暇させて頂きます」
バートは笑ってそう言うと、鍵の外れた天窓を大きく開け放ち、その身を窓の向こうに躍らせたのだった。
下ではバートの名を何度も呼ぶ声がした。
すぐに護衛騎士達が駆け付けてくるだろう。
天窓から王宮の屋根部分に出た。
風が音を立てて吹きつけて、黒髪を揺らした。
昔から何度も来ている王宮の建物の配置図は頭の中に入っている。どこにどういう警備が敷かれ、どう逃げると一番良いのか。
七日目に自分の力で脱出すると決めてから、考えていた逃走ルートがあった。
それは王宮の裏門を越えて、大きく広がる森を抜けて逃げることだった。
森の中も、バートは知り尽くしていた。
王立騎士団は、森の獣の間引きを定期的に行っていた。
普通の人間なら、迷うであろうその森も、彼にとっては庭のようなもの。
ただ、そこに行くまでの道中、邪魔されないようにしなければならない。
すでにバートが逃げたという連絡がされたのだろう。下では慌ただしく走り回る気配がしていた。
それはバートが王宮を退去する日だった。
その前日の晩から、王太子は彼を寝台で組み伏せ、抱き続けていた。
二人して肌は汗に濡れ、下肢は精に濡れきっている。
前夜から完徹とかひどすぎる。内心バートは思っていた。
もし自分がサキュバスの加護を持っていなかったら、抱き潰されるどころではない。抱き殺される状態だったろう。
腹上死とかやめて欲しい(いや、組み敷かれているから腹下死だろうか)。
だが、加護のおかげか、エドワードに精を注がれれば注がれるほど、その身体には力が漲った。
殿下はずっと自分を抱いていることで、疲労困憊させ、出て行かせまいと思っているのだろうが、結果は逆で、逃げるための力を与え続けていることに等しい。
バートは自分の上にのしかかり、夢中になって身体を求める王太子の若々しい顔を見つめた。
食事も取られ、眠りにもつけられるようになった彼は、だいぶ元気になった。
お暇するには良い頃合いだ。
自分がいなくなれば元の木阿弥だとマグルは言っていた。正直そうなる可能性は高いと思う。
だが、またその時、考えるしかない。
ずっとこのままここにいるわけにはいかない。
フィリップが家で待っているのだ。
殿下に抱かれている間、フィリップはどうしているだろうかと思うことが幾度もあった。
結婚をしていながら、忠義のために他の男に抱かれることを許せと言うとは、自分はひどい男だと思う。
呆れて、彼が離縁を求めてきてもおかしくはない。
その時には黙って受け入れるつもりだった。
だが、それでもこうしてフィリップのことを思うことは許して欲しい。
王太子に抱かれるようになってよくわかったが、フィリップはバーナードを大切に、丁寧に愛していた。
王太子がまだ十八と若く、性の手練手管をよく知らないせいもあるのだろうが、フィリップとのセックスは、バーナードを尊重していしたし、こういってはなんだが、彼からの愛を感じた。
フィリップが頻繁に自分の身体を求めるのは、もちろんサキュバスの加護のせいだとは思う。そうだとは思う一方で、身体を交える時には、バーナードの許諾を得たり、バーナードが快感を得るようによくよく配慮していることを感じるのだ。
皮肉なことに、王太子に抱かれるようになって初めて気が付いたことだった。
長々と抱かれ、身にはまた溢れるほどエドワードの精が注ぎこまれていた。
バートは少し洗い清めたいと浴室に向かう。
幸いなことに、エドワードはついてこなかった。
彼には少し変態じみたところがあり、バートの後孔から男の精が流れ出すところを見たいようなのだ。
羞恥心からやめてくれと何度言っても、やめてくれない。
幾度も注ぎ込まれたそこは、柔らかく綻んで敏感になっていて、指で掻きまわされるとたちどころに自分はイってしまう。
彼は指で精を掻き出してくれながらも、意地悪くそこを掻きまわすようにして、バートを啼かせた。
それを思い出して、バートは小さくため息をついた。
エドワードは巨根・絶倫というひどい呪いを受けていたが、本当にその通りで、自分でなければ到底彼の性欲にはついていけないと思った。
身を清め、身体から彼の精を洗い流した後、バートは濡れた肌を拭いた。
昨夜から、部屋の中の自分の衣服の一切が消えていることに気が付いていた。
服が無ければ逃げ出せまいと思っているのだろう。
本当に、ヒドイ……
七日間という約束で来たのに。
だが、そうなるであろうことを見越して、バートは服を数日前から隠していた。
浴室の棚の奥に、備品を入れる箱があり、備品を取り出して代わりに服を詰め込んでいた。
幸いなことに見つかっていない。
というよりも、ここ連日ずっとセックスばかりしている部屋へ、備品交換のため女官達も部屋に入ることができなかったのだと思う。
下着を身に付け、シャツとズボンをまとう。靴がないことが残念だったが、どこかで手に入れるしかない。
戻りが遅いことに、寝室の方から声がかかる。
「バート?」
呼ぶ声が響く。
バートは上を見上げた。浴室の天井の高い位置に大きな硝子のはめられた天窓があり、明るい陽射しがさんさんと差し込んでいる。
そこから外へ出られそうだ。だが、天窓のある位置は高かった。普通に手を伸ばして届く距離ではない。
天窓には鍵もついていた。
昨夜からずっと精を受け入れ続けた自分は、力が漲っており、壊すことは容易だろう。
バートは自然と微笑んでいた。
騎士団長であるときと違って、この少年の身であることの良さは、身の軽さだった。
彼はタイルの壁を蹴り上げると、ひょいと天窓へ続くでっぱりに足をかけ、さらに飛び上がり、天窓のヘリに手をかけた。
そのまま身を、腕の力だけで引き上げた。
上に登ると、鍵部分に手をやり、力を込める。
普通の人間の力では、絶対に壊せないそれを、バートは引きちぎった。
(サキュバスの加護はこういう点はいいな。……セックスして男の精を受け入れなければならないという大きな難点はあるが)
その時、遅すぎることに業を煮やしたエドワードが浴室に入った。
彼はすぐに、遥か頭上の天窓部分にいるバートを見つけた。
「……バート!!」
「殿下、お暇させて頂きます」
バートは笑ってそう言うと、鍵の外れた天窓を大きく開け放ち、その身を窓の向こうに躍らせたのだった。
下ではバートの名を何度も呼ぶ声がした。
すぐに護衛騎士達が駆け付けてくるだろう。
天窓から王宮の屋根部分に出た。
風が音を立てて吹きつけて、黒髪を揺らした。
昔から何度も来ている王宮の建物の配置図は頭の中に入っている。どこにどういう警備が敷かれ、どう逃げると一番良いのか。
七日目に自分の力で脱出すると決めてから、考えていた逃走ルートがあった。
それは王宮の裏門を越えて、大きく広がる森を抜けて逃げることだった。
森の中も、バートは知り尽くしていた。
王立騎士団は、森の獣の間引きを定期的に行っていた。
普通の人間なら、迷うであろうその森も、彼にとっては庭のようなもの。
ただ、そこに行くまでの道中、邪魔されないようにしなければならない。
すでにバートが逃げたという連絡がされたのだろう。下では慌ただしく走り回る気配がしていた。
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