騎士団長が大変です

曙なつき

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第二章 副騎士団長がおかしいです

第二話 副騎士団長が探りを入れています

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 一瞬、何を言われているのかわからず、騎士団長バーナードは動きを止めた。
 それから視線を逸らし、答えた。

「ああ、すっかり良くなった」

 を言っているのだ。
 だから、バーナードはそう答えた。

「……そうですか、さすが、団長ですね」

 フィリップは囁くように呟いた。



 淫魔に取り憑かれた騎士団長バーナードを何度も強引に抱いたあの日。
 フィリップが目を覚ました時には、彼はもう部屋の中にはいなかった。
 引きちぎったような縄の残骸があったことから、彼は手を縛ったそれを自身の力で破ったのだろう。
 呆れるほどの怪力だった。

 テーブルの上に置いてあった封印紙の入った紙袋も消えている。
 精を思う存分注がれた結果、彼は淫魔の支配下から一時的に逃れることができて、正気に戻り、封印紙をバーナード自身に貼り付けて出ていったのだ。
 あんなひどい目に遭わせた自分を放置して。

 そしてきっと神殿に行って、取り憑いていた女淫魔を祓ったのだろう。
 驚いたことに、彼はその日の夕方には平気な顔をして騎士団にいた。
 さすがに訓練には参加していなかったが、椅子に座って書類仕事をしていた。
 おそらく、ポーションを飲んで、疲労とその身体に残った負担の痕跡を全て消したのだ。
 まるで何事もなかったかのように、平然としている彼の様子を見た時、フィリップの方が動揺した。

 アレをまったくなかったことのようにしている。
 そのことに、怒りを覚えた。
 騎士団長バーナードにとっては理不尽な怒りであろうと思う。
 だが、それは間違いなく、なかったことにしようとする彼への怒りだった。

 

「“淫魔の王女”に取り憑かれている間のことは、どうでしたか?」

 だから、執拗に彼を追い詰めるように言葉をかけた。
 バーナードは茶色の目をすがめた。

「……フィリップ」

 非難するような視線を向けられた。
 彼は、お互いにアレを無かったことにして、今までと同じように過ごしたいと考えているのだ。
 それが大人の正しいやり方だとわかっている。
 そうでなければ、これからも一緒に仕事はできない。

 けれど、フィリップは斬り込んだ。

「あの時、団長はひどく気持ち良さそうにしていました。もう、ノーマルなセックスでは満足できないでしょう?」

 バーナードは彼を睨みつけた。

「……お前はおかしいぞ。何が言いたい」

 鋭い彼のその眼差しを見ているだけでも、ゾクゾクとしてきた。

「……そのままです。私はまた団長が欲しいって言っているんです」

 椅子に座る彼の上にのしかかるようにすると、彼は真っ直ぐに自分を見上げて言った。

「殺すぞ」

 彼の茶色の瞳の中に、なぜか微笑んでいるフィリップがいた。

「団長になら、殺されてもいいです」

「……………………」

 その言葉に、バーナードは眉間に皺を寄せ、初めて困惑を口にした。

「お前はおかしい。医者に診てもらえ」
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