｜共同住宅《アパート》『フェアリーゴッドマザーハウス』の不可思議な日常茶飯事

【1話目】

それがつい、焦る気持ちに繋がってしまった

　廉太郎は、去年の夏休み明けにこちらへ転校してきた。
　半年たってなんとかクラスに馴染んだ頃に学年があがって、六年生になった。
　その際、仲良くしてくれていた子たちとは離れてしまったせいで現在。
　廉太郎には友だちと呼べる存在がほとんどいない。
　だいたいの子たちは、前の学年の友だちと離れても、低学年からの友だちを見つけてすぐに仲良しグループを作ってしまったからだ。

　それでも、仲の良かった誰とも同じクラスになれなかった子も何人かはいて。
　廉太郎は、そんな子たちが集まったグループに入れてもらっている。
　どうしてもクラスでポツンと浮いてしまいがちな廉太郎を、仲良しの子と同じクラスになれなかった子たちの中のひとりが気にしてさそってくれたからだ。
　それが根本ねもとミサキちゃんだ。
　明るく、誰にでも分けへだてなく接する彼女は単に、クラスに馴染めず浮いている廉太郎が気になっただけだろう。
　特別、廉太郎になにかしらの感情を抱いているわけではないのは、誰の目にもあきらかだ。

　けれど、明るくて可愛いミサキちゃんは、あっという間にクラスのアイドルとなってしまった。
　そのせいか、転校生だというだけで世話を焼いてもらっている廉太郎をよく思っていない子も、中にはいる。
　意地悪をされるほどではないにしろ、そんな連中が事あるごとに廉太郎に突っかかってくるのだ。

　廉太郎自身は、せっかく同じクラスになったのだから、みんなで仲良くしたいと思っている。
　でも、なにかにつけてすぐ嫌がらせを言ってくる相手につけ入る隙を与えたくないとも思っていて。
　それがつい、焦る気持ちに繋がってしまった。

　ミサキちゃんの家には、一度公園で集まって、それからみんなで訪ねることになっている。
　足の遅い廉太郎は、遅れることで嫌味を言わせたくない気持ちと仔犬をはやく見たい気持ちでいっぱいになってしまい、一番大事な約束事にまで気が回らなくなってしまったのだ。