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【1話目】

まあようするに、『ダブル不倫』とかいうヤツだ

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 去年、夏休みに入るちょっと前。
 なんの前ぶれもなく、廉太郎の家庭は壊れた。
 廉太郎に原因があった訳ではない。完全に、父親と母親の都合だ。
 父親には他にも家族と呼べる人たちがいて、母親にも、よそに家族同然の人たちがいた。

 後日、オジサンがわかりやすく説明してくれたところによると、

「まあようするに、『ダブル不倫』とかいうヤツだ」

 と、いうことらしい。

 せっかくの夏休みだからと、父親と母親のどちらもが、相手に廉太郎を任せて自分はもうひとつの家族と遊びに出かけようと計画をたて、それがまさかのバッティング。
 どちらもゆずることなく自分の予定を優先しようとした結果。ふとしたはずみでダブル不倫が発覚し、あっけなく廉太郎の家庭は壊れた。
 両親ともに、いまの家庭よりも、もうひとつの家庭を選んだからだ。
 その上、父親も母親も、廉太郎の親権を放棄ほうきした。
 それぞれ、もうひとつの家庭に同じ年頃の子供がいて、急に兄弟が増えるのは、その子がかわいそうだからだそうだ。
 両親にとっては血を分けた実の子供よりも、もうひとつの家庭の、血の繋がらない子供の方が大事だったらしい。

 なし崩し的に両親に捨てられ、ちゅうぶらりんになった廉太郎は、「これからは自分ひとりで生きていかないといけないんだ」と覚悟を決めた。
 しかしながら、そこはそれ。世の中、小学五年生の子供がひとりで生きていけるようにはできていなかった。

 生活費は両親から送られてきても、廉太郎ひとりでは銀行からお金を引き出すことさえむずかしい。
 料理だって出来ないし、洗濯だってしたことがないのだ。
 それどころか、廉太郎には整理整頓せいりせいとんすら満足には出来ないだろう。

 他にもいろいろ。数えだしたらきりがないくらい、世の中には子供だけではどうにもならないことが山ほどあった。
 こんなことなら嫌がらずにお手伝いのひとつでもしておけばよかったと後悔してみても後の祭り。
 現実を突きつけられ、廉太郎は本人の希望を聞かれることさえなく、児童養護施設じどうようごしせつへと預けられることとなった。
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