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【1話目】

ちょっと行って置いてくるだけなんだから、別にいいじゃん

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 クラスの子たちより足が遅い廉太郎は、なにをするにしても、うんと急がなければ他の子たちに出遅れてしまう。
 バタバタっと部屋まで行って、バタバタっと戻ってくるだけなのだ。
 いちいちクツ箱に靴をしまうのは、正直めんどくさい・・・・・・

 ちょっとくらいいいじゃん。
 そんな気持ちを込めて、廉太郎は藤堂をにらむ。
 せっかくの楽しい気持ちが消え、イライラした気持ちとすり替わったのが自分でもわかる。
 藤堂にだって、廉太郎が彼の言葉にムッとしたのは伝わったはずだ。
 なのに、藤堂はにこにこと優しい笑みを浮かべたまま、動じることなく散らばった靴に視線を向ける。

「ほな、せめてそろえて置いとき。他の人の邪魔じゃまになってまうがな。廉太郎だけの玄関と違うんやで」

 責めるでもなし。とがめるでもなし。
 藤堂はただ、やって当たり前のことをなぜやらないのかと、言葉ではなく態度で廉太郎に問うてくる。

 廉太郎がポイポイと放り出した靴は、右足はひっくり返って靴底くつぞこを見せているし、左足ははるか遠くへはね飛ばされてあらぬ方向を向いている。
 確かに、いま他の人が帰ってきたなら邪魔になるだろう。

 けど、でも。この時間はほとんど人が出入りしないことを、廉太郎は知っている。

「ちょっと行って置いてくるだけなんだから、別にいいじゃん」

「そんでも、廉太郎が帰って来たとき、誰かの靴が散らかっとったらイヤやないか?」

「それはそう、だけど……」

 部屋へランドセルを置きに行って戻ってくるまで、数分もかからない。
 なんなら、この会話をしている時間で行って戻ってこれただろう。
 どうせ誰も出入りしないのに。
 今日は急いでるってちゃんと伝えたのに。
 なんで邪魔・・をするんだと、廉太郎は不満そうに下唇を突き出す。
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