愚かな道化は鬼哭と踊る

ふゆき

文字の大きさ
上 下
57 / 63
【護り人形】

拾捌

しおりを挟む
 ベニ姐さんは、ベニマシコという小さくて可愛らしい野鳥の姿を模倣している。くりくりした目元は愛らしく、小首を傾げた姿には、あざといくらいの愛嬌がある。ドヤ顔だとて言わずもがな。
 一件落着とでも言いたげなその態度に一瞬誤魔化されかけ、けれど。
 狗呂がオレの占有権を主張するかのごとくビスクドールを前足で遠くに押しやろうとする姿を見て、はたと我に返る。
 ここで流されたらどさくさ紛れにこの人形を押し付けられるのは目に見えている。押し掛け式鬼なんてもの、九十九と狗呂だけでじゅうぶんだってえのに、畜生!

 九十九と狗呂に精神的に依存している時点で、オレに拒否権なんてものはないらしい。
 と、いうか。御多分に洩れずこの人形も、勝手にオレの式鬼に収まっていやがったのだ。

「ま、無理に祓って壊しちまうよりゃマシな結果か。現物が無事なら、何とでも言いくるめられるからな」

 佐久間のおっさんが肩に戻ってきたベニ姐さんを撫でながら人の悪い笑みを浮かべ。

「でもまた龍くんのところに強力な物の怪が増えちゃいましたよ?」

 佐津川さんが、困った子だとオレを見て。

「だが、狗呂が『矛』で人形が『盾』だと考えれば、龍之介を現場に連れて行きやすくなったと思わないか?」

 尼子さんが、便利になったと手を叩く。
 今までは、狗呂という攻撃手段を持っていても、自衛手段を持たないオレを現場に連れて行っては危険が伴うかもしれないと、多少は遠慮をしていたのだそうだ。
 これで気軽に現場へ連れ出せるようになったと、尼子さんが朗らかに笑う。

 いや、待て。確かに、行く宛のない情ならオレにくれと思いはした。
 でもそんなの、ただの感傷だ。オレの親はあんな風で、愛情なんてものはオレに一欠片とて寄越さなかった。
 だから、死してなお子を想う親の愛情を、ほんのちょっと羨ましく感じただけで、本気でオレのモノにしたかった訳じゃあない。
 付け入る隙を与えたおまえが悪いとか言われても、困る。

「あー、じゃあ名前だ。龍くん、そのビスクドールに名前つけてあげて。属性がぶれないよう『守護』の意味がある名前にしてよ?」

 増えたモノは仕方がない。せめて『人形師』の部分が暴走しても『護り』に特化するような『属性』を刷り込んでしまえと、佐津川さんがいい笑顔で圧をかけてくる。

 尼子さんも佐津川さんも、切り替えが早すぎるというか、ちらっとベニ姐さんの方を見てからオレに全部押し付けて終わろうとしないでくれませんかね?
 今からでもなんとか……なるなら、ふたりしてオレに押し付けてくる訳ないか。
しおりを挟む

処理中です...