愚かな道化は鬼哭と踊る

ふゆき

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【護り人形】

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 オレにまわされてくるのは実害のない代物ばかりだがそれでも。毎日毎日、曰く付きだとされる品物に憑いた怪異の話を聞いて、離れてくれないかと交渉したり幽鬼の愚痴を聞いたりするのはそれなりに気が滅入る。

「怪異と普通に会話出来る事がすでにおかしいってわかってる? 普通はとり殺されるのがオチだよ?」

 虎蔵にも、妄執に囚われた幽鬼なんかはこちらの言葉を聞いてはいても理解はしていないから話は通じないというのが定石だとよく言われるが、延々と話していれば、なんとなくピントが合ってくる。
 相変わらず、主張してくるのは己の未練や妄執ばかりだが、合間合間にこちらの存在を認識するようになっていき、最終的にはなんとか、向こうの要求を引っ張り出せるようになる。

 言葉を交わすことでこちらに意識が向き、曲がりなりにも会話が出来るようになるのではないかと思っていたら、佐津川さんに苦笑しながら否定された。
 『こちらに意識が向く』イコール『害意を向けられる』という事らしい。

「って、んな危険性のある事をひとりでやらされてるの、酷くないですか?」

「酷くないない。ちゃんとオフィス内でやってもらってるし、龍くんには狗呂くんがいるでしょ」

 佐津川さんの見立てによると、犬神である狗呂は、そこそこ力のある怪異らしい。オレにしてみりゃ見てくれはどうであれ、食いしん坊の甘えたがり。虎蔵とじゃれるのが好きなやんちゃ盛りの若犬だ。

「ちゃんと番犬がいるんだし、佐久間班長が選別して持ってきたものなら大丈夫大丈夫」

「班長、アイツがまだ本調子じゃないの、考慮してくれてますかね?」

 虎蔵と取っ組み合いの喧嘩が出来る程度には回復してはいる。だが、九十九に威圧されただけで引き下がるし、日中のほとんどの時間を、オレの影に潜って休んでいるんだ。
 『犬神』としての力を当てにして選別した仕事が狗呂の手に余るようではいただけない。
 九十九によれば、狗呂はまだ人で言うなら病み上がりの状態だ。本調子でもないのに無理をさせて狗呂がもし暴走でもしたら、オレだけじゃあ手に負えるはずもなく。まかり間違って狗呂が押し負けるようなことになれば、オレにはどうしようもない事態になる。

「え、嘘。アレでまだ不完全なの!?」

「まだ毛並みがボロいままですし」

 触れるんなら手入れも出来るだろうと洗ってブラッシングをしてやろうとしたのだが、何故か洗っても洗っても汚れが落ちず唸っていたら、九十九が『回復中だから無理』だと伝えてきたのだ。
 狗呂の見た目がぼろぼろなのは、ある程度『犬神』を生み出す過程のせいではあれど、完全復活すれば、姿形は自由自在。みすぼらしい毛皮もさらふわになる、とは九十九談だ。
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