30 / 85
その9. 今日はツイてない
(3)
しおりを挟む
とっさにまわりを見回し、目に付いた斜め前の赤い看板の店を指さした。
「あそこに入りませんか」
「でもそこ、中華料理屋ですよ」
確かに看板には『南華飯店』と書かれている。美晴は今まで入ったことはなかったが、確か美味しいと評判の店だったはずだ。炒飯となにかが有名だったはずだが、そこまで詳しくは覚えていない。とはいえさすがにイタリアンから中華のギャップは激しすぎたようで、健斗の声が戸惑っている。
「いいです。パスタもラーメンも、どっちも麺です」
あえて言い切り、安心させるようににこりと微笑んだ。もともとイタリアンも美晴のリクエストではない。ここで一から店選びをするくらいなら、目の前にある店に入った方が得策だと思えた。健斗も自分が食べたい店としてイタリアンを決めたのでは無かったのだろう。美晴の笑顔におされて、中華料理屋の扉を開ける。
「……あれ?」
なんだか勝手の違う店の雰囲気に戸惑い、健斗が小さくつぶやいた。多分いつもなら威勢のよい声がかかるはずだろう店内は、何故かしんとしている。
てっきり誰もいないのかと思えば、厨房では鍋を振って調理している音が聞こえる。そして店内にはチラホラと客もいた。だが、誰もが声を出さずに無言で食事をしている。雰囲気の微妙さに気付かず中まで入ってしまったため、今更出るわけにもいかない。健斗が先にテーブル席に着き、美晴もその向かいに座ると、ゴンッという音と共にお冷が置かれた。
「いらっしゃいませ」
全然歓迎していない様子で女性の店員が言うと、それ以降は無言を貫くつもりか、黙ってメニューを差し出される。明らかに不機嫌そうな彼女の表情。その迫力にのまれて、二人も押し黙ってしまう。
「……あの、ここで良かったでしょうか?」
店員が奥に去っていく後ろ姿を見ながら、美晴がそっと健斗に聞いた。成り行きとはいえ、この店を決めたのは美晴だ。お冷まで出されてから店を変えるのもどうかと思うが、それをしても仕方ない状態とも思えた。
健斗はそんな困った表情の美晴を見つめ、それから思案するように店内を見回す。
「食べて出ますか。俺はラーメンで」
さっさと食べて出ていく作戦だ。美晴に文句は無く、勢いよく首を縦に振る。
「あそこに入りませんか」
「でもそこ、中華料理屋ですよ」
確かに看板には『南華飯店』と書かれている。美晴は今まで入ったことはなかったが、確か美味しいと評判の店だったはずだ。炒飯となにかが有名だったはずだが、そこまで詳しくは覚えていない。とはいえさすがにイタリアンから中華のギャップは激しすぎたようで、健斗の声が戸惑っている。
「いいです。パスタもラーメンも、どっちも麺です」
あえて言い切り、安心させるようににこりと微笑んだ。もともとイタリアンも美晴のリクエストではない。ここで一から店選びをするくらいなら、目の前にある店に入った方が得策だと思えた。健斗も自分が食べたい店としてイタリアンを決めたのでは無かったのだろう。美晴の笑顔におされて、中華料理屋の扉を開ける。
「……あれ?」
なんだか勝手の違う店の雰囲気に戸惑い、健斗が小さくつぶやいた。多分いつもなら威勢のよい声がかかるはずだろう店内は、何故かしんとしている。
てっきり誰もいないのかと思えば、厨房では鍋を振って調理している音が聞こえる。そして店内にはチラホラと客もいた。だが、誰もが声を出さずに無言で食事をしている。雰囲気の微妙さに気付かず中まで入ってしまったため、今更出るわけにもいかない。健斗が先にテーブル席に着き、美晴もその向かいに座ると、ゴンッという音と共にお冷が置かれた。
「いらっしゃいませ」
全然歓迎していない様子で女性の店員が言うと、それ以降は無言を貫くつもりか、黙ってメニューを差し出される。明らかに不機嫌そうな彼女の表情。その迫力にのまれて、二人も押し黙ってしまう。
「……あの、ここで良かったでしょうか?」
店員が奥に去っていく後ろ姿を見ながら、美晴がそっと健斗に聞いた。成り行きとはいえ、この店を決めたのは美晴だ。お冷まで出されてから店を変えるのもどうかと思うが、それをしても仕方ない状態とも思えた。
健斗はそんな困った表情の美晴を見つめ、それから思案するように店内を見回す。
「食べて出ますか。俺はラーメンで」
さっさと食べて出ていく作戦だ。美晴に文句は無く、勢いよく首を縦に振る。
10
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【R18】隣のデスクの歳下後輩君にオカズに使われているらしいので、望み通りにシてあげました。
雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向け33位、人気ランキング146位達成※隣のデスクに座る陰キャの歳下後輩君から、ある日私の卑猥なアイコラ画像を誤送信されてしまい!?彼にオカズに使われていると知り満更でもない私は彼を部屋に招き入れてお望み通りの行為をする事に…。強気な先輩ちゃん×弱気な後輩くん。でもエッチな下着を身に付けて恥ずかしくなった私は、彼に攻められてすっかり形成逆転されてしまう。
——全話ほぼ濡れ場で小難しいストーリーの設定などが無いのでストレス無く集中できます(はしがき・あとがきは含まない)
※完結直後のものです。
優しい微笑をください~上司の誤解をとく方法
栗原さとみ
恋愛
仕事のできる上司に、誤解され嫌われている私。どうやら会長の愛人でコネ入社だと思われているらしい…。その上浮気っぽいと思われているようで。上司はイケメンだし、仕事ぶりは素敵過ぎて、片想いを拗らせていくばかり。甘々オフィスラブ、王道のほっこり系恋愛話。
私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~
景華
恋愛
顔いっぱいの眼鏡をかけ、地味で自身のない水無瀬海月(みなせみつき)は、部署内でも浮いた存在だった。
そんな中初めてできた彼氏──村上優悟(むらかみゆうご)に、海月は束の間の幸せを感じるも、それは罰ゲームで告白したという残酷なもの。
真実を知り絶望する海月を叱咤激励し支えたのは、部署の鬼主任、和泉雪兎(いずみゆきと)だった。
彼に支えられながら、海月は自分の人生を大切に、自分を変えていこうと決意する。
自己肯定感が低いけれど芯の強い海月と、わかりづらい溺愛で彼女をずっと支えてきた雪兎。
じれながらも二人の恋が動き出す──。
[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。
ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい
えーー!!
転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!!
ここって、もしかしたら???
18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界
私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの???
カトリーヌって•••、あの、淫乱の•••
マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!!
私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い••••
異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず!
だって[ラノベ]ではそれがお約束!
彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる!
カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。
果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか?
ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか?
そして、彼氏の行方は•••
攻略対象別 オムニバスエロです。
完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。
(攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる