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第8節 フィリア騎士学園本校地下・世界の深奥編

第294話 覚悟と決意の剣

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夜の森林公園に…剣と拳で斬り結ぶ轟音が響き渡り、その衝撃で周囲の物が吹き飛ぶ。ぶつかり合いにより地面に大穴が次々と空き、お互いの技が闘気が相手を喰らおうと鬩ぎ合う。


リーゼ「さすが『剣鬼』と呼ばれるだけある…大剣の戦闘スタイルに変えて、たった7年でかつてのキールくん以上になっているとはねぇ。

その蒼の剣を使いこなすために、相当な努力をしたんだろうね。だが悲しいかな…その大剣では、君の思った通りに動けてないんだろ?」

アイリス「っ!?」

リーゼは自身の一部を液体化させ、4本の小さな杭の形に変化させる…それを硬質化させ、杭をアイリスに投げつける…

超速で飛ぶ杭をアイリスはかろうじて回避…外れた杭は木々を簡単に貫く。


アイリス「ふっ…はぁああっ!」

リーゼ「大剣はリーチとパワーが持ち味だが、その分小回りが利かない。

かつて君が得意としていたフェイントを混ぜ込んだ素早い動きなどが、その大剣では思うように上手くいってない…それにより、動きのところどころに綻びが出てしまっている…それでも単純な剣捌きでは、かつてのキールくんの上をいくのだから、本当に恐ろしい才能だよ。」

リーゼは剣撃をも軽くいなし、常人には考えられない身軽な様子で、剣閃のギリギリの隙間を縫い攻撃を躱す。


リーゼ「キールくんに託された剣を使いこなそうとしているみたいだけど…重い大剣では、君の持ち前の速さなどが活かしきれていない…今の現時点ではね。

まあ大剣を振るうことで、常に一撃必殺を求める心は、以前より強まってるようだけど。」

アイリス「それはリュネの技…!」

リーゼは硬化された腕で剣を殴り飛ばし、その衝撃で自分から遠ざけ距離を空ける。

そして腕をアイリスに向けて翳すと、リーゼを守護するかのように千変万花、様々な形状・特徴を持った大量の剣が浮遊する。


アイリス「くっ!」

リーゼ「重い大剣じゃ、対応できないよ…かつてのキール君も、オーレリア君と2人がかりで対応する必要があったからねぇ。」

大量の剣が独りでに、勢いよく敵たるアイリスに殺到する。

リュネメイアが魔剣公主と異名をとるきっかけになった技の1つ…攻め入る敵を一斉に葬るもの。

アイリスは迫る剣を撃ち落とし続け、けたたましい金属音が鳴り響き…撃ち落とせなかった剣により、アイリスは傷ついていく。


アイリス「はぁはぁ」

剣の攻撃の第1波を弾き返す。しかし、まだまだ大量の剣が周囲に浮遊している。

リーゼ「別の武器を1から極めようとはせず、以前の戦闘スタイルを極めることに専念していたのなら、君は最強の剣の使い手になっていたのにねぇ…君の7年間の努力は無駄だったみたいだ。」

アイリス「……無駄なことなんて1つもない…大剣の道を極めようとしたからこそ、大剣を託されたからこそ…想いも、新たなものも得て…私が目指す『蒼天の極地の剣』にも近づける。」

アイリスは、両手で持った大剣を胸の前に掲げ、瞳を閉じる。


アイリス「ーーーモードチェンジ・ブレイブフォーム」

手に持つ蒼の大剣が、まばゆい蒼の光を放ち…光が収まると…大剣は、蒼色の細剣へと姿形を変化させていた。


リーゼ「……なんだい…それは」

アイリス「いくよ」

リーゼ「!」

蒼の細剣を手に、向かってくるアイリスを…リーゼは、浮かぶ剣で迎撃しようとする。


アイリス「ふっ!」

その迫る大量の剣を…アイリスは軽やかに跳躍し、身体を空中で軽やかに数回転させて、攻撃を回避し…

魔力による身体の運動能力を極限まで高めながら…一ヶ所に留まらず連続した跳躍により、剣の波を避けながら前進して…

蒼色の細剣を携えつつも、まるで舞っているかのような、非常にアクロバティックな動きを常に維持していた。


アイリス「リュネの技は、私が1番よく知っている…本物じゃない複写で、今の私を止められるとは思わないでね。」

リーゼ「この動き…かつての『剣鬼』そのもの…。武器が大剣から、細剣に変わったからか…しかし…剣のその変化は…まさか…。」

剣の波を最後は細剣で弾いて突破し、リーゼに肉薄し…跳躍したアイリスは、そのまま細剣を縦に振り下ろす。


リーゼ「速い…が、大剣でなくなった分、それではリーチが足りないよ。」

それをリーゼはバックステップして、攻撃範囲から逃れた…。

アイリス「残念だけど、これは『大剣』だよ」

リーゼ「!?」

かにみえたが…蒼の細剣の穂先などが分解され、バラバラになったそれを蒼の魔力が流動して繋ぎ、蒼の魔力刃の大剣に形態を変えた。

サイズが大剣に変わったことで攻撃範囲が伸び、避けきれずその魔力刃がリーゼに直撃…爆音とともに土煙が巻き起こる。


リーゼ「……魔力…エネルギー内蔵型の剣…。必要に応じて細剣から、瞬時に大剣形態へと変化し…魔力刃を展開するのか。

なるほど、たしかにそれなら、速さもパワーもリーチも調整できて、あらゆる戦闘状況に対応可能というわけだ…どうやら『剣鬼』の全てを発揮できる『形態』のようだねぇ。」

土煙が晴れると、そこにはダメージを受けたリーゼがいた。

通常は細剣のため、小回りが利くようになり…それでいて、アイリスの意思で魔力が内部で流動し、穂先を分解する事で自在に剣のサイズを変えられるように。


リーゼ「持ち手に合わせて、形態を変化させる魔王殺しの剣…その力を勇者の血筋以外が使えるとは…いや…。

どちらにせよ、色々と興味深い…それで? いつからそれを使えるようになったんだい?」

アイリス「コトリのおかげで過去の記憶が戻って、キールから託されたこの剣の意味を思い出し…『覚悟と決意』を決めてからだよ。」

覚悟は、キールを私の手で斬ること…。
決意は、コトリと共に取り戻すこと…。
その『覚悟と決意に剣が共鳴』してくれた結果、この形態が生まれた。

アイリス「あなたの言う通り、この今の状態は…かつての剣スタイル、今の剣スタイル…その全てを活かせる。『剣鬼』の全てを余すことなく発揮させてくれる…これなら、あなたにだって届くよ…リーゼ」

リーゼ「はは…面白い! ならばこちらも全力で相手をしてあげるよ!」

闇色の魔力を全身に纏ったリーゼと、蒼色の魔力を纏ったアイリスが衝突し合う。


アイリス「あああああ!! ふっ!!」

フェイントなどで相手を翻弄しながらも、上下前後左右あらゆる角度から『回転』を加えた怒涛の連続攻撃は『剣鬼』の名に相応しく…変則的かつ苛烈な剣筋は、襲いくる剣の弾丸すら全く問題にしないようだ。

その剣戟を防ぎきれないリーゼは、硬化していても少しずつダメージが蓄積していく。


リーゼ「私が対応しきれない速さに、硬質化を僅かに上回るほどの攻撃力…はは! いいね! 最高だよ剣鬼!」

アイリス「っ…らぁああああっ!!」

液体化させ、地面に潜ませていたものが浮遊し、2人を囲む…それが硬質化し、いくつもの鉄球と化す。

リーゼは気体化し…自身は当たらなくすると、大量の鉄球が隙間なく2人目掛け放たれる。

回避出来ないと判断すると、アイリスの意思で大剣形態に変化…横に回転し広範囲を薙ぎ払って、鉄球全てを弾き落とす。


瞬時の判断で、細剣と大剣を切り替え…2種の剣を、2種の戦闘スタイルを、臨機応変で絶妙に使いこなす離れ業をみせる。

全てが噛み合った、今のアイリスの剣は…鬼のように荒々しくも、仏のような静かな剣時があり起伏が激しく、かつ常に必殺を求める…流麗な攻防一体に昇華された剣技。

想いにより…アイリス=レイフィールドの本来の剣が、更なる発展を遂げた。


リーゼ「この私を圧倒するとはねぇ…褒めてあげるよ、素晴らしい強さだ…剣筋などから君の強い想いが伝わってくるよ。

今の君は、かつてのシリウスくん以上だ…ここまでは、だがね。」

アイリス「それはシリウスおじさまの…!」

リーゼは自身の液体化で剣の形を作り、硬化させ強靭な剣を生み出し、その刃に闇色の霧の魔力を纏わせ…そしてシリウスの『光の奥義』を発動させ、リーゼの…闇魔力纏う翼生えし剣を天高く掲げる。

固体化の強度を引き上げたのか、リーゼの全身が深い闇色へと染まる。


リーゼ「君の覚悟と決意…その『想い』が真なるものなら、この技を…その『輝き』で断ち切ってみせてくれよ、人間」

アイリス「……証明してみせるよ…今私が放てる最高の技で」

リーゼを迎え撃つため、私は細剣に想いと魔力を込める…まるで空を表したかのように刀身が濃い紫みの鮮やかな青色に染まる。


リーゼ「さあ! いくよ剣鬼っ!!」

アイリス「『襲色瑠璃波奏の剣』っ!!」

シリウスの奥義に、リーゼの能力を上乗せした剣技。対するは、キメラすら切り裂いた剣技。

光と黒が混じる剣と、青色に染まった剣が交差する。お互いの技の威力により爆発が起こり、土煙をあげ、周囲の木々が暴風で吹き飛ぶ。


そして、土煙が晴れると、そこには…。

アイリス「!?」

紺色の髪、真紅の瞳でその中心には星の紋様、額に真紅の逆十字紋様、褐色の肌、闇色の甲冑を身に纏ったやや小柄な女性が…その片手ずつで、アイリスとリーゼの剣を受け止めていた。

その現れた女性を見て、アイリスは驚きの表情をみせる。


「帰りが遅いから、迎えにきた。」

リーゼ「面白くなってきたところだったんだけどねぇ…まあ、仕方がないか。しかし…まさか『王』自ら迎えに来てくれるとはねぇ。」

リーゼと甲冑の女性、フェアラート、セレスとレイチェルの地面に転移魔方陣が浮かびあがり…そして、転移が始まる。

思考が追いついてなかったアイリス…そんな彼女が、何とか絞り出した言葉が漏れる。

アイリス「あなた…は…キール…なの…?」

「……私はあの『2人とは違う』…私は『魔王』…常世の世界を支配する者」

それだけ言い残し、魔王はその場から去った……。
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