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第7節 過去編 人魔大戦 キールとマサキ
第172話 堕ちたる緋の真祖と黒き焔
しおりを挟むティフィア「安心するといい。
言葉は悪いが覚醒したとしても、常日頃から覚醒状態が続かない未熟者にお姉さんは倒せない。
……とはいえ……これが吸血鬼の真髄の一端……
ただの人間なら存在することさえ難しいだろう、魔力濃度が高すぎる。人体に深刻な影響を与える値だ。
なかなか見聞に値するものと見えるよ」
やや足を前後に構え少し姿勢を低くして、指で輪の形を作り口元に添える。
ティフィア「……『我が吐息によりて、真実を照らし顕現させよ』……すぅうう……!!」
大きく息を吸い込んだ次の瞬間、黒き焔が濁流のように口元から一気にオフェリア目掛けて迫り、回避する間もなく彼女を呑み込む。
しかしその黒き焔は彼女の皮膚も、髪も、服も……
『何も焼いていない』
オフェリアが自身の異常に気付き始めた、その直後からその黒き焔は、まるで意思を持ったかのように彼女の身体から離れ少し離れた地面に集まり揺らめき始める。
ティフィア「暴走の感覚すらないし、体調はいつもより万全なくらいの感覚だろう。
……龍は、様々な効果のある吐息を用いる。
書物で見たことはあるだろうね。
口から炎を吐く龍の姿を。
これは、その内の1つ。
といってもお姉さんの『オリジナル』だがね」
黒き焔の揺らめきが強くなるに従い、褐色の肌は元の色に染まり直し瞳の色や魔力波形も元に戻り直す。
しかし……唯一、『彼女の眼帯で封じられていた眼』は その色を失い、光を失い……視界が途切れているのが外見からもはっきりわかった。
ティフィア「……オフェリア君。
話は簡単だよ。
彼女に『勝てば』いい。
それで君は……より強くなれるだろう。
お姉さんが約束してあげよう。
ただし…………」
黒き焔は更に独りでに燃え上がり、やがて人の形を作った。
褐色の肌、緋色の両の瞳。
まるで宝石のような輝きを照らす白銀色の髪。
全身からは赤黒い魔気を溢れ出させる彼女。
オフェリアの姿を。
ティフィア「彼女が勝てば、彼女が『オフェリア』になる。」
緋色の瞳を向ける彼女は口元を吊り上げて、小さく笑い親しげに話しかけた。
「ふふ♪変な気分ね。
目の前に自分が存在しているなんて。
空想小説によくありがちな展開で、拍子抜けって感じかしら?
でもまあ、少しは感謝してほしいものね。
『私』の魔眼でいろいろ助かったでしょ。」
穏やかに自分を見つめていた視線をしかし、ひどくうんざりしたような軽蔑の眼差しに変えて、鋭い言葉を続け様に投げ掛けた。
「まあ使い方は、ほんとに『ゴミ』だったけどね。
マサキとかいう、半端な人間モドキもそうだけど。
どうして『人間』なんか助けてるわけ。
あんなに近くに常日頃からいるなら、早く消しなさいな。
どうせ裏切られてまた傷付くだけなのが、まだわからないのかしら。
私ともあろうものが、長生きしすぎて過去に人間どもに何をされたか忘れるくらいボケたってこと?」
ーーーー
オフェリア「へぇ…言ってくれる…じゃない…っ…この状態なら…ふぅ…2つの『終極魔法』だって…んっ…不完全だけど放つことだって…くっ…出来る…のよ…。」
『狂化』が進むにつれ 自分の思考力が低下していく…気を抜くと全てを破壊し尽くせと言う『憎悪の声』に意識を持っていかれそうだ…
本来は真祖として神気を纏うはずなのだが…闇に堕ちた私は魔気を代わりに纏っていた…。
この状態を簡単に説明するなら ダークエルフと同じ感じだろうか…
闇に呑まれた…または闇に愛されたエルフは 悪魔や邪神から恩恵を授かる代わりに…
ダークエルフへと堕ち…闇の力で厄災をもたらす穢れた存在とされている…。
私も『月による真祖としての本来の力』を暴走覚醒させた時…
誰か…それでこそ『魔神の類いと思われる存在と繋がった』感覚があって…
そいつから『魔眼』を授かり…この『堕ちたる真祖』の姿になり果てたのだから…。
オフェリア「はぁはぁ…っ…! ちょ…何をして…えっ…熱く…ない…? あっ…勝手に離れていった…ティフィア いったい何なのよあれ…。
確かに気分も体調も軽くなったけど……龍の吐息…書物程度の知識では知ってはいたけど、まさかこんな効果があるだなんて…。
……? な…に…これ…右目の視力が…いや…これは…魔眼が失われて…?」
ティフィアの黒き焔に呑み込まれ 私は動揺するも…熱さを感じない焔に首を傾げる。
彼女の説明を聞いて 過去の記憶を思い出していると、突然 右目が何も見えなくなり…
しかも視力だけではなく 魔眼としての力までも失われ、さらには自分の姿も…堕ちた姿から元に戻っていることに気づく。
オフェリア「ティフィア あなた いったい私に何をさせたいのっーーっな…!?
わた…し…? しかもあの姿…は…ティフィア…あなたがさせたいこと…わかってきたわ…。」
黒き焔が形作った姿を見て、私は動揺の声をあげて驚きを隠せなかった…なぜならそれは闇に堕ちた私の姿そのものだったからで…。
ティフィアの言葉に何とか頭を動かしながら 私は思考する…
勝てばいい…つまりは戦えってことよね…勝利したら力を得ることが出来る…
だけど負けたら…私はあの私に肉体の主導権を明け渡し…あの私に今の私は呑み込まれる…ということかしら…。
オフェリア「……なる…ほど…だから魔眼が私から失われたわけ…ね…。
つまりあなたはもう1人の私…しかも…『闇に気に入られた私』…なのね…。」
私が真祖として備わっていたものは『吸血鬼としての牙』と…魔力や魔法などの適性…眷属の獣である精霊獣レグルスに精霊獣フェンリル…不死の肉体とその『血と契約』だけ…
そう…本来『空間に干渉する魔眼』は後から備わったもので…そして与えられた『者』はこっちの私ではなかったということだろう…
今の状況になって 魔眼の踊り子 と呼ばれるのは、実は相応しくなかった…と私は思わずにいられなかった。
オフェリア「……あなたに言われなくても忘れてなんかいない…
たとえすぐに傷は治ったとしても…人間たちから受けた痛みも…裏切られた絶望と悲しみも…心と身体は全部ちゃんと覚えているわよ…。
でも…あなたは呆れるかもだろうけど…全員がそうじゃないと思うの…大切なもののために身を削って戦う強くて優しい人がいたり…
人間の中にだって…マサキやおじいさんみたいに吸血鬼の私に手を差し伸べてくれる…そんな優しい人たちだっている…
そんなマサキたちが…私を暗闇から立ち上がらせてくれたから…もう一度だけ…彼女らを信じてみたい…と思ってるの…
だから…彼女らと共に前へと進むために…あなたという『吸血鬼の真祖』を受け入れるために…今からちゃんと向き合うことにするわ…そのお相手をお願い…。」
差別され…騙され…助けたのに裏切られ…ボロ屑にされて…泥水を啜って生きてきた過去…
身体からその傷跡がなくなっても…何百年経とうとも忘れることができない痛み…
だけどそれから目を背けず、もう一度 マサキたち人間と歩みたいと…信じたいと思ったからともう1人の私に伝えた。
魔眼の本当の所有者にして 闇に愛され…真祖 本来の力を持つ彼女は…強い方の私で…
心も力も全てが強い私に劣る 弱い方が…今の私だけど…
リリスやティフィア…それにマサキが支えてくれたから…彼女の力になりたいから…
自分と向き合う時は今なのだと…私はもう1人の私に…信念の宿った瞳を向けて、左右にレグルスとフェンリルを呼び出し、戦闘態勢をとり…強くなるために力を貸してとお願いした。
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