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第7節 過去編 人魔大戦 キールとマサキ
第171話 助けてあげるってね…そしていつの日か…
しおりを挟むティフィア「決まりだ……ついて来るといい。
夜までは、まだ時間がある。
まずは君の力を君自身が制御するための訓練を行おう」
彼女は立ち上がると着物を肩まで羽織り、身なりを正す。
そうして四方に広がる襖のうちの1つを選び、吸血鬼を誘う。
2人が敷居を踏み越えると景色が変わる。
大地はひび割れ、乾き、干上がった光景が過酷な環境を語るとともに、空からは骨だけの姿の怪鳥が鉄を擦り付けた時のような不快な鳴き声を響かせる。
ティフィア「さて、ここなら良いだろう。
君が暴走しようと、お姉さんが魔力を放出しようともさして問題はない。
始める前に……オフェリア君。
君が知りたがっているであろう、疑問の1つにお姉さんは答えてあげよう」
足場の悪い地面を草履で進むも彼女の表情には全く変化がない。
ティフィア「お姉さんは君に一目惚れしている。
だが本来なら、いくら惚れたとは言え……『敵』の訓練を行うなどお姉さんはしない。
惚れただけなら、そのまま自分の嫁とする行為のみに時間を費やし、訓練などにうつつは抜かさないよ。
お姉さんは『奴』に仕えているのだから自陣に危険をもたらす行為などしないとも。
するはずがなかった。
『彼女』が仲立ちしなければね」
少し先まで歩くと彼女はオフェリアに向き直り、少し諦めたような、困ったような表情を浮かべた。
ティフィア「……彼女は危惧していたよ。
『もし、私の館が急襲されるようなことがあれば未だ魔力回復が万全でなく、神に準ずる存在たるオーフェは『奴』に取り込まれる恐れが高いわ。
取り込む為に貴方のもとへ運ばれるはず。
だから、貴方に頼む。
オーフェと同じように神に準ずる存在。
偉大なる賢龍たる貴方に。
吸血鬼の真祖に、力を与え、誇りを学ばせ、尊厳を与えてほしい。
友人として、かつては同じ志を共にした同胞として頼むわ。
……どうかオーフェに力を貸してあげてはくれないかしら』
……と、真摯な表情を浮かべてね。」
思い出すように遠くに目を馳せた彼女は続けた。
ティフィア「だが、お姉さんは言ったよ。
『どうして、そこまで必死になる?
そこまでの想いをもつなら、君がやるべきだろう』
すると彼女はこう返した。
『そうなったとき、私は多分、もう……いないわ。
……約束して、契約しちゃったからね♪
『助けてあげる』ってね。
私の信条に懸けて契約は遵守する必要がある。
それに……いつの日か見たいのよ。
貴方とオーフェと、あの何の才能もなかった村娘が……どんな物語を織り成すのか、ね♪』
……そうまでは言われたら、想いを汲んでやるのが、お姉さんというものだ♪」
ーーーー
オフェリア「……薄々感じてはいたけど、ここ普通の建物じゃないわね…あなたたち組織の本拠地っぽいから当然といえば当然か。
疑問? ああ…まあ それは気にはなっていたけど…メリットはティフィアたちにはあまりないからね…
あなたならさっきの条件を付けずとも 私のことを自由に出来るでしょうからね。その嫁という行為や実験でも何でもね…私がそれに屈するかはともかく。
仲立ちに…彼女…? 誰よそれ…あっ…。」
普通では考えられない…境界を超えると一瞬にしての景色の変化に軽く驚くも、ティフィアたちなら出来そうだと私は納得し…直接 目見えてわかったけど やっぱり強大過ぎる組織ね…。
ティフィアの言葉に 私は首を傾げる…彼女が仲立ちをした…? ティフィアと私を知ってる誰かよね…そんな人物は…もしかして…。
オフェリア「……リリスの奴 そんなことを…まったく…エロいことばっかり考えてるくせに…本当はお人好しで律儀な奴なんだから…。
まあ 借りを作ったままなのもあれだし…キールさんたちを助けるついでに あいつも助けてあげようかしら。」
誇り高きサキュバスの長…そしてそれを敵ながら汲んでくれたティフィアにも感謝をする…
あいつ 淫魔のくせにお人好しすぎよ…自分の身を大事にしなさいよ…助け出したら少しお説教かしら…
私とマサキがやり遂げることが増えた…でもやっぱりこちらを選んでよかった…
リリスやティフィアの想いを無駄にしなくて済んだから。
オフェリア「さて…と…ティフィア…最初に言っておくけど手加減なんて出来ないからね?
始めの1.2分くらいは何とか自我を保てるけど、途中からは『狂化』で自分でも制御が出来ず 魔力が尽きるまで『獣』として暴れ回るわ…あなたも不死だけど それなりには覚悟してね。」
彼女らの想いに触れ 私の気持ちが高まる。
首輪を一時的に外してもらった私はティフィアに警告をしておく…
もう満月の時は過ぎ去ってしまった…だけど私には『その満月の日と同じ状況』を作り出す方法がある…
2日経って魔力が戻って 万全になった状態ならその技も使えるはず…
かつて私を『広場で晒した』国を一晩で壊滅させた状態…『真祖としての本来の力』を出せる状態になる方法が…。
オフェリア「魔眼・固有結界っーー宵闇に潜む緋い月影」
私の言葉とともに魔眼が空間に干渉し…辺りが暗くなり 空には魔眼と同じ色の…赤い満月が現れ、重い空気がその場を支配する…
もちろん本物の月ではない…結界内で魔眼によって作られた私の固有世界での月だ…
この『空間結界』の能力を使用している時は『空間固定』の能力を使えなくなるが…
マサキにも話せない過去…人間を怨んでいた頃の『化け物』の私に戻ることが出来る…。
赤い満月が現れたことにより 私の身体に変化をもたらす…『肌は褐色へと染まり…右目同様に左の瞳も緋色に染まり…髪は金から白銀色へと染まり…全身からは赤黒い魔気を溢れ出させる』…
その姿は『深淵の神たる証であり…闇の王のー柱だと示すもの』でもある。
オフェリア「どう 醜いでしょ? これが『闇に愛された者の姿』よ…
『堕ちたる緋の真祖』…それが私の真名…
本来はもっと神に準ずる者として 神気を溢れさせてるはずなのだろうけど…
絶望と怒りに呑まれて力を振るった結果がこれ…今の私は神聖からは程遠い悪神よ。
……それで…ここから私は何をしたらいいのかしら…? はやく説明して…くれないと…っ…『憎悪』を抑えてられ…ないのだけど…。」
『闇に魅入られた者がなれる姿』を晒しながら、私はティフィアに尋ねる…
もちろんこの状態にもデメリットがある…これを制御しようとそっちに手一杯な今 レグルスたちを呼ぶことが出来なくなる…それに…
胸の内から溢れ出そうになる憎悪…その衝動に身を任せて破壊したくなる…私を差別した奴らも…この世界も…全部…何もかも…。
満月の時 真祖で悪神たる力を行使できる反面…新月の時は逆に力を失い…その間は弱くなって 人間たちから怯えて震えるしかなかった過去の記憶も蘇る…。
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